Taish

4.0

 2020年10月29日からZee5で配信開始された「Taish(激怒)」は変わった作りの映像作品である。2時間27分の映画と、1話約30分、全6話構成のドラマが同時公開されたのである。ストーリーは同じだが、映画の方が上映時間が短く、短縮版と言える。しかしながら、映画の方が評価が高い。よって、映画「Taish」の方を鑑賞した。

 監督はビジョイ・ナーンビヤール。今まで「Shaitan」(2011年)や「David」(2013年)など、シリアスな映画を撮って来ている。キャストは、プルキト・サムラート、ジム・サルブ、クリティ・カルバンダー、ハルシュヴァルダン・ラーネー、アビマンニュ・スィン、アンクル・ラーティー、ゾア・モーラーニー、サンジーダー・シェークなどである。

 舞台は英国。ローハン・カルラー(ジム・サルブ)は、英国郊外で行われる弟クリシュ(アンクル・ラーティー)の結婚式に参加した。ローハンは、パーキスターン人女性アールファー・カーン(クリティ・カルバンダー)と付き合っており、初めて彼女を両親に紹介した。ところが、結婚式に現れた、父親の古い友人クッリー・ブラール(アビマンニュ・スィン)を見て、ローハンは発作を起こす。彼が10歳のとき、家に来たクッリーに性的暴行を受けており、トラウマになっていたのである。その話を聞いた、ローハンの親友サニー(プルキト・サムラート)は、クッリーを殴り倒し、植物人間にしてしまう。

 実はクッリーは、サウスオールを支配するギャングだった。クッリーが襲撃されたことを知った弟のパーリーは、兄の妻ジャハーン(サンジーダー・シェーク)と不倫関係にあったものの、復讐に乗り出す。防犯カメラの映像から、サニーとクリシュがターゲットとなり、二人は暴行を受け、サニーは助かったものの、クリシュは死んでしまう。

 パーリーは逮捕され、有罪となるが、すぐに刑期を終えて出て来そうだった。責任を感じたサニーは高等裁判所に控訴しようとするが、うまく行かなかった。そうこうする内に、クリシュと結婚予定だったマーヒー(ゾア・モーラーニー)は自殺してしまう。また、ローハンはサニーと絶交状態となる。こうして2年が過ぎ去った。

 サニーは何とかして刑務所にいるパーリーを殺そうとしていた。一方、ローハンは何とかサニーを止め、パーリーとも話を付けようとする。しかし、サニーがクッリーとパーリーの弟ジャッスィーを殺してしまったことで、和平は実現不可となる。ジャッスィーの死を知ったパーリーは激怒し、脱走してローハンとサニーを追う。だが、ローハンとサニーは協力して迎え撃ち、パーリーを殺すが、サニーも命を落としてしまう。

 元々ドラマとして作られた作品なだけあって、登場人物の描写が細かく、しかも単純に善と悪に分かれるような関係になっていなかった。発端は、子供の頃に性的暴行を受けたローハンが、大人になってからその相手クッリーと再会し、発作を起こしたことにあった。ローハンの親友サニーがクッリーを不意打ちして植物人間にしたことで、クッリーの弟パーリーとジャッスィーが復讐に乗り出す。だが、誤って関係ないクリシュが殺されてしまう。弟を失ったことでローハンは怒り、その原因となったサニーと絶交する。責任を感じたサニーは、ジャッスィーを殺し、パーリーをも殺そうとする。それに対し、ジャッスィーを殺されて怒ったパーリーは、ローハンとサニーを殺そうとする。以上のように、英国を舞台にインド人が血で血を洗う構想を繰り広げるという迷惑極まりないストーリーで、一方は一般市民、一方はギャングだったのが、ストーリーの進展と共に、どちらも暴力的な行動に出るようになる。とにかく題名の通り、怒りが動機となってどんどん関係がこじれて行く。

 殺し合いをするのは基本的に男性キャラであるが、女性キャラの方も存在感を示している。特に物語に深みを与えているのが、パーリーとジャハーンの関係である。ジャハーンはパーリーの兄クッリーの妻であったが、パーリーとジャハーンは不倫関係にあった。しかしながら、クッリーが襲われて植物人間になったとき、パーリーはそれを好機とは捉えずに、兄を襲った犯人への復讐を誓う。あくまで兄嫁と寝ていても、兄弟の絆の方が優先されるという、極道的な仁義観が感じられた。また、刑務所から逃げ出したパーリーが、空港で彼を待つジャハーンのことを思いながら死んで行くラストは、悪役のはずのパーリーが真の主人公のようであった。この辺りの人物描写の細かさは、上映時間に余裕のあるドラマ的な作りだと感じた。

 A級のスターはいないが、面白い配役だと感じた。一番知名度があるのは、「Veere Di Wedding」(2018年)などのプルキト・サムラートであろうが、個人的に注目したのはローハンを演じたジム・サルブであった。ジムは、ヒット作への出演もあるが、今まで脇役が多かった。一番強烈な印象に残っているのは、「Padmaavat」(2018年)で演じた宦官マリク・カーフール役であろう。それらの積み重ねが実り、今回は主役級の配役となった。パールスィーの家系で顔がインド人らしくなく、海外在住期間が長いためかヒンディー語の発音も訛っているが、鮮烈な演技のできる俳優であることを改めてこの「Taish」で証明したと言っていい。また、パーリーを演じたハルシュヴァルダン・ラーネーも見事な悪役振りであり、映画の中核のひとつを成していた。

 「Taish」はヒンディー語映画ということになっているが、実は台詞の大半はパンジャービー語である。ブラール家がパンジャービーの家系のためだ。また、英国が舞台であるために英語の台詞も多い。よって、ヒンディー語映画と呼んでいいのか疑問になるような言語構成となっている。

 「Taish」は、英国を舞台に、ギャングに因縁を付けられた主人公2人が、多くの犠牲を払いながらも復讐を果たす、人間ドラマである。同じ内容の、1本の映画と全6話構成のドラマが、同時に製作され公開されるという変わった試みがなされており、ドラマの方は未見であるが、無駄をそぎ落とした映画版「Taish」の方が評価が高く、鑑賞するならばこちらの方がいいと思われる。