Badla

3.5

 復讐モノはインド人の好む伝統的なジャンルであり、「Madhumati」(1958年)、「Sholay」(1975年)、「Karz」(1980年)から最近の「Ghajini」(2008年)や「Badlapur」(2015年)まで、様々な復讐モノ映画が作られ、好評を博して来た。理想論では、「右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せ」的な考えもあるのだが、一般レベルでは今でも「名誉」を守るために「復讐」が推奨されるような雰囲気がある。

 2019年3月8日公開の「Badla」も、題名の「復讐」が示す通り、復讐モノ映画だ。だが、サスペンス仕立てになっており、過去の復讐モノ映画とはだいぶ趣が異なる。監督は「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)などのスジョイ・ゴーシュ。主演はアミターブ・バッチャンとタープスィー・パンヌー。他に、アムリター・スィン、トニー・ルーク、タンヴィール・ガーニー、マーナヴ・カウル、デンジル・スミス、アントニオ・アーキールなどが出演している。

 英国在住のインド人女性ナイナー・セーティー(タープスィー・パンヌー)は著名な実業家であるが、愛人アルジュン(トニー・ルーク)殺人事件の容疑者として逮捕された。ナイナーは、友人の弁護士ジミー(マーナヴ・カウル)の紹介で、敏腕弁護士バーダル・グプター(アミターブ・バッチャン)を紹介され、弁護を頼む。予定の時間より早くやって来たバーダルはナイナーに真実を話すように促す。

 ナイナーは5ヶ月前の事件から話し出す。ナイナーとアルジュンは密会した帰り、森林の中で交通事故に遭い、一人の若者を殺してしまう。ナイナーはその若者を自動車ごと池に沈める。アルジュンは親切な夫婦、ラーニー(アムリター・スィン)とニルマル(タンヴィール・ガーニー)に助けられるが、実は殺してしまったのは彼らの一人息子サニーであった。

 ナイナーとアルジュンは証拠を隠滅し、二度と会わないことを誓う。だが、ラーニーはアルジュンとナイナーを疑い、独自に捜査を始めていた。ナイナーは、ラーニーがアルジュンを殺したと考え、バーダルと共にそういうストーリーを作ろうとする。

 女性が主体となって、自分の息子を殺した女性に対して復讐しようとする点が目新しい復讐モノ映画だった。黒澤明監督「羅生門」(1950年)のテクニックを使って、本当か嘘か分からない出来事がそれぞれ映像で語られ、観客を混乱させる。そして最後にはアッと驚くどんでん返しが待っている。

 論理的に構成されたストーリーであり、しかもスジョイ・ゴーシュ監督は良心的にも所々に伏線を用意してくれていて、少しずつ種明かしをしている。だから、勘の良い観客ならば、事の真相も最後のどんでん返しも予想の範囲内かもしれない。

 脚本の勝利であると同時に、俳優たちの演技の見せ所でもあった。特にタープスィー・パンヌーは、大御所俳優アミターブ・バッチャンを前にしても一歩も引けを取らず、堂々と演じ切っていた。当初は罠にはめられた女性かと思われたが、映画が進行するに従って、頭の切れる一筋縄ではいかない女性であることが分かって来る。それに伴って演技にも変化が現れ、彼女の実体が最後に明らかになる。強気な印象のあるタープスィーにとってはまり役であった。

 もちろん、アミターブ・バッチャンも貫禄の演技で素晴らしかったのだが、もう一人、好演をしていたのがアムリター・スィンである。サイフ・アリー・カーンの元妻で、サラー・アリー・カーンの母親でもあるアムリターは、1980年代から90年代が最盛期であった。近年あまり多くの作品に出演していないものの、重量感のある演技をすることのできる女優であることを「Badla」にて改めて証明できた。

 「Badla」は、インド映画で人気の復讐モノ映画かつサスペンス映画である。「Kahaani」の監督が撮っているだけあって、非常にしっかりした作りで、しかも結末の種明かしを事前に小出しにしているところがお茶目だ。タープスィー・パンヌー、アミターブ・バッチャン、アムリター・スィンなどの演技も一級品である。嘘にまみれた証言の中を掘り下げて真実を見つけ出すスリルがある。