Street Dancer 3D

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Street Dancer 3D
「Street Dancer 3D」

 インド映画というと「歌って踊って」というイメージが強いが、本当に歌って踊ってばかりの映画というのは実は珍しい。必ずストーリーがあって、そこに歌と踊りが混ぜ込まれる。だが、振付師出身レモ・デスーザ監督の「ABCD」シリーズは、本当にダンスが中心の映画だ。1作目の「ABCD: Any Body Can Dance」(2013年)は、プラブ・デーヴァ以外ほとんどスターが出演していなかったにもかかわらずヒットし、2作目の「ABCD 2」(2015年)ではプラブ・デーヴァに加えてヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプールが出演して大ヒット。そして2020年1月24日に、前作と同じヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプール主演で「Street Dancer 3D」が公開された。題名が変わったのは、プロダクションの変更に伴うタイトル使用権問題のためである。

 「Street Dancers 3D」は「グランド・ゼロ」という国際ダンス・コンペティションを中心に物語が進み、多数のプロダンサーたちが出演する。プラブ・デーヴァはインドを代表するダンサーであるが、他に、デスーザ監督がスーパージャッジを務めるリアリティー・ダンス番組「Dance Plus」で活躍したダンサーたちが起用されている。「Baahubali: The Beginning」(2015年)の「Manohari」などで踊り、ヒンディー語映画界でも多数の出演があるノラ・ファテーヒーもサブヒロインとして出演していたが、彼女もモロッコ系カナダ人ダンサーである。ただし、主演を務めるヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプールは、どちらも二世俳優であり、特に踊りを売りにしてのし上がった人物ではない。踊れない訳ではないし、前作に引き続いて相当なダンスの訓練をしていると思われるが、プロのダンサーのような余裕がある訳ではない。

 今回はロンドンが舞台となっている。ロンドンで生まれ育ったインド系移民若者系のダンスグループ、ストリート・ダンサーズと、パーキスターン系移民若者グループ、ルール・ブレーカーズの対立と結束が主軸となっている。ストリート・ダンサーズを率いるのが、ヴァルン・ダワン演じるサヘジであり、ルール・ブレーカーズを率いるのが、シュラッダー・カプール演じるイナーヤトである。もちろん、これらのグループの結束は、インドとパーキスターンの融和を主張するものである。また、プラブ・デーヴァは、表の顔はレストランのオーナーだが実は超絶ダンサーのアンナーを演じている。アンナーは、グランド・ゼロで優勝するためには、ストリート・ダンサーズとルール・ブレーカーズの結束が必須であると説く。当初は拒絶されるが、最終的にこの2つのチームはひとつになる。

 単なるダンス映画かと思ったが、実はシリアスなテーマも隠されている。それは、英国における違法移民問題である。人気パンジャービー歌手ダレール・メヘンディーが自身の楽団と共に違法移民を密入国させていた問題が2003年に発覚したが、その出来事にインスパイアされてこのテーマが盛り込まれたようだ。また、英国で恵まれない人々にランガル(無料の炊き出し)を行うスィク教徒系団体Nishkam SWATの活動もベースとなっており、エンドクレジットで彼らの紹介がなされる。

 さすがにダンスを前面に押し出し、プロのダンサーたちが勢揃いした映画なだけあって、これでもか、これでもか、と繰り出されるダンスの数々が何よりの見所だ。もちろん、プラブ・デーヴァもしっかりと自慢のダンスを披露している。「Hum Se Hai Muqabla」(1995年)の中で彼が踊った有名な曲「Muqabla」を再び踊るシーンは特筆すべきだ。また、同じ映画のダンス曲「Urvashi Urvashi」も何度か言及されていた。

 だが、ストーリーはカオスであった。主人公のはずのサヘジの行動に論理性が欠けているのが最大の要因である。兄から引き継いだダンスグループ、ストリート・ダンサーズをあっさりと脱退して、グランド・ゼロの常勝グループ、ロイヤルズに鞍替えしてしまうし、準決勝戦では、ライバルグループのルール・ブレーカーズに突然乱入して、そのままそのチームの一員になってしまう。むしろ、行動が一貫しており、観客の同情を引くのは、敵であるはずのイナーヤトの方である。彼女は、アンナーが生活に困窮する南アジア人路上生活者の救済活動をしているのを知り、それに加わる。そして、彼らを母国に帰す資金を捻出するため、グランド・ゼロに出演を決める。彼女の方が主人公にふさわしい行動をしていた。あるいは、彼女が主人公の映画なのかもしれない。

 「Street Dancer 3D」が取り上げていた不法移民の問題も、自業自得というか、あまり肩入れできないような内容であった。どちらかというと、ダンス映画に無理にこの問題がくっ付けられているような感じで、心に響くものがなかった。

 「Street Dancer 3D」は、コレオグラファーのレモ・デスーザ監督が、コレオグラファーのプラブ・デーヴァをはじめとして、ヴァルン・ダワン、シュラッダー・カプール、ノラ・ファテーヒーなどを起用して作った「ABCD」シリーズ第3弾の映画である。ダンスは素晴らしいが、ストーリーが崩壊しており、インドでもフロップに終わった。ダンスを楽しむためだけに鑑賞する映画である。