The Fakir of Venice

3.0

 ファルハーン・アクタルは、「Dil Chahta Hai」(2001年)などの監督として知られているが、「Rock On!!」(2008年)で俳優デビューも果たし、以後、監督と俳優の二刀流で活躍している多彩な人物である。俳優としての彼の、最初期の作品のひとつが「The Fakir of Venice」であった。実話に基づくストーリーとのことで、2009年にロサンゼルス・インド映画祭で上映された後、10年も棚上げされており、2019年2月8日にようやく一般公開された。

 監督はアーナンド・スラープル。主演はファルハーン・アクタルとアンヌー・カプール。題名の通り、主な舞台はイタリアのヴェネツィアであり、イタリア人女優ヴァレンティナ・カルネルッティ、ドイツ人男優マシュー・カリエレなどの白人俳優が出演している。曲数は多くないが、音楽はARレヘマーンが担当している。

 ムンバイー在住のアーディ・コントラクター(ファルハーン・アクタル)は、映画などのプロダクションのために必要な人材を調達するコーディネーターをしていた。ある日、イタリアのクライアントからファキール(行者)調達の依頼があった。彼はヴァーラーナスィーまで行って適任者を探すが、なかなか見つからない。ムンバイーに戻った後、サッタール(アンヌー・カプール)という男を見つけた。本物のファキールではなかったが、砂の中に何時間も埋まっていられる特技を持っていた。アーディはサッタールを連れてヴェネツィアに降り立つ。

 ヴェネツィアのアートギャラリーでサッタールは土の中に埋まるパフォーマンスをし、好評を博す。ところが、サッタールは肺の病気を抱えており、余命が残り少なかった。しかも、時々悪夢にうなされていた。アーディはサッタールを使って儲けようと考えるが、死期を悟ったサッタールに金銭欲はなく、なかなか乗り気にならなかった。また、サッタールは大の呑兵衛だったが、アーディに禁酒させられ、苦しみ出す。とうとうサッタールはアーディの留守中にホテルを脱走してしまう。

 サッタールは夜のヴェネツィアを彷徨った挙げ句、ジャーナリストのジア(ヴァレンティナ・カルネルッティ)の家に泊まる。サッタールが脱走したことを知ったアーディはヴェネツィア中を探し回り、ようやくジアの家に辿り着く。アーディは、サッタールにパフォーマンスを強要するのを止め、エキジビションの最終日には自分で土の中に埋まる。

 サッタールは、ジアと再会を約束してインドに戻る。だが、サッタールはそれから1週間後に亡くなってしまった。

 西洋人がインドに対して抱くオリエンタリズムをインド人が逆手に取ってストーリーを構築した、変わった雰囲気の映画だった。ヴェネツィアが主な舞台となっていたためにオシャレな雰囲気もあるのだが、ファキールに扮装したサッタールがあまりに土着のインド人であるため、土臭い雰囲気も同時に出ていた。これらの相反する要素が不思議なケミストリーを醸し出していた。

 イタリアのギャラリーがエキジビションのために求めていたのは、頭を土に埋めて倒立するファキールであった。だが、コーディネーターのアーディが見つけて来たのは、全身を身体に埋める特技を持った男だった。彼は、妻を亡くし、妹を頼りに貧しい生活を送っており、外国に行くのも初めてであった。アーディは彼をファキールに仕立てあげ、ヴェネツィアまで連れて来る。そんなサッタールがヴェネツィアでトラブルを起こさないはずがなく、アーディはその尻拭いをさせられる。

 アーディにとっては単なる金稼ぎの旅行だったが、サッタールにとっては、死を覚悟した旅だった。彼は、旅行中に死んで、保険金が妹に渡ればと考えていた。だが、純粋な彼は、周囲の人々から搾取されていた。アーディもその一人であったし、アーディにサッタールを紹介した男もそうだった。もし保険金が出たとしても、妹に渡る額は4割程度で、残りは中抜きされる契約になっていた。処世術を全く心得ていないサッタールを見て、アーディはとうとう同情してしまう。

 また、サッタールはヴェネツィアでジアという女性と出会う。ジアは、サッタールがアーディに無理矢理パフォーマンスをさせられていると考え、夜中に街中を彷徨っていた彼を自宅に招き入れる。そして、悪夢にうなされる彼を優しく抱擁する。このときの出来事がきっかけでサッタールとジアは心を通わすようになり、ジアはすぐにインドに会いに来ると約束する。だが、サッタールは彼女を出迎える前にこの世を去って行ってしまった。

 ファルハーン・アクタルも適役であったが、何と言ってもサッタールを演じたアンヌー・カプールが映画を支配していた。アンヌーは、一般的には、「Vicky Donor」(2012年)辺りから注目され始めた俳優だと記憶しているが、それよりも前に撮影されたこの「The Fakir of Venice」でも非常に印象深い役を演じ、既に実力の片鱗を見せていた。口数は少ないが、全身でもってキャラクターを作り上げており、見事だった。

 台詞は英語とヒンディー語が半々で、ヒングリッシュ映画と分類しても差し支えないくらいだ。ただ、サッタールはほぼヒンディー語オンリーである。物語の半分はイタリアが舞台なので、イタリア語も出て来る。

 「The Fakir of Venice」は、インドからヴェネツィアに、見世物にするためのファキールを連れて行くストーリーの、変わった雰囲気の映画である。近年流行の実話に基づくストーリーだが、10年間お蔵入りしていた作品で、ファルハーン・アクタルやアンヌー・カプールの若い頃の演技が見られる。事実は小説よりも奇なり、とは言うが、着想が面白い佳作であった。