The Sholay Girl

3.5

 インド映画ファンならば知らぬ者がいない、伝説の映画「Sholay」(1975年)。ラメーシュ・スィッピーが監督し、アミターブ・バッチャン、ダルメーンドラ、ジャヤー・バッチャン、ヘーマー・マーリニーが主演のオールスターキャスト映画である。黒澤明監督の「七人の侍」(1954年)がハリウッド映画「荒野の七人」(1960年)を経てインドで翻案されたこともあり、日本人にとっても感慨深い作品だ。この映画の中で、ヘーマー・マーリニー演じるバサンティーはターンゲーワーリー(馬車タクシーの御者)という設定で、馬車を駆って荒野を駆け抜けるシーンがいくつかある。そのシーンのスタントを務めていたのが、インド初のスタントウーマン、レーシュマー・パターンであった。1970年代から80年代において、女優のスタントは全て彼女が演じていたとされるほど、業界内で知られた存在で、今まで400本以上の映画に出演しているとされる。国際的に有名な作品としては、リチャード・アッテンボロー監督の「ガンジー」(1982年)にも出演している。

 2019年3月8日にZee5で配信開始された「The Sholay Girl」は、レーシュマー・パターンの伝記映画である。監督は、主にマラーティー語映画界で活躍して来たアーディティヤ・サルポートダール。主役のレーシュマーを演じるのは、「Babumoshai Bandookbaaz」(2017年)に出演していたビディター・バーグ。他に、チャンダン・ロイ・サーンニャール、ヴィニート・ラーイナー、アーディティヤ・ラキヤーなどが出演している。また、映画の最後にはレーシュマー・パターン自身が特別出演している。

 ボンベイの貧しい家庭に生まれ育ったレーシュマー(ビディター・バーグ)は、身体を悪くした父親(アーディティヤ・ラキヤー)に代って家族を支えなくてはならなくなり、道端でスタントをして投げ銭を稼いでいたところを、アクション監督のアズィーム・バーイー(チャンダン・ロイ・サーンニャール)に見出され、スカウトされる。当時、男性のスタントマンしかいなかった業界において、レーシュマーはスタントウーマンとして独自の地位を築き上げる。スタントマンの組合にも、女性として初めて加入する。

 レーシュマーは、「Sholay」の馬車シーンの撮影で、馬車が横転して大怪我を負ってしまった。だが、レーシュマーは怪我がまだ癒えていない中、撮影現場に復帰し、シーンを完成させ、賞賛を浴びる。また、同じスタント仲間のシャクール(ヴィニート・ラーイナー)に求婚され、それを承諾する。

 現代。すっかり老女となったレーシュマーの元へ、ローヒト・シェッティー監督から電話が掛かってくる。仕事の話だったが、スタントではなく、ちゃんと顔が出る役であった。レーシュマーはいつものように快諾し、その役をこなす。その映画は、「Golmaal Again!!!」であった。

 上映時間は100分ほどで、インド映画としては短い。また、レーシュマーの生涯をかなり飛ばし飛ばしで追っており、もっと上映時間を割いてじっくりと作り上げればより素晴らしい映画になったのではないかと感じた。それでも、レーシュマー・パターンのような人物がインド映画界で活躍していたという知られざる事実を知ることができるだけでも貴重な映画であり、インド映画ファンならば一見に値する作品となっていた。

 「The Sholay Girl」の不満点は、レーシュマーの伝記映画でありながら、彼女の人生において重要な要素や場面があまり詳しく描かれていなかったことだ。例えば、レーシュマーが、なぜ、どのように、スタントウーマンができるほどの運動能力を身に付けたのか、全く語られていなかった。レーシュマーが重傷を負いながらも「Sholay」の馬車シーンに出演しようとしたのは、妹の結婚式の資金をどうしても稼がなければならなかったからだ。だが、妹の結婚式が劇中で描かれることもなった。通常ならば、結婚式シーンはインド映画のハイライトとなるはずだ。また、レーシュマー自身の結婚式シーンもすっ飛ばされてしまっていた。

 それ以外にも、あまりに断片的すぎるシーンが散見され、なんだか走馬灯のような映画であった。一応撮ったが編集の段階でカットしてしまったのか、それとも最初から撮っていなかったのか。もし後者ならば、脚本段階から、もう少し長い映画になることを覚悟の上で、さらにいろいろなエピソードを盛り込むと同時に、各エピソードの落ちをしっかりと付けるべきであった。

 しかしながら、着想は非常に良かった。普段はスターの影に隠れて観客の記憶に残ることのないスタントマン、しかも初のスタントウーマンの人生にスポットライトを当て、裏方の立場からインド映画業界を覗くというのはユニークな体験だった。レーシュマーは、グル(師匠)と慕うアズィームから、「スタントマンのキャリアは、目立とうと思った瞬間に終わる」という教えを受け、それを忠実に守る。彼女は、6ヶ月の大怪我を負ったシーンでも顔を出そうとせず、プロとして仕事をやり遂げた。だが、彼女の心も傷つくことはあった。あんなに苦労して撮った「Sholay」の馬車シーンでも、観客にはヘーマー・マーリニーが演じたと思われ、彼女が拍手を浴びることはなかった。しかし、レーシュマーの恋人シャクールは、「星は昼間には見えないが、夜には輝く。君の時代がきっとやって来る」と言って励ます。

 スタントウーマンに徹して来たレーシュマーが初めて顔を出せる役をもらえたのは、ローヒト・シェッティー監督の「Golmaal Again!!!」(2017年)であった。幽霊に乗り移られた老婆がダッシュで走り出すシーンがあるが、これをレーシュマーが演じていた。彼女が初めて映画でスタントをしたのが1972年の「Ek Khiladi Bawan Patte」だったので、実に業界に入って45年の後にようやくこのような役がもらえたことになる。「The Sholay Girl」では、冒頭に「Sholay」の馬車シーン、終盤に「Golmaal Again!!!」の老婆ダッシュシーンが使われていた。また、レーシュマー自身も出演していたが、まだまだ偉丈夫であった。

 レーシュマーを演じたビディター・バーグは、2011年のデビュー以来、様々な言語の映画に出演して来ている。インドでよく言う「ストラッグリング(もがいている)」女優の一人と言えるだろう。だが、「Babumoshai Bandookbaaz」とこの「The Sholay Girl」で見せた演技からは、十分もっと上を狙える実力が感じられる。今後、引き続きの活躍に期待したい。

 「The Sholay Girl」は、インド初のスタントウーマン、レーシュマー・パターンの伝記映画である。映画自体の質は高くないが、レーシュマーの生き様がかっこよく、こういう女性がインド映画業界にいたということを知れるのがもっとも嬉しい。全てのインド映画ファンに勧めたい映画である。