State of Siege: Temple Attack

3.5
State of Siege: Temple Attack
「State of Siege: Temple Attack」

 グジャラート州の州都ガーンディーナガルにアクシャルダーム寺院がある。ヒンドゥー教系のスワーミーナーラーヤン教団によって建設された広大な寺院コンプレックスで、グジャラート州の観光の目玉になっている。デリーにも同系列のアクシャルダーム寺院があるが、こちらは2005年にオープンした比較的新しい末寺で、本寺はガーンディーナガルのものである。この寺院はカメラも持ち込めないほどセキュリティーが厳しいが、その理由は、2002年9月24日にテロリストの襲撃を受け、30名以上が亡くなったからである。

 2021年7月9日にZee5で配信開始されたヒンディー語映画「State of Siege: Temple Attack」は、アクシャルダーム寺院襲撃事件に基づいて作られたコマンドー映画である。監督は「Chance Pe Dance」(2010年)などのケーン・ゴーシュ。主演はアクシャイ・カンナー。他に、アビマンニュ・スィン、ガウタム・ローレー、ヴィヴェーク・ダーヒヤー、アクシャイ・オーベローイ、パルヴィーン・ダバス、サミール・ソーニー、ミール・サルワール、マンジャリー・ファドニスなどが出演している。

 2002年9月24日、国家警備隊(NSG)のハヌート・スィン少佐(アクシャイ・カンナー)は、州首相チョークスィー(サミール・ソーニー)の警備のため、グジャラート州にいた。そのとき、4名のテロリストがアクシャルダーム寺院に侵入し、無差別殺人をした後、人質を取って、ジャンムー&カシュミール州で拘留されているテロリスト、ビラール・ナーイクー(ミール・サルワール)の釈放を求めた。首相はその条件を飲み、ビラールの釈放手続きが始まった。

 ビラールは、ハヌートがジャンムー&カシュミール州での作戦で捕らえたテロリストだった。アクシャルダーム寺院に駆けつけたビラールは、独断で潜入し、テロリストの掃討作戦を開始する。2名のテロリストは射殺でき、一部の人質の解放に成功したが、残り2名は人質を取って立て籠もっていた。しかも、作戦中にハヌートは負傷し、外されてしまう。

 代わりに作戦の指揮を執ることになったサマル少佐(ガウタム・ローレー)は待ち伏せに遭って死んでしまう。ハヌートは再び指揮を任され、寺院に突入する。ビラール釈放の直前に、ハヌートは残り2名のテロリストの殺害に成功した。

 実際のアクシャルダーム寺院襲撃事件は2名のテロリストによる犯行だったが、「State of Siege」では4名のテロリストによる犯行になっているなど、必ずしも実際の事件を忠実に再現した映画ではなかった。軍事作戦であるため、事件の詳細には機密も多いだろうし、映画として盛り上げるために多数のフィクション要素を盛り込んだことも考えられる。たった2名のテロリストによる犯行の割には、2名のコマンドーや2名の警察官を含む30名以上の死者を出しており、事実はあまり胸を張って誇れるほどうまく行った作戦ではなかったとの評価があるのかもしれない。何はともあれ、この映画を観て、実際の事件の様子を知ろうとするのは危険である。

 ただ、アクシャルダーム寺院襲撃事件があった2002年の初頭にはグジャラート暴動があり、グジャラート州ではヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の間で緊張状態が続いていた。その割には、このアクシャルダーム寺院襲撃事件後に似たような暴動などはなかった。普通に考えたら、イスラーム教徒テロリストによるヒンドゥー教寺院襲撃事件であるため、ヒンドゥー教徒によるイスラーム教徒への報復がありそうなものだ。アクシャルダーム寺院襲撃事件に関しては、それが見られなかったと言う。その点ではうまく処理することができた事件だったと言える。その影には、スワーミーナーラーヤン教団の長プラムク・スワーミー・マハーラージの尽力があった。マハーラージは、テロの犠牲者のみならず、射殺された2名のテロリストに対しても、魂の平安を祈った。その様子は、「State of Siege」でも再現されており、「暴力には非暴力で対抗すべし」という映画の重要なメッセージとなっていた。それがあったから、崇高な映画になっていた。

 アクシャルダーム寺院襲撃事件があった当時、州首相はナレーンドラ・モーディーが務めていた。2014年から中央政府の首相を務めている人物である。Zee5は親モーディーの映像作品を好んで公開する傾向にあり、この「State of Siege」もその一本に数えていいだろう。映画の中で、チョークスィー州首相がテロの現場に駆けつけるシーンがあり、少しだけ存在感を示していた。

 主演のアクシャイ・カンナーはトラウマを抱えるコマンドー部隊長として、硬派に演じ切っていた。最近出番は少ないが、渋い俳優に成長した。意外な配役として「Rakht Charitra」(2010年)などに出演していたアビマンニュ・スィンがいるが、彼はこの映画のクリエイターにも名を連ねており、彼が中心になってプロジェクトを進めたと予想される。今後は俳優としてでなく、メーカー側として映画作りに関わって行くのだろうか。

 「State of Siege: Temple Attack」は、2002年のアクシャルダーム寺院襲撃事件をベースに、フィクションを織り交ぜて作られた、硬派なコマンドー映画である。緊迫感あふれる映像と、崇高なメッセージでまとめ上げられた最後により、同様の作品群の中では一段上の映画に収まっている。