The Tashkent Files

3.0

 インド独立後最初の首相はジャワーハルラール・ネルーで、彼は1947年から1964年の死まで首相を務めた。彼の死後、2代目の首相に就任したのが、マハートマー・ガーンディーの忠実な弟子だったラール・バハードゥル・シャーストリーであった。彼は、白の革命(乳業改革)、緑の革命(農業改革)、核開発などを主導し、インドの発展の礎を築いた他、1965年の第二次印パ戦争でも勝利を収めた。だが、パーキスターンと平和条約を調印をするためにウズベキスタン(当時ソビエト連邦)のタシケントを訪れ、そこで客死した。一般に死因は心臓発作とされているが、果たしてそれは真実なのか。シャーストリーの死の真相に迫ったサスペンス映画がヒンディー語映画「The Tashkent Files」である。2019年4月19日に公開された。プロパガンダ映画との批判もある「The Accidental Prime Minister」(2019年)と同じく、2019年の下院総選挙の前に公開されており、その内容は国民会議派にとって非常に不利なものとなっている。

 監督は「Hate Story」(2012年)などのヴィヴェーク・アグニホートリー。モーディー首相の熱狂的な支持者として知られている人物である。主演はシュエーター・バス・プラサード。「Makdee」(2002年)の子役として有名で、その後も10代の頃に何本ものヒンディー語映画に出演しているが、その後、南インド映画でしばらく活躍し、最近になってヒンディー語映画界に戻って来た。他に、ナスィールッディーン・シャー、ミトゥン・チャクラボルティー、マンディラー・ベーディー、ヴィナイ・パータク、パンカジ・トリパーティーなど、かなり重鎮の演技派俳優が揃っている。

 物語は、スクープに飢えた若い女性ジャーナリスト、ラーギニー(シュエーター・バス・プラサード)が、謎の男からタレコミを受け、ラール・バハードゥル・シャーストリーの死について疑問を呈する記事を発表するところから始まる。世間では再びシャーストリーの死について関心が高まり、委員会が設けられることになった。委員長は政治家のシャーム・スンダル・トリパーティー(ミトゥン・チャクラボルティー)で、歴史家、裁判官、官僚、社会活動家などが集められた。その中にジャーナリスト代表としてラーギニーも加わった。

 当初は、シャーストリーの死因は心臓発作だとして委員会の報告書を迅速にまとめようとする勢力が強かったが、ラーギニーはタシケントに飛んで元諜報部員と接触したり、シャーストリーの死の真相に迫った人物から貴重な資料を受け取ったりして証拠を集めた上で、シャーストリーの死が毒殺であったことを主張する。ラーギニーには多方面から圧力が掛かるようになるが彼女は屈しない。途中、委員会を外されてしまうが、証人として委員会やメディアの前で自説を披露する。

 シャーストリーの死には不審な点が多かった。検死が行われなかったこと、シャーストリーが死ぬ直前に飲んだミルクを出したコックがソ連で逮捕されていたこと、死体が青く変色していたことなどで、それらは毒殺の兆候を示していた。また、シャーストリーの死後、インド核開発の第一人者ホーミー・バーバーや、シャーストリーの死を目撃した2名の証人が相次いで死亡するなど、偶然にしては都合の良すぎる出来事が続いた。だが、インドではそれらの事実はまるで隠蔽されたかのように報道されなかった。では、仮に毒殺として、誰がシャーストリーを毒殺したのか。それは、シャーストリーの死によってもっとも利益を得た人物を見てみることで分かる。第3代の首相に就任したのは、ネルーの娘インディラー・ガーンディーであった。シャーストリーは高潔な政治家で、印パ戦争での勝利など、業績も上げつつあり、このまま行けば長期政権化することは確実であった。それを面白く思わない勢力が国民会議派内にあった。その勢力がシャーストリーの死の黒幕であったと、映画は主張している。

 映画の中では、台詞の中で個人名は出て来ない。だが、非常事態宣言を発令した首相というところまでは言及があり、それは他でもない、インディラー・ガーンディーのみを指している。また、映画の最後では、1992年にソ連から英国に亡命した元ソ連国家保安委員会の幹部要員ワシリー・ミトロヒンが密かにソ連から持ち出した機密文書、ミトロヒン文書の抜粋が引用されていた。そこでは、インディラー・ガーンディーがKGBから裏金を受け取っていた記述が明示されている。つまり、「The Tashkent File」はインディラー・ガーンディーをシャーストリー毒殺の真犯人としている。

 映画は、委員会に参加した委員たちの議論によって進み、まるで舞台劇のようである。演技力のある俳優が揃っており、演劇畑の者も多い。演技に迫力はあったが、映画というメディアの力をフル活用した提示の仕方ではなかったと感じた。ただ、タシケントのシーンは実際にタシケントで撮影が行われていたと思われる。タシケント・ロケのインド映画は珍しい。

 「The Tashkent Files」は、1965年、ウズベキスタンのタシケントで客死した、インド第2代首相ラール・バハードゥル・シャーストリーの死の真相について迫った映画である。国民会議派とインディラー・ガーンディーを批判する内容であり、2019年の下院総選挙直前という微妙な時期に公開されたこともあって、プロパガンダ映画とする見方も強い。映画が主張する全てをそのまま真実と受け止めることは危険だが、その内容は十分注目に値する。様々な意味で問題作と言える。