Baaghi 3

3.5
Baaghi 3
「Baaghi 3」

 若手で一番のアクションスター、タイガー・シュロフを看板とした「Baaghi」シリーズは、「反逆者」というその題名の通り、タイガー・シュロフが社会や組織の枠組みの外にいながら大活躍する様子を描いたアクション映画として確立している。その第3作「Baaghi 3」は2020年3月6日に公開された。ただし、「Baaghi」シリーズは、題名こそシリーズ物であるが、ストーリー上の連続性は全くないと割り切っており、「Baaghi 3」にも、「Baaghi」や「Baaghi 2」から受け継いでいる要素はほとんど見受けられない。ほぼ唯一の共通点は、タイガー・シュロフが主演ということのみだ。

 プロデューサーはシリーズ通してサージド・ナーディヤードワーラーであり、監督は前作「Baaghi 2」から引き続きアハマド・カーンとなっている。主演のタイガー・シュロフはもちろん変わらず。ヒロインは、1作目「Baaghi」のシュラッダー・カプールが再び起用されている。悪役は複数いるが、いわゆるラスボスは、TVドラマ「ジャック・ライアン」(2018-19年)などに出演のイスラエル人俳優ジャミル・ホーリーが演じている。3作共通で出演しているのは、タイガーの他にはシーフージー・シャウリヤ・バールドワージのみである。他には、リテーシュ・デーシュムク、アンキター・ローカンデー、ジャイディープ・アフラーワト、ヴィジャイ・ヴァルマー、サティーシュ・カウシク、ヴィーレーンドラ・サクセーナーなどが出演している。さらに特筆すべきは、タイガーの父親ジャッキー・シュロフがカメオ出演していること、そして、2作目「Baaghi 2」のヒロイン、ディシャー・パータニーがアイテムガール出演していることである。

 デリーで生まれ育ったロニー(タイガー・シュロフ)は、兄のヴィクラム(リテーシュ・デーシュムク)を常に影から守っていた。2人の父親は警察官だったが、悪漢から庶民を守る中、殉職していた。ヴィクラムはアーグラーのローハーマンディー警察署に勤務することになった。

 アーグラーでは、IPL(ジャイディープ・アフラーワト)がシリアの武装集団の首領アブー・ジャラール・ガーザー(ジャミル・ホーリー)のために、インドで家族を誘拐していた。ガーザーは南アジアから誘拐した家族を自爆テロ要員として利用していた。ロニーは、ヴィクラムを影で支えながら、IPLの悪漢たちを次々に倒す。手柄は全てヴィクラムのものとなり、ヴィクラムは次々に昇進した。また、ヴィクラムはルチ(アンキター・ローカンデー)と結婚した。ロニーは、ルチの妹スィヤー(シュラッダー・カプール)と恋仲になる。

 ヴィクラムはシリアに派遣されるが、そこでガーザーの手下に捕まる。それを知ったロニーはスィヤーと共にシリアに乗り込み、ヴィクラムを探す。

 シリーズ物は回と重ねるごとにスケールアップするものだが、「Baaghi 3」も今まででもっともスケールの大きい作品となっていた。後半はシリアが舞台となっており、タイガー・シュロフ演じる主人公ロニーは、ISISをモデルにしたジャイシェ・ラシュカルという武装組織と単身戦う。「Baaghi 2」では2機のヘリコプターを一人で片付けるが、本作では相手取るヘリコプターの数は3機に増え、数台の戦車とも戦う。

 兄弟愛にスポットライトが当てられていたのも「Baaghi 3」の特徴であった。非常に変わった構成であるが、ロニーは、弱虫の兄ヴィクラムの守護神みたいな存在で、ヴィクラムがピンチに陥り「ロニー!」と叫ぶと、必ずロニーは駆けつけてヴィクラムを助けた。ヴィクラムが警察官になり、ロニーが警察官になれなかったのは、ヴィクラムを助けるためにロニーが暴力沙汰を起こして来たからである。比較対象となるのは、「Dabangg」シリーズの主人公チュルブル・パーンデーイとその異父弟マッカンチャンド・パーンデーイの関係性であろう。また、悪役のアブー・ジャラール・ガーザーにも弟がいる。

 「Baaghi」シリーズは、基本的にはアクション映画であるが、「Baaghi」、「Baaghi 2」と、ロマンスの部分にもある程度の力が込められていた。だが、「Baaghi 3」では、兄弟愛に注力するあまり、ロマンスは添え物に過ぎなかった。一応、シュラッダー・カプール演じるスィヤーとの恋愛が存在するが、二人の関係性は丁寧に描かれておらず、二人が一緒にシリアに乗り込む中盤以降の展開も謎であった。

 映画のひとつの見所は、ジャッキー・シュロフとタイガー・シュロフの共演である。ジャッキーはカメオ出演扱いで、出演機会はほとんどないが、この2人がスクリーンを共有するのは本作が初めてであり、話題性を作り出している。前作のヒロイン、ディシャー・パータニーもアイテムソング「Do You Love Me?」にアイテムガール出演し、花を添えていた。

 コレオグラファー出身のアハマド・カーン監督の作品なだけあり、また、ダンスのセンスも抜群にいいタイガー・シュロフが主演なだけあって、相変わらずダンスシーンも大きな見所だ。前述のアイテムソング「Do You Love Me?」が一番目を引くが、タイガー・シュロフがシュラッダー・カプールと踊る結婚式ソング「Bhankas」やエンドクレジットのボーナスダンス「Dus Bahane 2.0」なども良かった。ちなみに「Dus Bahane」はアヌバヴ・スィナー監督のヒンディー語映画「Dus」(2005年)で使われていた曲である。アハマド・カーン監督は、昔の曲のリメイクが好きなようで、「Baaghi 2」でもリメイク曲があった。

 「Baaghi 3」は、今が盛りのタイガー・シュロフの人気シリーズ第3弾。映像はシリーズ最大のスケール。タイガーのアクションはさらに派手になっており、振付師が本業のアハマド・カーン監督らしいダンスシーンも盛りだくさんだ。タミル語映画「Vettai」(2012年)のリメイクであるが、タイガーが主演すると、南インドらしさが抜け、ヒンディー語アクション映画として仕上がる。タイガーの勢いはまだまだ続きそうだ。