Made in China

4.0

 隣り合う二大国であるインドと中国は国境紛争を抱えており、1962年には戦争もしている。また、中国は、インドと犬猿の仲であるパーキスターンの全天候型パートナーでもある。そんなこともあって二国間関係は必ずしも良好ではないが、映画の世界においては関係改善が図られている。過去には中国ロケが行われたインド映画「Chandni Chowk to China」(2009年)があったし、インド人俳優にも中国(香港)映画に出演経験のある者がいる。

 2019年10月25日公開の「Made in China」は、その名の通り、中国ロケが行われたインド映画である。監督はミキル・ムサーレー。過去に「Wrong Side Raju」(2016年)というグジャラーティー語映画を撮っており、ヒンディー語映画はこれが初だ。主演はラージクマール・ラーオ。他に、モウニー・ロイ、ボーマン・イーラーニー、アビシェーク・バナルジー、アマーイラー・ダストゥール、パレーシュ・ラーワル、ガジラージ・ラーオ、スミート・ヴャース、マノージ・ジョーシーなど。

 グジャラート州アハマダーバードで、インドと中国の親善イベントが開催された。ところが、中国の代表がマジック・スープという薬を摂取して急死してしまう。マジックスープの製造会社の社長ラグヴィール・メヘター、通称ラグ(ラージクマール・ラーオ)は自首して警察に尋問を受ける。

 ラグは、マジックスープには特別な成分は含まれていないと主張し、マジックスープを販売するまでに至った経緯を説明する。ラグは失敗ばかりの実業家だったが、ある日、従弟に連れられて中国に行った。そこで大物インド人実業家タンマイ・シャー(パレーシュ・ラーワル)や中国人実業家ハオ・リーと出会い、ビジネスアイデアを得る。

 アハマダーバードに戻ったラグは、マジックスープという名の精力剤を売り始める。彼はセクソロジストのトリブヴァン・ヴァルディー(ボーマン・イーラーニー)を広告塔として会社を興す。ヴァルディーのスピーチがネット上で話題となったことでマジックスープの人気に火が付き、会社は急成長する。ところが、妻や家族に黙ってビジネスをしていたために問題となり、しかも中国人の代表が急死したことで、今回の事件となる。

 ラグは審議会においてマジックスープは単なるラブリー(練乳のデザート)の粉だと説明し、ヴァルディーは、インドで性教育が不足していると主張する。マジックスープの成分検査の結果でも、特に異質な成分は発見されなかった。こうしてラグとヴァルディーは無罪放免となった。この事件をきっかけに、ラグとヴァルディーはインド全土で有名なセクシャルヘルスケア医院チェーンの経営者と広告塔となった。

 「Made in China」の商品のイメージは、インドでも「安かろう悪かろう」である。主人公ラグも、中国で「Made in China」なビジネスアイデアが得られることを期待していた。だが、彼が得たのは、「お客様は神様」ならぬ「お客様は馬鹿」というビジネス哲学であった。客が欲していても口に出せないものを出せば、そのビジネスは自ずと成功する。ラグは、世の多くの男性がセックスライフに悩みを抱えていることに気付き、それをビジネスとすることを思い付く。

 グジャラート州の人々は商売上手なイメージがあり、ラグのキャラも正にそれを地で行っている。だが、一方でグジャラート州は禁酒州であったり、禁欲主義を掲げるジャイナ教の影響が強かったりすることもあり、堅物のイメージもある。インドでは一般的にセックスに関する話題は公に口にされるものではないが、グジャラート州は特にその傾向が強そうだ。そんな州を舞台に敢えて性教育を主題に持って来たところに、「Made in China」も面白さがある。

 そう、「Made in China」において、中国に関する要素は実は二次的・副次的であり、中心的な議題委は性教育であった。セクソロジストのドクター・ヴァルディーは、性に関する話題をタブーとするインド社会に警鐘を鳴らし続けていたが、彼は小さなクリニックで患者を診ているだけで、彼の活動は限定的だった。ラグと出会ったことで、インドに性教育を広めるというヴァルディーの夢は大きく羽ばたくことになる。

 勃起不全を扱った映画は過去に「Shubh Mangal Saavdhan」(2017年)があった。「Made in China」はどちらかというと精力剤ビジネスの方向から勃起の問題を扱っていたものの、意識の高いセクソロジストが主役級の活躍をすることもあって、この問題をより深く掘り下げていた。勃起不全の大半は精神的なもので、薬というよりもプラシーボ効果で直ってしまう。その根源的な解決法は、性に関して家族の中でもっとオープンに話し合うことである。そうすることでインドにはこびる性に関する犯罪も減少することが期待される。そんな主張がなされていた。

 ラージクマール・ラーオ、ボーマン・イーラーニー、パレーシュ・ラーワルなど、うまい俳優が多く、演技に関して全く抜かりはなかった。ヒロインのモウニー・ロイはテレビドラマで名を売って来た女優で、近年は「Gold」(2018年)など映画にも出演している。かなり特徴のある顔で、もっと極端なことを言えば、美人とは思えないのだが、最近上り調子である。アマーイラー・ダストゥールはセカンドヒロイン的な立ち位置だったが、ほとんど活躍の場はなかった。

 グジャラート州は独特の食文化でも有名だ。「Made in China」には、グジャラート州の主食テープラーが印象的な小道具として出て来る。テープラーは、チャパーティーの材料にヒヨコマメや雑穀粉を混ぜて作られる。日常的に食べられるが、旅行のときの携帯食としても重宝されており、その際は日持ちするようにミルクやギー(純油)などを用いて作られる。ラグの会社が販売していたマジックスープも、結局はインドのデザートの一種ラブリーであった。

 「Made in China」では中国ロケが行われたのは確かであるが、どの都市で撮影が行われたのかまでは不明である。

 「Made in China」は、その題名の通り、中国ロケが行われたヒンディー語映画であるが、それ以上に、インドにおける性教育の後れについて切り込んだ作品であり、メッセージ性の強い娯楽作に仕上がっている。ラージクマール・ラーオを始めとした俳優陣の演技も見所である。興行的には失敗に終わったが、観る価値のある作品だ。