Yaara

3.5
Yaara
「Yaara」

 ハードボイルドな映画で定評のあるティグマーンシュ・ドゥーリヤー監督はこれまで「Saheb Biwi aur Gangster」(2011年)や「Paan Singh Tomar」(2012年)などを撮って来た。監督名だけで映画を観ることにしていい監督の一人である。彼の最新作「Yaara」が2020年7月30日からZee5で配信開始された。

 「Yaara」とは「友よ」という意味で、その題名の通り、4-5人の男性が主要キャストのバディーフィルムである。フランス映画「Les Lyonnais」(2011年)のリメイクである。キャストはヴィデュト・ジャームワール、アミト・サード、シュルティ・ハーサン、ヴィジャイ・ヴァルマー、ケニー・バスマタリー、ムハンマド・アリー・シャー、サンジャイ・ミシュラー、アンクル・ヴィカル、シュレーヤー・ナーラーヤンなどである。

 実業家として成功したパーグン(ヴィデュト・ジャームワール)は、愛妻スカンニャー(シュルティ・ハーサン)との結婚記念日パーティーをデリーの自宅で開いた。そこには古くからの親友リズワーン(ヴィジャイ・ヴァルマー)やバハードゥル(ケニー・バスマタリー)も来ていた。そこへ、ミトワー(アミト・サード)が逮捕されたとのニュースが入って来る。

 今から20年前、パーグン、ミトワー、リズワーン、バハードゥルの4人は、インドとネパールを往き来する密輸業を生業にしていた。彼らの面倒を見ていたチャマンおじさん(サンジャイ・ミシュラー)が死んだことをきっかけに4人は独立する。また、ファキーラー(アンクル・ヴィカル)も仲間に加わり、5人で武器の密輸などをしていた。

 彼らはナクサライトに武器の横流しをするようになる。そこで出会ったのが大学生で極左運動に関わっていたスカンニャーであった。しかし、警察に捕まり、拷問を受ける。パーグンは10年の懲役刑となり、出所後はスカンニャーと結婚して、隠していた資金を使って事業を始めたのだった。リズワーンとバハードゥルとは合流したが、ミトワーは行方不明だった。

 そのミトワーがデリーに来ていて逮捕されたとのことだった。かつて彼らを拷問したことのある、中央情報局(CBI)のジャスジート・スィン(ムハンマド・アリー・シャー)に目を付けられていたが、彼らはまんまと出し抜いてミトワーを助け出し、隠す。だが、ミトワーはドゥッラーニーというギャングのボスや、その部下シャキールに追われていた。まずはバハードゥルが殺され、次にリズワーンも殺された。

 パーグンは、ドゥッラーニーに会いにルーマニアを訪れる。そこに現れたのはファキーラーであった。ファキーラーは、20年前に彼らが逮捕されたときに一人だけ逃げおおせており、彼が警察に密告したと考えられていた。パーグンはファキーラーを殺す。

 インドに戻ったパーグンは、ミトワーを逃がそうとするが、ジャスジートから、20年前に仲間を売ったのはファキーラーではなくミトワーだと知らされる。パーグンはミトワーに問いただす。ミトワーは逮捕される前に自殺する。

 「バディーフィルム」と称されるヒンディー語映画は過去にいくつか作られて来た。20世紀の映画で最も有名なバディーフィルムは「Sholay」(1975年)であろうし、21世紀に入ってからも、「Dil Chahta Hai」(2001年)、「Rang De Basanti」(2006年)、「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年)など、多くの名作があった。「Yaara」もそのカテゴリーに含まれる映画であるが、かつて「チャウクリー・ギャング」と称された仲間たちが四散した現代を軸に物語が展開するところがユニークだった。

 回想シーンにて、チャウクリー・ギャングが結成されるまで、そしてその暗躍と解散までが説明される。主体となったのはパーグンとミトワーであり、彼らは幼少時に1950年代のラージャスターン州ジャイサルメールで出会った。パーグンとミトワーは地元でトラブルを起こして逃げ出し、ネパールとの国境地帯に辿り着く。そこでチャマンという密輸業者のボスに拾われる。チャマンの下で働いていた子供たち、リズワーンとバハードゥルが加わり、チャウクリー・ギャングが結成される。

 後にチャウクリー・ギャングにはファキーラーも加わり5人となるが、ナクサライトに武器の横流しを始めたことで警察に目を付けられ、遂に逮捕されてしまう。逮捕の前にファキーラーが姿を消したことから、彼が密告したと考えられていた。だが、密告者は実はミトワーだった、というストーリーである。

 警察に逮捕されたことでバラバラとなり、刑期を終えた後はそれぞれ堅気の商売を始めるが、かつての仲間の一人が逮捕されたことで、全てを投げ打って彼を救出しようとするというプロットは、友情映画としてはよく出来ている。実業家として成功していたパーグンは、ミトワーの救出はリスクでしかなかったが、チャウクリー・ギャング結成前から育んでいた友情を裏切ることはできなかった。パーグンの立場から見たら、彼は最後まで友情を貫いたと言えるだろう。

 だが、ミトワーの立場から見たら、彼が仲間を裏切った理由がよく分からない。仲間たちからミトワーがからかわれるシーンはあったが、そんな小さなことで裏切るほど彼らの友情は浅はかではなかっただろう。また、ミトワーが出所後にどういう人生を歩んだのかも部分的にしか語られていなかった。彼の元恋人タヌジャーとの関係ももっと掘り下げるべきだった。ミトワーの人生にも時間を掛けて焦点を当てていれば、さらにいい映画になったと感じる。

 武道家・スタントマンの出身で、アクション映画にて持ち味を発揮して来たヴィデュト・ジャームワールは、今回はあまり得意の身のこなしを披露しない役を落ち着いて演じていた。対するアミト・サードは、脇役俳優から脱却できていないところもあるのだが、いい演技をする俳優である。

 シュルティ・ハーサン演じるスカンニャーは、極左運動に参加する女子大学生であった。同様のキャラは、ソーナム・カプールが「Raanjhanaa」(2013年)で演じていた。スカンニャーの父親は、政治家にも圧力を掛けることができる権力者かつ富裕者であることがうかがわれたが、その娘のスカンニャーはインドに革命をもたらすべく虐げられた村民たちに蜂起を促していた。プルジョワ左翼の一種と言えるだろう。

 「Yaara」は、硬派な映画作りをするティグマーンシュ・ドゥーリヤー監督のバディーフィルムである。かつて密輸業などをしていた仲間たちが、一人の逮捕をきっかけに再び集まり、ドラマが繰り広げられる。観て損はない映画である。