Pagalpanti

1.5
Pagalpanti
「Pagalpanti」

 アニース・バズミーと言えば、ヒンディー語映画界において「コメディーの帝王」の異名を持つ映画監督の一人である。彼の過去の作品の多くは、大人数が入り乱れるドタバタ劇で、ヒット作も多い。代表作は「Welcome」(2007年)や「Singh Is Kinng」(2008年)などである。

 「Welcome」シリーズは、「Welcome」、「Welcome Back」(2015年)と2作が作られて来た。2019年11月22日公開のアニース・バズミー監督作「Pagalpanti」は、元々「Welcome」シリーズの第3作として企画された作品だったが、途中で方針転換され、「Welcome」シリーズとは切り離されて独立した作品となった。ただ、アニル・カプールが出演している点や、マフィアのドンが出て来る点など、「Welcome」シリーズとの共通点もあり、その経緯を知ると思わず納得してしまう。

 「Pagalpanti」のキャストは、アニル・カプール、ジョン・アブラハム、イリアナ・デクルーズ、アルシャド・ワールスィー、ウルヴァシー・ラウテーラー、プルキト・サムラート、クリティ・カルバンダー、サウラブ・シュクラー、イナームルハク、ザーキル・フサイン、アショーク・サマルト、ブリジェーンドラ・カーラー、ムケーシュ・ティワーリーなどである。

 題名の「Pagalpanti」とは、「狂った行い」「狂人振り」みたいな意味である。

 ラージ・キショール(ジョン・アブラハム)は周囲を不幸に陥れる男だった。仲間のジャンキー(アルシャド・ワールスィー)やチャンドゥー(プルキト・サムラート)と共にロンドンで多くの人々を不幸にして回っていた。

 ラージ、ジャンキー、チャンドゥーの3人は、あるとき、マフィアのドン、ラージャー・サーヒブ(サウラブ・シュクラー)とその甥ワイファイ・バーイー(アニル・カプール)に高級車を届ける仕事を請け負い、それに失敗する。その高級車はラージャー・サーヒブの娘ジャーンヴィー(クリティ・カルバンダー)の誕生日プレゼントだった。3人は捕まり、毒味や身代わりなど、命を盾にした仕事をさせられる。ただ、ジャーンヴィーはチャンドゥーに惚れていた。

 ラージャー・サーヒブとワイファイ・バーイーは、トゥッリー・セート(ザーキル・フサイン)とブッリー・セート(アショーク・サマルト)のマフィアとライバル関係にあった。しかし、二人の兄貴分であるバーバー・ジャーニー(ムケーシュ・ティワーリー)の仲介により、大物マフィア、ニーラジ・モーディー(イナームルハク)を紹介され、彼の説得により、彼らは講和することになる。二つのマフィアは、ニーラジ・モーディーから巨額の投資を受ける。

 ところがラージ、ジャンキー、チャンドゥーのいい加減な立ち振る舞いにより、再び両マフィアの間で緊張が高まり、しかもラージャー・サーヒブとワイファイ・バーイーが預かっていた金を燃やしてしまう。彼らは逃げ出す。途中で彼らは、マーマージー(ブリジェーンドラ・カーラー)とその姪サンジャナー(イリアナ・デクルーズ)と出会う。三人はかつて彼らを騙したことがあり、彼らは三人を追っていた。だが、彼らも一緒に逃げることになる。さらに、ジャーンヴィーも彼らに加わる。

 六人は廃墟となった幽霊屋敷に逃げ込むが、そこで幽霊となって人々を脅かしていたのは、カーヴィヤー(ウルヴァシー・ラウテーラー)という生身の女性だった。その幽霊屋敷にはニーラジの隠し金庫があり、彼らはそれを発見してしまう。

 一方、ラージャー・サーヒブとワイファイ・バーイーは、ニーラジたちから金の取り立てを受けていた。そこへラージ、ジャンキー、チャンドゥーが駆けつけ、金を渡す。しかも、ニーラジの金を使って、ニーラジから様々な物件を買い漁った。それに気付いたニーラジは、ラージャー・サーヒブとワイファイ・バーイーを襲撃する。そこへラージ、ジャンキー、チャンドゥ-、ジャーンヴィー、サンジャナー、カーヴィヤーが登場し、金をばらまく。場は大混乱に陥り、しかもどこからかライオンが乱入して来る。最終的には警察が踏み込んで来て、ニーラジを逮捕する。

 アニース・バズミー監督のコメディー映画は、面白いときは面白いのだが、この「Pagalpanti」は残念ながら失敗作の部類に入る。ストーリーが支離滅裂で、ギャグの切れも悪く、ダンスシーンも洗練されていない。ほとんど取り柄のないコメディー映画であった。

 「Pagalpanti」には様々な欠点があるのだが、最も気になったのは、昨今のヒンディー語コメディー映画を切り貼りしたような構成になっていたことである。例えば、疫病神の主人公を中心にドタバタ劇が繰り広げられる展開は、「Housefull」(2010年)でアクシャイ・クマールが演じた主人公を想起させた。幽霊屋敷のシーンは、「Great Grand Masti」(2016年)と似通っている。「Welcome」シリーズではなくなったにもかかわらず、時々「Welcome」シリーズのテーマメロディーが流れて来たこともチグハグな印象を受けた。そして、登場人物が一堂に会して大混乱を引き起こすエンディングは、これまで多くのコメディー映画が踏襲して来たまとめ方であり、全く目新しさはなかった。

 キャスティングも決して良くはなかった。男優については、ジョン・アブラハム、アルシャド・ワールスィー、プルキト・サムラートの3人であるが、どう見ても不揃いな顔ぶれだった。それぞれに対して、イリアナ・デクルーズ、ウルヴァシー・ラウテーラー、クリティ・カルバンダーが相手役となるが、相性の良さは感じなかった。

 どちらかと言うと、マフィアを演じた俳優たちの演技の方が良かった。アニル・カプール、サウラブ・シュクラー、アショーク・サマルト、イナームルハクなどの演技があったおかげで、何とか笑える映画になっていた。「Welcome」シリーズはマフィアが主人公の映画であるため、その名残が残っているのかもしれない。

 イナームルハクが演じたニーラジ・モーディーは、インド政府から詐欺罪で指名手配されている実業家ニーラヴ・モーディーをモデルとしているのは明らかだ。代々続くダイヤモンド商だった彼は、急速に事業を拡大し巨万の富を築いて注目を浴びるが、詐欺や資金洗浄など、法に触れる行為を行って資金を調達していることが分かり、一転して追われる身となった。だが、それが明るみに出る前にインドを出国し、英国に亡命した。

 「Pagalpanti」には、ニーラヴ・モーディーのような悪徳実業家を逮捕し、彼らがインド国外に持ち去った富をインドに戻そうとする愛国主義的なメッセージが込められているものの、取って付けたような印象は拭えず、ますます映画の完成度を低めている。

 「Pagalpanti」は、これまで数々の名作コメディー映画を送り出して来たアニース・バズミー監督の作品だが、残念ながら失敗作に終わっている。わざわざ観る価値はない映画である。