Bala

4.0

 世の中に完璧な人はそうおらず、人はそれぞれ自身の何らかのことにコンプレックスを抱いているものだが、そのコンプレックスを逆手に取って、もしくはそのコンプレックスを助長することによって、金儲けをしようとする業者も多い。割と達観しているように見えるインドでもコンプレックス商法は隆盛しており、新聞、雑誌、TVなどで、人のコンプレックスを刺激する広告を目にする。男性にとってコンプレックスのひとつは髪の毛であり、女性にとっては肌の色である。インドでは、男性は髪の毛のある内に結婚するように言われるし、肌の黒い女性はあらゆる場面で不利となる。2019年11月7日公開のヒンディー語映画「Bala」は、若年性脱毛症に悩まされる青年と、肌の黒い女性を主人公にしたコメディータッチのソーシャルドラマである。

 監督は、「Stree」(2018年)などのアマル・カウシク。主演はアーユシュマーン・クラーナーとブーミ・ペードネーカル。他に、ヤミー・ガウタム、ジャーヴェード・ジャーフリー、サウラブ・シュクラー、スィーマー・パーワーなどが出演している。また、アパールシャクティ・クラーナーがカメオ出演している。題名の「Bala」とは、主人公のニックネームであると同時に、「バール(髪)」という意味も掛けてある。

 舞台はウッタル・プラデーシュ州のカーンプル。バーラー(アーユシュマーン・クラーナー)は、少年時代は女の子にモテモテであったが、20代半ばから若年性脱毛症に悩まされるようになり、恋人にも振られてしまっていた。美白クリーム会社で働いていたが、副業として、物真似芸人として舞台に立ったり、TikTokに動画を投稿したりしていた。バーラーの隣人で幼馴染みのラティカー(ブーミ・ペードネーカル)は色黒の女の子であり、子どもの頃はバーラーのいじめの対象となっていた。ラティカーは弁護士になっていた。

 バーラーは、あらゆる手段を試すが、ますます薄毛になっているようであった。あまりに気にしすぎて仕事にも支障が出るほどだった。そこでバーラーはとうとうカツラをかぶることにする。すると、途端に自信が戻って来た。ちょうどその頃、会社の仕事で2ヶ月間ラクナウーに赴任することになっていた。カツラと共にラクナウーに乗り込んだバーラーは、ラクナウー在住のモデル、パリー(ヤミー・ガウタム)と恋仲となり、結婚も決まる。だが、バーラーはなかなかパリーに髪のことを言い出せずにいた。

 結婚式の翌日、バーラーが禿でカツラをかぶっていることがパリーにばれてしまう。パリーはショックを受けて実家に帰ってしまい、しかもバーラーに対し、詐欺による結婚の無効と慰謝料の請求を求めて訴えて来た。バーラーはラティカーに弁護を頼むが、法廷の場でバーラーは結婚の無効を認めてしまう。

 頭髪が見た目の全てを決める現代、という前提に立ち、25歳にして禿となったバーラーが直面する悲劇をコメディータッチで描いている。頭髪の問題は男性にとっても女性にとっても大きなものだが、本作では特に男性の問題として扱われていた。それと並行して、もう1人の主人公ラティカーの視点から、色白の女性がもてはやされるインド社会において色黒の女性が幼少時から蓄積するトラウマも浮き彫りにされていた。バーラーが務める会社が美白クリームを販売している点も、それを強調していた。

 映画の最終的なメッセージは、人の見た目を笑うな、人を見た目で判断するな、ということではない。自分のありのままを受け入れろ、ということだった。インドらしいと思ったのは、見た目で笑われても、笑いこそが人生だからいいじゃないか、という開き直ったメッセージが付け加えられていたことだ。バーラーも最後には自分の禿を受け入れ、隠すことはしなくなるし、ラティカーも、美白クリームに頼らず、彼女のありのままを受け入れてくれる人と結婚した。

 映画の中で解決されずに放置されたのは、セカンドヒロインのパリーであった。彼女は、見た目勝負のモデルをしており、見た目に非常にこだわっていた。彼女は、自分の夫となる男性の見た目にもうるさかった。特に彼女はヘアスタイルにうるさかった。カツラをかぶってパリーを口説いていたバーラーは、皮肉にも、髪型を最重視する女性と結婚することになってしまったのである。そして、結婚無効が成立後、パリーは物語から姿を消し、彼女の見た目最重視の考え方はそのまま放置される。

 嘘を付いて何かを達成するが、罪悪感に苛まれ、その嘘を自ら告白する、というプロットはインド映画にとても多い。バーラーも、結婚式の3日前に、パリーにカツラをかぶっていることを告白した上で結婚することを決め、彼女にメッセージを送るが、違う人に送ってしまい、結局その告白は失敗に終わった。ただ、その後の展開を見ても、バーラーの告白を聞いたパリーがみすみす結婚を認めたとは思えない。

 映画の中では、クリシュナとクブジャーの神話が引用されていた。クブジャーはセムシの醜い女性だったが、クリシュナによって美女に変身させられた。インド神話も、醜い女性を悪とし、美しい女性を是とする価値観を人々に植え付けていると批判気味に引用されていたが、終盤では全く異なった解釈が提示され、この映画のメッセージに見事に合致させられていた。

 「Bala」は、若年性脱毛症に悩む青年を主人公にし、色黒な女性弁護士とのやり取りを交えながら、自分のありのままを受け入れることの大切さを訴えるソーシャルドラマである。アーユシュマーン・クラーナーとブーミ・ペードネーカルのコンビはこれまで「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)や「Shubh Mangal Saavdhan」(2017年)など、いい作品を送り出して来ており、そのリストにこの作品も加わった形だ。ただ、ほぼ同時期に公開されたヒンディー語映画「Ujda Chaman」(2019年)とテーマが酷似しているのは気になる点である。