Jai Mummy Di

3.0

 「Pyaar Ka Punchnama」(2011年)などで知られるラヴ・ランジャン監督は、ロマンス映画を新たな角度から定義し直している。その方面において2000年代にはイムティヤーズ・アリー監督の活躍が目立ったのだが、2010年代はラヴ・ランジャン監督の時代だ。一定の成功を収めた後、彼はプロデューサー業にも進出しており、「De De Pyaar De」(2019年)をプロデュースしている。2020年1月17日公開の「Jai Mummy Di」も、ラヴ・ランジャン監督のプロデュース作品だ。

 監督はナヴジョート・グラーティー。長編映画の監督は初である。主演は「Pyaar Ka Punchnama 2」(2015年)で共演したサニー・スィンとソーナーリー・サイガル。他に、スプリヤー・パータク、プーナム・ディッローン、シワーニー・サーイニー、アーローク・ナートなどが出演している。また、ヌスラト・バルチャー、イシター・ラージ・シャルマー、ヴァルン・シャルマーが特別出演している。

 題名の「Jai Mummy Di」とは、「Jai Mata Di(女神万歳)」のもじりである。「母親万歳」という意味になる。最後の「Di」は、ヒンディー語ではなく、パンジャービー語の格助詞である。

 デリーのラージパトナガル在住のラーリー・カンナー(プーナム・ディッローン)とピンキー・バッラー(スプリヤー・パータク)は、大学時代からの知り合いで、隣人同士だが、犬猿の仲だった。カンナー家とバッラー家は一家総出でいがみ合っていた。ところが、ラーリーの娘サーンジ(ソーナーリー・サイガル)とピンキーの息子プニート(サニー・スィン)は同じ大学に通っており、しかも恋仲になっていた。二人は家族にその関係を明かしていなかった。

 大学最後の日、サーンジは公衆の面前でプニートにプロポーズをするが、プニートはまだ結婚の準備ができておらず、返答しなかった。それに怒ったサーンジはプニートと絶交する。ラーリーはサーンジの縁談を進めており、お見合いしたデーヴと結婚することになる。一方、ピンキーもそれに対抗し、プニートの結婚相手を探し、サークシーと結婚することになる。

 ところで、カンナー家とバッラー家はラージパトナガルの家からガーズィヤーバードに引っ越していたが、またも隣同士になっていた。しかも結婚式の日や場所まで同じだった。

 プニートもサーンジも、お見合いした相手との結婚は乗り気ではなく、お互いと結婚したいと思っていた。二人は、ラーリーとピンキーが仲違いした原因を探ろうとするが、二人の過去を詳細に知っている人にはなかなか会えなかった。二人はそれぞれの父親にも相談する。父親たちは、二人を結婚させるために計画を立てる。

 結婚式当日、カンナー家とバッラー家においてそれぞれ仕組んでおいたトラブルが発生し、結婚は破談となる。ラーリーとピンキーは、プニートとサーンジの結婚をさせることになる。また、二人の母親たちの過去のいざこざの謎も解けた。

 お見合い結婚は、引かれ合う家族同士の結婚で、夫婦となる当事者を引き合わせる必要がある。一方で恋愛結婚は、引かれ合う男女同士の結婚で、親戚となる家族同士を引き合わせる必要がある。あらゆる恋愛や結婚の形が模索されて来たヒンディー語恋愛映画での最近の関心事は、男女の出会いから結婚までよりも、二つの家族同士の出会いと受容にあると言っていい。「2 States」(2014年)がその典型だった。

 「Jai Mummy Di」は、なぜか母親同士が犬猿の仲である2つの家族の物語だ。なぜ彼女たちがそんなにいがみ合っているのかは、映画内最大のミステリーであり、最後の最後まで明かされない。彼女たちが大学生だった1991年に何かが起こったことだけが早い段階で分かり、映画の本編が終わった後にエピローグとして1991年の謎が明かされる。そのシーンではヌスラト・バルチャー、イシター・ラージ・シャルマー、ヴァルン・シャルマーが登場人物の若い頃を演じる。はっきり言ってしょうもない理由であるが、そのしょうもなさも映画の味なのだろう。

 望まない相手と結婚させられそうになった男女が何とかしてその結婚を止めさせようとするプロットは、今までヒンディー語映画で散々舐め尽くされて来たものだ。よって、その点に特に目新しさはなかった。プニートは、まずは婚約者サークシーにゲイだと嘘のカミングアウトをして結婚を諦めさせようとし、次に「びっこ」だと言う噂をわざと流して結婚を破談にさせようとする。一方、サーンジは、過去に4人のボーイフレンドがおり、彼らとセックスをして来たと言って、婚約者デーヴを失望させようとする。これらの要素は、裏を返せばインドでの結婚に際して不利となる条件ばかりであり、いかにも保守的なインドらしく、しかも人権意識の高い国では眉をひそめられるだろう。

 また、女性はまだしも、男性が大学卒業後すぐに結婚するというストーリーは現実的ではなかった。田舎ならあり得るが、都会で生まれ育った男性が、就職早々結婚する例は非常に少ない。何か引っかかるところのある脚本だった。

 主演のサニー・スィンはトップスターではないが、低予算の良作に出演しており、アーユシュマーン・クラーナーと同じ匂いを感じる。出演作次第では伸びて行くだろう。ヒロインのソーナーリー・サイガルも決してトップスターではなく、しかもメインヒロイン向けの顔ではない。今後どうなるだろうか。

 この映画のひとつの目玉は、プーナム・ディッローンが久しぶりにスクリーンに登場したことだ。元ミス・インディアで、1970年代から80年代にかけて活躍した女優である。1988年の結婚後、出演作を絞っており、あまり多くの映画には出演しなくなった。今回は、やはりベテラン女優であるスプリヤー・パータクとキャットファイトを繰り広げ、ストーリーの原動力となっていた。

 ラヴ・ランジャン監督の映画は音楽に力が入っているが、彼の息の掛かった「Jai Mummy Di」も音楽が効果的に使われていた。デリーの地名が入った「Daryaganj」や、けだるい歌い方がたまらない「Manney Ignore Kar Rahi」など、いい曲が多かった。

 ラージパトナガルに住んでいた家族がガーズィーヤーバードに引っ越すという設定は、デリーの現実なのかもしれない。ラージパトナガルはデリー中心部に近い住宅街で、ガーズィヤーバードはウッタル・プラデーシュ州に位置するデリーの衛星都市だ。ラージパトナガルは元々、印パ分離独立時にインドに移住して来た難民たちのために開発された住宅街で、ひとつひとつの家はそれほど広くない。デリー中心部は地価が上がっているため、祖父などから受け継いだ不動産を売却してまとまった金を手にし、郊外の広い家に引っ越すという流れが出来ている。

 「Jai Mummy Di」は、2010年代のロマンス映画を牽引するラヴ・ランジャンがプロデュースした、一風変わったロマンス映画である。若い男女が結婚するために、犬猿の仲であるお互いの母親を何とか説得しようと画策する。現代のトレンドに乗った映画で、音楽も良かったが、ストーリーには多少疑問符が付くところも散見された。興行的にも失敗している。無理に観る必要はない映画だ。