祝1,000本

 2001年7月にインド留学日記ウェブサイト「これでインディア」を立ち上げて以来、インド映画の批評を書いて来た。2001年から2013年までのインド留学時代にレビューを書いた映画の数は685本だった。

 2013年3月に日本に帰国して以降、最前線でインド映画を鑑賞できなくなったこともあって、インド映画とはくっついたり離れたりを繰り返して来た。元インド在住者がインドを懐かしむブログ「バハードゥルシャー勝」に引き続き映評を掲載して来たが、以前よりも速報性、ペース、量などは低下せざるを得なかった。

 だが、新型コロナウイルス感染拡大や著書「新たなるインド映画の世界」出版を機に、2021年5月にこのFilmsaagarを立ち上げ、再び精力的にインド映画を観、レビューを書くようになった。その時点でレビューの数は950本を越えており、1,000本が間近に迫っていた。

 こうして2021年7月14日、遂に映評数は1,000本に達した。

 記念すべき1,000本目の映画は何にしようかと迷っていた。「1,000」という意味の「Hazaar」が題名に入っている映画がいいかと思って調べてみたが、意外に少ない。「Apne Rang Hazaar」(1975年/意味:自分の色は1,000色)ぐらいだ。「Inaam Dus Hazaar」(1987年)は「賞金は10,000」という意味で「1,000」ではないし、「Hazaar Chaurasi Ki Maa」(1998年)は「1084の母」という意味でこれも「1,000」ではない。「Hazaaron Khwaishein Aisi」(2005年)は惜しいが、「何千もの夢はかくの如く」という意味で、やはり厳密には「1,000」ではない。

 ちなみに、1,000本レビューを達成した「Beth Loves Bollywood」というブログでは、前述の「Inaam Dus Hazaar」を1,000本目のエントリーに選んでいる。

 段々と、あまりこだわっても仕方がない気分になって来たので、たまたま観る気になった「Ek Ladki Ko Dekha Toh Aisa Laga」(2019年)を1,000本目に選んだ。何の工夫もない。

 20年間で1,000本ということは、単純計算すると、毎年50本の映評を書いて来たことになる。1年が52週なので、毎週1本のペースだ。これが多いのか少ないのかはよく分からないが、非常に現実的なペースである。


 「これでインディア」と「バハードゥルシャー勝」の映評をFilmsaagarにまとめるにあたって、過去に自分が書いた映評を一通り読み返した。最初は単なるメモ程度に過ぎなかったものが、段々と上達し進化して行く様子が感じられ、自分のことながら微笑ましかった。

 だが、それらの映評を読み返してみて一番強く感じたのは、よくこれだけ多くの駄作を観たな、ということだ。

 1,000本中、後世に語り継ぐべき作品というのは限られており、上映される映画を片っ端から観て行ったら、どうしても駄作にぶち当たる確率は高くなる。普通に考えたら、お金と時間を無駄にした、ということになるだろう。こんな映画観たっけ、というものもたくさんあった。インド在住時代は、映画館で観た映画は必ず批評をするというポリシーを頑なに堅守していたので、どんな駄作でも何らかのことは書いているが、きっと書いた後にすぐ記憶から消去してしまっていたのだろう。

 かなり早い時期に、実際に鑑賞する前に良作と駄作を見分ける術は身に付けており、なるべく駄作は避けるように努力していたのは読み取れる。監督、俳優、上映時期や上映規模などからその作品の質を推測するようになっていた。それでも駄作を観てしまうことは避けられなかったようで、膨大な数の駄作レビューがこのFilmsaagarには収められている。

 だが、インド映画を観ていて楽しいのは、実は駄作を観ているときかもしれない。と言うより、同じ駄作を観た友人たちと、その映画の何が駄目だったのかを、あぁでもない、こうでもない、と好き勝手に語り合う時間がとても楽しかった。

 日本で海外映画を観ていて興ざめなのは、鑑識眼のあるバイヤーやキュレーターが厳選した映画しか観客の目に触れない傾向にあることだ。逆に言えば、厳選されているのでいい映画に巡り会える確率が高い。一般の人はそちらの方にありがたみを感じるかもしれない。ハリウッド映画は多少、つまらない映画でも力技で公開されてしまっているように感じるが、それ以外の国の映画は、まず間違いなく名作揃いである。そうでなければ劇場一般公開まで辿り着けないから当然と言えば当然だ。日本で公開されるインド映画も、多少の例外はあるものの、概ね一定のレベルをクリアしている作品だと言える。

 インドの現地でインド映画を観ると、そういうフィルターは掛からない。実際には、映画館で上映されている時点で、インドの配給業者のフィルターを通っているので、一定の質は保証されているはずなのだが、それでもその基準はかなりいい加減だ。鑑賞する作品の選択はほぼ完全なる自己責任という印象である。だが、その自己責任を受け入れた上で手に入る鑑賞の自由が楽しかった。そして、駄作の山の中からキラリと光る名作を独力で発見する喜びは何にも代えがたかった。

 ネット配信が主流の時代となり、気付くと玉石混淆のインド映画が日本にいながら簡単に視聴できる環境が整って来た。都市と地方の差も埋める効果があり、地方在住者としてはありがたい。かつて培ったトレジャーハンティングの血がたぎって来ている。いい時代になったものだ。


 1,000本はひとつの通過点に過ぎないので、今後も引き続きインド映画を鑑賞し、映評を掲載して行く。ただ、2,000本を達成するのに単純計算してあと20年掛かると考えると、それを目標にはしたくなくなる。あくまでマイペースでレビューをし、むしろそれをデータベースにして、今後はインド映画から見えるインド社会の現状や変化についての分析に力を入れて行きたい。