年間製作本数

 インドは世界最大の映画大国とされてるが、その第一の根拠は年間製作本数の多さである。その数は長年世界一だ。

 しかしながら、一般に「製作本数」とされている数字は、純粋にその年に製作された映画の本数でもなければ、ましてや実際に公開された映画の数でもなく、注意して見なければならない。

 インド映画を語る際、一般に「製作本数」として扱われている数字は、インド中央政府情報放送省下にある中央映画検定局(Central Board of Film Certification, CBFC)という機関が検閲し、上映を許可した映画の本数である。よって、正確には「認証(Certified)本数」と呼ぶのが正しい。

 もちろん、製作されたが検閲を通らなかった映画も存在するし、認証されても一般に公開されなかった作品も存在する。

 また、CBFCは、映画館で上映される「映画(Celluloid/Digital)」と、それ以外の「ビデオ(Video)」を明確に分けており、一般に「映画の製作/認証本数」と言った場合、そこにビデオ映画の数は含まれない。時々、ナイジェリアの方がインドよりも映画の製作本数が多いという言説を目にするのだが、ナイジェリアはビデオ映画が盛んのようである。もしビデオ映画も含めるとなると、インドの映画製作本数は桁違いの多さとなり、ますます世界一の地位は揺るがなくなる。

 CBFCは長年、年次報告書をPDFにしてウェブサイトで公開してくれていた。それを見れば、特定の年の年間認証本数が分かったのだが、2016年の年次報告書を最後に、2017年以降は公開されなくなってしまった。2001年から2016年までの本数は以下の通りである。

2001年1013本
2002年943本
2003年877本
2004年934本
2005年1041本
2006年1091本
2007年1146本
2008年1325本
2009年1288本
2010年1274本
2011年1300本
2012年※1724本
2013年※1966本
2014年※1845本
2015年※1903本
2016年※1986本

インドの長編映画年間認証本数(≓年間製作本数)2001-2016年
CBFC年次報告書より

 ただし、注意しなければならないのは、2011年までと2012年以降で、年の数え方が違うことだ。2011年までは1月から12月までを1年としているが、2012年以降(表中で※の付いた年)は4月から翌年3月までを1年としている。つまり、2012年の1月~3月の間に検閲された映画の本数が上の表から抜けてしまっている。なぜこういうことが起こったのか分からないが、統計に穴が空いているのは残念なことだ。

 また、上の表からは見えて来ないが、2010年代に記録媒体の大転換が起こっている。2011年まではセルロイドフィルムに記録された映画の検閲のみが行われていたが、2012年以降はセルロイドとデジタル両方式の映画の検閲が始まり、しばらく併用期間が続いた後、2016年にはCBFCに提出される映画はほぼデジタルのみとなった。この期間に、インドではセルロイドフィルムを使った映画製作は絶滅したと考えていいだろう。それと時を同じくして認証本数の激増があった。デジタル機器で映画の撮影が可能となったことで、コストや映像の扱いやすさなどの面で映画製作の敷居が一気に下がり、映画製作人口や映画製作本数が一気に増えたと推測される。2006年と2016年を比較すると、認証本数はほぼ2倍になっている。

 CBFCとは別に、情報放送省が年次報告書を出しており、そこでは映画分野についても触れられている。情報放送省年次報告書については、2017年以降も年次報告書が出ている。認証本数も掲載されているのだが、4月から10月とか、4月から12月と言った具合に、1年通しの期間のデータではないため、使い物にならない。

 CBFCは、年次報告書ではないが、「新規発行認証(Latest Certificates Issued)」というコーナーで、2018年以降、認証された長編映画のリストを年ごとに公開している。国産映画(Indian)と外国映画(Foreign)がごちゃ混ぜになっている上に、年次報告書のように集計されていないため、そのままでは使い勝手が悪いのだが、これを精査して活用すれば、2018年以降の年間認証本数を算出することができる。ただ、残念ながら2017年は抜け落ちてしまっている。

 CBFCの「新規発行認証リスト」から算出した、2018年以降のインド映画の年間認証本数は以下の通りである。

2018年2365本
2019年2582本
2020年1259本

インドの長編映画年間認証本数(≓年間製作本数)2018-2020年
CBFC Latest Certificates Issuedより

 なお、2018年以降は再び、年の数え方が1月から12月までに戻されている。2018年には2,000本を越えたが、2020年には新型コロナウイルス感染拡大による映画館封鎖などの影響で、認証本数が半減してしまった。

 インドの映画製作、配給、興行業者の組合であるインド映画組合(Film Federation of India, FFI)もウェブサイトで認証本数を公表している。ソースは前述のCBFC年次報告書である。なぜかこちらでは2018年度までの認証本数が掲載されている。やはり年の数え方は4月から3月までだが、2017年と2018年の認証本数は以下の通りである。

2017年※1814本
2018年※2446本

インドの長編映画年間認証本数(≓年間製作本数)2017-2018年
FFIウェブサイトより

 2018年の認証本数がCBFC「新規発行認証リスト」と合わないのは、繰り返すが、年の数え方が異なるからだと考えていいだろう。

 これらのデータをつなぎ合わせれば、2001年から2020年までの認証本数を知ることができる。

※2001年~2011年までと、2018年からは、1年は1月から12月まで。2012年から2017年までは、1年は4月から3月まで。つまり、2012年1月~3月の認証本数が含まれておらず、2018年1月~3月の認証本数が重複している。


 インド映画ファンは、インドが「世界最大の映画大国」であることを誇りに感じている。そのため、他国との比較において、インド映画は本当に世界一なのかを逐次確認したく、各年の年間認証本数が気になる訳である。ここでは、冗長になるのを避けるため、他国の年間製作本数との比較はしていない。

 それに加えてもうひとつ気になるのが、インド国内での言語ごとの年間認証本数である。自分の贔屓にしている言語の映画が毎年どれくらいの数作られているのか、他の言語と比べてその立ち位置はどの程度なのか、気になるものである。

 言語別のデータが手に入る2005年以降、グラフにしてみたのが以下のものである。ヒンディー語、タミル語、テルグ語、カンナダ語、マラヤーラム語の主要5言語を取り上げている。

 市場という観点から言えば、ヒンディー語映画の規模が最大であり、インド映画の代表と言えばヒンディー語映画以外にないのだが、年間認証本数では、テルグ語が1位になった年が2005年、2006年、2008年、2012年、2013年と、複数回ある。とは言え、ヒンディー語映画の認証本数が1位の年が一番多い。ちなみに、「ヒンディー語映画」の中にはヒングリッシュ映画(英語とヒンディー語のミックス)も含めている。

 タミル語とテルグ語の認証本数に関しては特殊な事情があることも考えなければならない。両映画産業の結びつきは非常に強く、1本の作品がタミル語とテルグ語の両言語で作られる習慣がかなり前からあった。同じシーンをタミル語とテルグ語で別々に撮るなど、凝った同時製作の手法が採用されることもあるが、単純な吹替のこともある。「製作本数」ではなく、「認証本数」のため、音声が異なれば改めて検閲の必要があり、それだけ別にカウントされて行く。よって、これらの言語の年間認証本数は多めに出て来ることが多いと予想される。

 最近では、タミル語とテルグ語のみならず、ヒンディー語、カンナダ語、マラヤーラム語など、多くの言語の間で映画の吹替がさらに盛んになっている。特にヒンディー語への吹替が増えた。近年、年間認証本数が2,000本を越えたり、ヒンディー語映画の認証本数が多い要因のひとつには、こういう事情もあると思われる。

 また、ヒンディー語に関しては、ヒンディー語の方言とされる言語で作られた映画が別でカウントされている。ボージプリー語、ラージャスターニー語、チャッティースガリー語などなどである。ウルドゥー語も別扱いだが、ヒンディー語とは姉妹語であり、本当はひとつにしてしまってもいいぐらいだ。その一方で、タミル語やテルグ語などは、方言での映画作りが行われていないか、行われていたとしても別言語として扱われていない可能性がある。それも、ヒンディー語の年間認証本数が時々1位になれなかった原因ではないかと考えている。

 伝統的には、ヒンディー語、タミル語、テルグ語の3言語がトップ3を占めることが一般的であり、これらを「インド映画の御三家」と呼んで差し支えないだろう。しかしながら、近年ではカンナダ語映画の年間認証本数が激増しており、2017年、2018年、2019年、2020年と、4年連続でタミル語やテルグ語を越えている。その理由はよく分からない。