持参金

 インドでは一般的に、婚姻時に花嫁側の家族から花婿側の家族に持参金が支払われる習慣になっている。ヒンディー語では「ダヘージ(दहेज)」、英語では「ダウリー(dowry)」と言う。持参金の内容は、現金であることもあれば、貴金属や自動車などの高価な品物であることもある。結婚式の費用を花嫁側が負うという形も持参金の一種だ。

 インドの持参金は、元々は花嫁に対する財産分与の一種だったようなのだが、現在では花婿側の家族が受け取るボーナス金のような扱いになっており、その額は年々高騰している。その額は、娘を持つ家族の大きな負担となっており、インドでは「3人の娘が生まれるとその家は破産する」とまで言われている。

 また、持参金の習慣は単なる経済的な圧迫の原因に留まらない。例えば、持参金を巡って花嫁が殺されるという、いわゆる持参金殺人事件が起きている。持参金の習慣を悪用すると、男性側の家族は結婚をするたびに持参金が入って来るため、金儲けのために、結婚後に花嫁を事故に見せかけて殺害してしまうということがある。さらに、持参金の習慣は幼児婚のひとつの原因にもなって来た。持参金が支払えない貧しい家庭は、娘が幼い内に、持参金を要求しない老齢の男性に嫁がせて片付けてしまうことがあった。そもそも、女児が生まれなければ持参金に悩むこともないため、妊娠後に胎児が女児だと分かると堕胎してしまう、いわゆる女児堕胎や、女児の間引きも横行し、大きな社会問題となっている。

 様々な社会問題の根源となって来た持参金は、既に1961年に制定されたダウリー禁止法などによって、受け渡しが禁止され罰則も規定されている。だが、結婚に際しての自発的な贈り物を規制するものではなく、ザル法となっており、持参金の習慣は今でもインド社会に根付いている。

 インドのロマンス映画において結婚は中心的な話題である。完全な娯楽作品では、縁談が進む中で持参金が問題になる例は少ないが、社会的なメッセージが込められた作品では、しばしば持参金が結婚の障害となったり、社会問題として取り上げられたりする。持参金問題を取り扱った映画は大体ダークな雰囲気になるが、驚くほどライトなタッチで取り上げた「Daawat-e-Ishq」(2014年)という変わり種もある。

 持参金は表向きないものとされているため、裏でやりとりが行われている持参金の額を正確に知ることは難しいのだが、時々映画の中でその額が言及されることがある。もちろん、社会階層によって著しく異なるだろうが、例えば、「Shaadi Mein Zaroor Aana」(2017年)では、中産階級同士の結婚において、縁談をまとめる際に両家の間で持参金の額について話し合われるシーンが出て来る。最終的に決まった額は250万ルピーだった。この額は、インドにおける大卒初任給の100倍にあたる。日本にあてはめると2,000万円以上となるだろう。確かに、家を破産しかねない額である。

 通常は持参金は花嫁側から花婿側に支払われるのだが、一部例外として、花婿側から花嫁側に持参金が支払われるコミュニティーもあるようである。「Devdas」(2002年)でパーローが属する家系は、花嫁側が持参金を受け取るコミュニティーであり、デーヴの属する家系から見下されていた。持参金の習慣を掘り下げて行くと、非常に複雑であることが分かる。

 インド映画を観る際に持参金の知識は必ず必要となるため、インドにこういう問題があるということを知っておいて損はないだろう。