Mimi

4.0

 インドでは代理母出産ビジネスが一大産業だった。2002年に合法化されて以来、特に子供のいない外国人夫婦が安価なインド人女性の子宮を求めてやって来ていた。2010年代には商業目的での代理母に段階的に制限が設けられ、現在では結婚後5年以上経ったインド人夫婦のみ代理母による出産を認めようとする動きがある。ヒンディー語映画界でも代理母はテーマになって来た。「Chori Chori Chupke Chupke」(2001年)や「Filhaal」(2002年)などである。

 2021年7月27日からNetflixで配信開始されたヒンディー語映画「Mimi」も、代理母をテーマにした映画である。監督は「Luka Chuppi」(2019年)のラクシュマン・ウテーカル。主演は「Bareilly Ki Barfi」(2017年)のクリティ・サノン。他に、パンカジ・トリパーティー、サイー・ターマンカル、マノージ・パーワー、スプリヤー・パータクなど。音楽監督はARレヘマーン。

 2013年。ラージャスターン州の地方都市に住むミミ(クリティ・サノン)はムンバイーへ行って女優になることを夢見ていた。しかし、それには大金が必要で、親友のシャマー(サイー・ターマンカル)とホテルで外国人観光客向けのダンスショーに出演し、金を貯めていた。

 そこへ、米国人夫婦ジョンとサマーがやって来る。彼らが雇った運転手バーヌ・プラタープ・パーンデーイ(パンカジ・トリパーティー)は、二人が代理母になってくれる若くて健康な女性を探していることを知り、ミミに白羽の矢を立てる。最初は難色を示したミミであったが、報酬が200万ルピーと知って目の色を変える。ミミは両親に内緒で代理母になることを承諾し、妊娠中はシャマーの家で隠れ住むことになった。

 ミミは何度目かの注入により見事妊娠する。ところが、検診によって子供にダウン症の兆候が見られると、米国人夫婦の気持ちは変わり、子供は要らないと一方的に言い放って米国に帰ってしまう。後に残されたミミは両親に妊娠したことを報告するが、夫はバーヌだと口から出任せを言ってしまう。デリーに妻のいるバーヌは困惑するが、ミミに合わせることになる。ミミは出産することを決意する。

 ミミの子供が生まれた。白人夫婦の子であるため、生まれて来た子供は白人だった。それを見た両親は驚き、子供を可愛がるようになる。白人の子供が生まれたという知らせは近所に広まり、一気にミミの家は羨望の眼差しで見られるようになる。ミミは子供をラージと名付け、大切に育てる。

 4年後。ミミが生んだ子供が健康に育っていることを知ったジョンとサマーはインドに戻って来て、ラージを連れて行こうとする。ミミや家族はそれを拒否する。ジョンは法的措置を取ろうとするが、ミミはラージを彼らに引き渡すことを決める。だが、ジョンとサマーは孤児院で女の子を養子に迎えることにし、ラージをミミの元に置いて行く。

 時代はまだインドで外国人夫婦が代理母出産をすることが合法だった2013年。金欲しさに米国人夫婦の代理母になることを承諾した女性ミミが主人公の映画である。だが、当然のことながら事はスムーズに進まない。妊娠までは良かったが、胎児がダウン症であることが分かると、米国人夫婦は子供を置いて逃亡してしまう。外国人がインドで代理母出産を試みる場合、こういうことは良く起こるようだ。後に残されたミミはその子を産むが、心配されていたようにダウン症にはならず、健康な男の子に育った。

 当初、ミミの両親は、ミミと運転手バーヌが結婚したと思っていたため、白人の子供が生まれてビックリする。だが、インドでは肌の白さは何より尊重される。出生の秘密については深く考えず、白い子供が生まれたと大喜びする。ラージと名付けられた子供は家族や近所の人気者となる。そしてやって来るツイスト。4年経った後、突然米国人夫婦が戻って来て、ラージを取り戻そうとするのである。代理母をテーマにした物語としては王道のプロットと言えるだろう。

 だが、この映画は代理母を推進する目的で作られた映画ではなかった。結末まで観ると、むしろ養子縁組を推進していることが分かる。世界中で1億5千万人以上の孤児がおり、養子縁組をしてくれるカップルを待っている。代理母出産ビジネスは、どうしても貧困層の搾取という形を取り、しかもこの映画で描かれたような法的トラブルや健康上の問題などが付きまとう。代理母出産ビジネスを栄えさせるよりは、孤児を養子にしようというメッセージが込められた映画になっていた。

 2010年代には女性が主人公の映画が増えたが、その傾向は2020年代になっても変わらない。「Mimi」も、ミミ役を演じるクリティ・サノンが中心の映画だった。そして彼女はその責任を十分果たしていた。特に出産シーンはかなり力が入っていた。クリティを支えるのが、OTT(配信スルー)映画の雄、パンカジ・トリパーティーである。近年もっとも人気急上昇中の個性派俳優であり、彼の出演する映画は何でも観たくなるほど魅力がある。今回彼が演じた、どこかとぼけた運転手バーヌ役も彼が持って生まれた雰囲気にとてもよく合っていた。ただ、中盤以降、彼がミミの家にずっと厄介になる様子には違和感があった。当初はミミの夫を演じていたため分かるのだが、ミミの夫ではないことが発覚した後もミミと一緒におり、一体いつまで居座るのか気になってしまった。

 他に、マノージ・パーワー、スプリヤー・パータクなど、パンカジ・トリパーティーに負けない個性派俳優が味のある演技をして盛り上げていた。ミミの親友シャマー役を演じたサイー・ターマンカルは、マラーティー語映画を主なフィールドとしている女優だが、彼女も好演していた。

 基本的に低予算映画だが、インド映画界の巨匠ARレヘマーンが音楽を担当しており、その点だけは豪華だ。ただ、最近のヒンディー語映画ではダンスシーンやソングシーンが減っていることもあって、彼の音楽ばかりが目立つようなことはなかった。やはりもっとも豪華で印象的なのは、クリティ・サノンの登場ソングとなる「Param Sundari」だろうが、レヘマーンらしかったのは彼自身が歌う「Rihaayi De」だった。

 「Param Sundari」の歌詞の中に「ビーカーネール」という言葉が出て来たので、舞台はラージャスターン州の中でもビーカーネールだろうと当初は思っていたが、実際にはシェーカーワーティー地方だった。物語の中で、ミミは度々ジャイプルに赴くが、ビーカーネールからだとさすがに遠く、現実的ではない。だが、シェーカーワーティー地方の都市からならば、そこまで遠くない。ただ、シェーカーワーティー地方の具体的にどの都市かまでは分からなかった。言葉についても、台詞の中にラージャスターニー方言が出て来てはいたが、主演クリティ・サノンはそんなに訛った言葉遣いをしていなかった。言葉までマスターしていれば、地方色がより出たことだろう。

 「Mimi」は、かつてインドで合法だった外国人向け代理母出産ビジネスを扱った映画と思いきや、子供のいない夫婦に養子縁組を勧める結末であった。クリティ・サノンが主演の映画である上に、パンカジ・トリパーティーなどが効果的に彼女を支えており、彼らの演技も見所だ。また、音楽監督をARレヘマーンが務めている。またひとつ、Netflixのラインナップに優れたインド映画が加わった。