Annabelle Rathore

3.0

 2010年代に台頭した女優の一人にタープスィー・パンヌーがいる。ヒンディー語映画デビューは2013年で、「Baby」(2015年)、「Pink」(2016年)、「Manmarziyaan」(2018年)、「Thappad」(2020年)など、コンスタントに良作に出演して来た。彼女はデリー生まれのパンジャービーだが、ヒンディー映画デビューする前はタミル語映画やテルグ語映画で活躍していた。2021年9月17日からDisney+ Hotstarで配信開始された彼女の主演作「Annabelle Rathore」も、元々は「Annabelle Sethupathi」という題名のタミル語映画で、同時配信されたそのヒンディー語吹替版が「Annabelle Rathore」となる。このヒンディー語版を観賞した。

 「Annabelle Rathore」は、近年盛んに作られるようになったホラー・コメディーに分類される。監督は新人のディーパク・スンダルラージャン。ラジニーカーント主演「Rajadhi Raja」(1989年)などのR.スンダルラージャン監督の息子である。主演はタープスィー・パンヌーとタミル語映画界のスター、ヴィジャイ・セートゥパティ。他に、ジャガパティ・バーブー、ラージェーンドラ・プラサード、ラーディカー、ヨーギー・バーブーなどが出演している。多くがタミル語映画界のコメディアン俳優たちである。

 ルドラー(タープスィー・パンヌー)は両親や兄と共に泥棒をして生計を立てていた。ある日、警察に捕まり、ラージャスターン州の廃墟となった宮殿の清掃をさせられる。だが、その宮殿は地元の人々から幽霊屋敷と怖れられていた。十五夜にこの宮殿で食事を食べた者は死んで幽霊になってしまうのだった。

 ルドラーは十五夜にこの宮殿で食事をしたが死ななかった。その代わり、彼女にはこの宮殿に住み着いている幽霊たちが見えるようになった。幽霊たちを取り仕切るシャンムガム(ヨーギー・バーブー)の話では、この宮殿は、インド独立直後の1945年にデーヴェーンドラ・ラートール王(ヴィジャイ・セートゥパティ)が英国人の妻アナベル(タープスィー・パンヌー)のために造ったものだった。しかし、その壮麗さに嫉妬した近隣の王チャンドラバーン(ジャガパティ・バーブー)は宮殿を横取りするためにデーヴェーンドラとアナベルを毒殺した。デーヴェーンドラの忠実な下僕だったシャンムガムは、彼らの死後に宮殿にやって来たチャンドラバーンの家族を仕返しに毒殺した。こうして、宮殿には毒殺された人々の霊が住み着くことになったのだった。

 不思議なことに、アナベルとルドラーは瓜二つだった。実はルドラーはアナベルの生まれ変わりだったが、記憶を失っていた。そこへチャンドラバーンの生き残った孫が宮殿にやって来てルドラーを殺そうとするが、デーヴェーンドラの生まれ変わりであるラージャスターン州の高官(ヴィジャイ・セートゥパティ)がやって来て彼女を助ける。二人の生まれ変わりが宮殿に再訪したことで、宮殿に取り憑いていた霊たちは解脱する。ただし、全ての原因となったチャンドラバーンだけは解脱できなかった。

 元々がタミル語映画なので、タミル語映画の文法に従って作られた映画だった。大家族制が残っており、ホラーやコメディーの要素が極端で、ダンスシーンが多く、しかもそのひとつひとつが長い。洗練されたヒンディー語映画に比べたら鈍臭い雰囲気なのだが、とにかくあらゆる手段を使って観客を喜ばそうとするサービス精神が旺盛な映画だと感じた。

 この映画で最も面白く感じたのは、幽霊が生きている人間を驚かさないように気をつけている点である。幽霊たちは長いこと解脱を得られず、宮殿から出ることもできずに退屈していた。彼らが解脱を得るには、十五夜にこの宮殿で食事をし、生き残った者がいた場合のみである。今までこの宮殿で十五夜に食事をした者はことごとく中毒症状が出て死んでいた。やがて地元の人々に幽霊屋敷との噂が広まってしまったため、誰も来なくなってしまっていた。

 今回、久しぶりに宮殿に足を踏み入れた人間がいたため、何としてでも彼らに十五夜まで滞在してもらって食事をしてもらわなければならなかった。ただでさえ幽霊屋敷と言われていたので、ちょっとでも変なことがあると、すぐに逃げ出されてしまう。普通、幽霊屋敷に入ったら様々な怪奇現象が起こるわけだが、この映画では幽霊たちがなるべく怪奇現象を起こさないように慎重に行動していた。しかしながら、コメディー映画でもあるので、それはうまくいかず、ついつい怪奇現象を起こしてしまうのだった。なかなかユニークな仕掛けであった。

 後半になると、宮殿がなぜこのような状態になったのかが明かされる。やはり過去に秘密があった。デーヴェーンドラとアナベルのロマンスが、ロマンティックな歌と共にゆっくりと語られて行く。だが、大体は予想が付く展開であり、後半になるとグリップ力が弱くなる。

 ロケが行われたのは、ラージャスターン州の有名な宮殿ホテル、サーモード・パレスである。幽霊屋敷と言われている割にはきれいに整備されているため、場違い感が半端なかった。幽霊を演じる俳優たちも全く幽霊っぽくなくて、低予算映画の悲哀を感じた。欠点は多い映画だったが、コロナ禍において様々な制約の中、撮影されたことも考慮すべきであろう。

 「Annabelle Rathore」は、タミル語映画「Annabelle Sethupathi」の同時公開ヒンディー語吹替版である。幽霊屋敷を舞台にしたホラー・コメディー映画だが、インド娯楽映画らしく、あらゆる娯楽要素が詰まった明るい作品に仕上がっている。