Thugs of Hindostan

3.5
Thugs of Hindostan
「Thugs of Hindostan」

 インド映画界は言語ごとに独立しているが、相互に影響も及ぼし合っている。ヒンディー語映画産業はインド最大規模であり、他の映画界に及ぼす影響も甚大であるが、他の映画界から人材やアイデアを吸収するのも早い。南インド映画(主にタミル語やテルグ語)からの影響は何波にも渡って受けて来ているが、ここ最近では「Baahubali」シリーズ(2015年2017年)の影響が顕著で、叙事詩的な戦争映画が増えた。2018年11月8日公開のヒンディー語映画「Thugs of Hindostan」も、壮大な規模のエピック・ドラマである。インド映画では珍しく、海洋アドベンチャー的な要素も含んでいる。予算は22億ルピー以上と推定されており、「Baahubali」を越えている。プロデューサーのアーディティヤ・チョープラーが社運を賭けて製作した映画といえる。

 監督は「Dhoom: 3」(2013年)のヴィジャイ・クリシュナ・アーチャーリヤ。オールスターキャスト映画であり、アミターブ・バッチャン、アーミル・カーン、カトリーナ・カイフ、ファーティマー・サナー・シェークなどが出演している。アミターブとアーミルが共演したのはこれが初めてである。また、ダブルヒロインの映画だが、驚くべきことに「Dangal」(2016年)で有名になったファーティマーの方がメインヒロインの地位におり、先輩のカトリーナはサブヒロイン扱いだ。他に、ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブ、ローニト・ロイ、シャラト・サクセーナー、イーラー・アルンなどが出演している。

 まずは1795年、架空の王国ラウナクプルが英国東インド会社に併合されるところから物語は始まる。ミルザー・スィカンダル・ベーグ王(ローニト・ロイ)や王族は皆殺しとなるが、娘のザフィーラーは生き残った。忠臣クダーバクシュ(アミターブ・バッチャン)に守られてザフィーラーはラウナクプルを脱出する。

 11年後、クダーバクシュは「アーザード(自由)」と呼ばれ、ザフィーラーと共に徒党を組んで英国人に反旗を翻していた。英国人とインド人の間を行ったり来たりしながら金を稼ぐ詐欺師のフィランギー(アーミル・カーン)は、東インド会社のクライブから、アーザードの情報を集めるように指示される。フィランギーはアーザードに近づき、信頼を得る。

 アーザードはドゥルガープルに武器を調達しに行くが、そこで東インド会社の軍隊に取り囲まれてしまう。アーザードはザフィーラーをフィランギーに託し、英国船に単身突撃し、死去する。アーザードの遺志を継いだザフィーラーはフィランギーを使って英国軍への反撃を開始し、多大な損害を負わせる。だが、東インド会社軍もザフィーラーたちの隠れ家に反撃をして来て、壊滅的なダメージを受ける。

 折しもディーワーリー祭が近づいていた。クライブら東インド会社の官僚たちの前で、フィランギーの旧友で踊り子のスライヤー(カトリーナ・カイフ)が踊る予定となっていた。フィランギーはザフィーラーらと共にスライヤーの舞踊団に紛れ込ませてもらい、クライブを暗殺しようとする。

 まずは、海上や船上での戦いが多い映画で、それが今までのインド映画ではあまりなく新鮮に映った。それも取って付けたような海戦ではなく、かなり臨場感のあるアクションシーンであった。ジョードプルのメヘラーンガル城塞で撮影された、ラウナクプル城での攻防戦のシーンも力が入っていた。ダンスシーンの見所は、冒頭の「Suraiyya」や終盤の「Manzoor-e-Khuda」だ。プラブ・デーヴァによる振り付けは、時代劇らしくなく、なんだか変な動きをしていたが、ヴィジュアルはとても豪華だった。

 だが、アーミル・カーン演じるフィランギーの行動原理がよく分からず、観客は置いて行かれてしまう。特に「Manzoor-e-Khuda」が終わった後の彼の行動はよく分からない。フィランギーとザフィーラーが結ばれるのかと思ったら、最後の最後でスライヤーが出て来るのもまた混乱の種だ。フィランギーは、関わった人全てを騙すような詐欺師というキャラなのだが、観客まで騙しており、その行動のせいで、まるでパズルのようなプロットになってしまっていた。

 アミターブ・バッチャンは、もう70歳を越えているが、甲冑を身にまとって剣を振り回し、獅子奮迅の演技をしていた。こんなにアクションをさせていいのかと心配になるくらいだ。ヒロインの2人では、カトリーナ・カイフに見せ場が少なく、ファーティマー・サナー・シェークが目立っていた。カトリーナもいつの間にかアラフォーに近づきつつある。世代交代の波を感じさせられた。

 「Thugs of Hindostan」は、残念ながら期待ほどのヒットにはならず、アーミル・カーンの作品としては珍しく失敗作の烙印を押されてしまった。だが、アクションシーンは迫力があるし、アミターブとアーミルの初共演はひとつの事件であるし、また、ヒロインの世代交代を告げる作品でもあるので、見所には事欠かない映画である。