Panipat

3.0

 デリーの北にパーニーパトという小さな町がある。信心深い人々の間では、スーフィー聖者ハズラト・ブー・アリー・シャー・カランダルのダルガー(聖廟)がある町として知られているが、それ以上にこの町の名を有名にしているのが、この地で戦われたインド史を分ける戦いである。しかも、「パーニーパトの戦い」として知られる戦いは3回あった。第1回は1526年、ムガル朝の創始者バーバルとデリー・サルタナト朝のイブラーヒーム・ローディーの間で起こり、ムガル朝の成立を決定づけた。第2回は1556年、ムガル朝第3代皇帝アクバルとヒンドゥー教徒の王ヘームーの間で起こり、ムガル朝の中興を可能とした。そして第3回は1761年、アフガニスタンのアハマド・シャー・アブダーリーとマラーター同盟のサダーシヴ・ラーオの間で起こった。2019年12月6日公開の「Panipat」は、この第3回のパーニーパトの戦いを題材にした歴史戦争映画である。

 監督は時代劇映画を好んで作るアーシュトーシュ・ゴーワーリカルである。「Lagaan」(2001年)で一躍名声を獲得した監督だが、その後、「Lagaan」に匹敵する作品は送り出せていない。結局、「Lagaan」が突然変異的に出来が良かっただけで、スケールの大きな映画をまとめる力量には欠けるのではないかというのが正直な感想だ。ゴーワーリカル監督の時代劇映画としては、「Jodhaa Akbar」(2008年)、「Khelein Hum Jee Jaan Sey」(2010年)、「Mohenjo Daro」(2016年)などが挙げられ、この「Panipat」がそのリストに加わった形となる。

 主演はアルジュン・カプールとクリティ・サノン。悪役としてサンジャイ・ダットが出演しているが、それ以外のキャストはそれほど有名な人物ではない。ただ、パーニーパトの戦いに関わった歴史的人物をなるべく描き出そうとしており、登場人物の数は多い。アルジュンが演じる主人公サダーシヴ・ラーオも実在の人物であり、パーニーパトの戦いでマラータ軍を率いて戦った。ちなみに、ヒンディー語映画「Bajirao Mastani」(2015年)の主人公バージー・ラーオの次の世代の物語となる。バーラージー・バージー・ラーオ、ラグナート・ラーオ、シャムシェール・バハードゥルの3人はバージーラーオの息子であるし、サダーシヴ・ラーオはバージー・ラーオの弟の息子に当たる。

 時は1758年。マラーター同盟はペーシュワー(宰相)バーラージー・バージー・ラーオの統治の下、ニザーム王国を撃破し、絶頂期にあった。その頃、デリーではムガル皇帝アーラムギール2世に、ローヒラー族の長ナジーブッダウラーが、マラーター同盟に対抗するためアフガニスタンのアハマド・シャー・アブダーリーに助けを求めることを進言していた。アブダーリーはナジーブッダウラーからの招待を受け、首都カンダハールを出てインド亜大陸に進撃した。

 バーラージー・バージー・ラーオは息子のヴィシュワース・ラーオを長とし、従兄弟のサダーシヴ・ラーオ(アルジュン・カプール)をその補佐として、軍を北インドに派遣する。サダーシヴは結婚したばかりの妻パールワティー(クリティ・サノン)を連れて北を目指した。ヤムナー河を挟んでマラーター軍とアブダーリー軍は対峙するが、水の量が多く、河を渡れずにいた。そこでサダーシヴはデリーを目指し、あっさりと占領する。その後、マラーター軍はアブダーリーに占拠されていたクンジプラーを攻撃する。

 その頃、アブダーリー軍はヤムナー河を渡り、マラーター軍に迫っていた。そこでサダーシヴはパーニーパトで戦うことを決める。1761年1月14日、両軍は激突し、一進一退の攻防を続けるが、ヴィシュワース・ラーオが敵の狙撃を受けて殺されるなど、次第にマラーター軍に劣勢となって行く。サダーシヴは勇猛果敢に戦ったが、最後には絶命する。一方、パールワティーは戦場を脱出するも、サダーシヴを失ったことで、後を追うように亡くなる。

 基本的には歴史を忠実になぞった作品である。それだけに、18世紀のインド史が頭に入っていないと、登場人物が多すぎて消化不良となってしまうだろう。3時間近くある大作であったが、3分の1は終盤のパーニーパトの戦いに費やされていた。「Lagaan」と同じ構成である。アブダーリー軍がこの戦いに導入して高い効果を上げたとされる新兵器ザンブーラク(ラクダの背中に軽火器を乗せた部隊)もしっかり登場しており、歴史考証に力を入れている様子がうかがわれた。ただ、歴史を書き換えることはできないので、いかにサダーシヴが主人公であっても、彼は敗者のままであった。勇猛果敢に戦ってアブダーリーを感心させたこと、そして、この戦いの後、アブダーリーが二度とインドに足を踏み入れなかったことをもって、サダーシヴの偉業とし、何とか感動的にまとめている。

 「Panipat」の副題は「The Great Betrayal(大きな裏切り)」である。劇中では主に2つの裏切りが描写されていた。ひとつは、アワド王国のシュージャーウッダウラーの裏切りだ。彼は一度マラーター軍に味方をすると答えていたが、最終的にはアブダーリー軍に就いた。もうひとつは、アラーダク・スィンの裏切りである。マラーター軍の援軍としてパーニーパトの戦いに参戦するが、マラーター軍の敗色が濃厚となると軍を引き上げてしまう。ただ、アラーダク・スィンは架空の登場人物だと思われる。

 厳密には「裏切り」ではないのだが、第3次パーニーパトの戦いでは、マラーター同盟内やインドの諸侯たちの内部抗争が、アブダーリー軍の勝利を許したと評価されている。インドの歴史を紐解くと、外部からの侵略者の前でインドの諸侯たちが一致団結できずに内部崩壊する失敗が度々繰り返されて来たことが分かる。「Panipat」でもそのようなシーンがいくつか見られた。ただ、当時は「インド」という概念もなかったので、現在の視点からインドの範囲を決めて、その範囲内にいる人々が「外敵」の侵入に対して団結しなければならないとするのは誤った歴史観を助長する。アブダーリーはアフガニスタンの支配者であったが、元を正せばムガル朝も中央アジアやアフガニスタンからインドにやって来た政権であり、当時のインドにとってアフガニスタンはインド世界の一部として認識されていたとも考えられる。また、この戦いをヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の戦いとして捉えることも間違っている。ヒンドゥー教徒の指導者に率いられるマラーター軍には砲術の達人イブラーヒーム・カーンがいたが、イスラーム教徒である彼の存在が示すように、主君に仕えるのに宗教は関係なかった。

 近年のヒンディー語映画の強いトレンドだが、女性の存在がクローズアップされた映画でもあった。サダーシヴの妻パールワティーが戦場まで付き従ったのは史実通りだが、彼女が援軍の引き込みに一役買ったり、剣を振るって戦ったりするシーンがあり、必要以上に女性の活躍が盛り込まれた映画になっていた。戦争を主体とした時代劇に、あまり極端に女性の活躍の場を作り過ぎると興ざめしてしまう。どうせなら完全に男臭い映画にしても良かったのではないかと感じた。

 「Panipat」は、「Lagaan」で有名なアーシュトーシュ・ゴーワーリカル監督の最新作で、1761年の第3次パーニーパトの戦いを題材にした時代劇映画である。クライマックスとなるパーニーパトの戦いを、じっくり時間を掛けて魅せているのは良かったが、人間ドラマの部分は歴史をなぞるのに一生懸命になり過ぎていて、面白味には欠けた。完璧な作品ではないが、インド史に興味のある人にとっては観る価値のある映画だ。