Namaste England

3.0

 海外に住むインド人移民はNRI(在外インド人)と呼ばれるが、NRIを主人公にしたヒンディー語映画は多い。映画で描かれるNRIと母国インドとの関わり方は様々だが、インド映画である以上、インドを好意的に取り上げる内容になりやすいのは当然のことだ。海外生活の長いNRIがインドを懐かしがる様子、NRIが帰郷し故郷の発展に寄与する様子、NRIが外国で迫害され苦労する様子など、様々なパターンが見受けられる。

 2018年10月18日公開の「Namaste England」も、NRI映画の一種と捉えていいだろう。英国の居住権獲得のためには手段を選ばない女性が主人公の映画である。監督はヴィプル・アムルトラール・シャー。主演はアルジュン・カプールとパリニーティ・チョープラー。他に、アーディティヤ・スィヤール、アランクリター・サハーイ、アニル・マーンゲー、サティーシュ・カウシク、マッリカー・ドゥアーなどが出演している。また、ラッパーのバードシャーがエンドクレジットソング「Proper Patola」に特別出演している。

 パンジャーブ州アムリトサル郊外の村に住む青年パラム(アルジュン・カプール)は、ジャスミート(パリニーティ・チョープラー)と出会って恋に落ち、二人は結婚することになる。だが、ジャスミートの父親は、結婚後もジャスミートが仕事をしないという条件を出していた。ジャスミートは宝石デザインの仕事をしたいと考えており、結婚後も何とか仕事ができないかと考えていた。

 1年後。ジャスミートはパラムと共に英国に移住することを思い付く。だが、パラムは、大使館などに人脈を持つ友人と喧嘩をしてしまい、ヴィザが取れない状態にあった。そこで、違法に移住する手段を模索する。怪しげな旅行代理店を営むグルナーム(サティーシュ・カウシク)から、偽装結婚による英国移住の手段を勧められる。ジャスミートは、パラムとよく相談せずにその手段を採り、一人で英国に行ってしまう。ジャスミートが偽装結婚した相手はサマル(アーディティヤ・スィヤール)という英国在住のインド人であった。

 インドに一人残されたパラムは、バングラデシュ経由で貨物船に乗ってヨーロッパに密入国する。ロンドンに辿り着いたパラムは早速ジャスミートと会うが、彼女が偽装結婚から抜け出せないでいるのを見て、自分も事情を知るアリーシャー(アランクリター・サハーイ)と結婚しようとする。パラムとアリーシャーが結婚するのを知って嫉妬を募らせたジャスミートは、居住権よりもパラムを選び、彼と共にインドに戻ることを決意する。

 所詮はフィクションであるため、内容についてとやかく言うのは野暮なのだが、この映画には道徳的に大きな問題があった。それは、偽装結婚や密入国などをただし書きなくストーリーに組み込んでしまっていることである。島国に住む者の平和ボケした考え方かもしれないが、密入国を軽々しく扱う「Namaste England」は、特に密入国される側の英国にとっては、いい迷惑の映画なのではないかと心配してしまう。また、このような映画があることで、インドが不法移民の輸出国として世界から見られてしまわないか。ちょうど不法移民がホットな話題となっている時期に、敢えてこのような映画が作るのは無神経と言わざるを得ない。

 だが、移民を促進する内容の映画ではなく、むしろ逆で、移民先に天国は待っていないという現実をインドの一般庶民に突き付ける目的の映画だった。主人公のジャスミートは英国移住に憧れ、パラムという夫がいるにもかかわらず、偽装結婚をしてまで英国に渡るが、そこで南アジア人移民の悲惨な現状を見て考えを変える。夫が英国まで追い掛けて来て、違う女性と偽装結婚しようとしたことも、彼女の翻意を促した。エンディングでは、インドへの帰還がハッピーエンドとして描かれていた。

 ジャスミートの行動はあまりに自分勝手であり、おそらく観客は彼女に付いて行けないだろう。その一方で、インドに残されたパラムには同情してしまうのだが、後半になると、今度はパラムが英国に密入国して、ジャスミートを邪魔し出す。この辺りになると、どちらに同情していいか分からなくなり、急速に映画の世界から弾き出される気分がする。脚本の時点で失敗しているストーリーだと言える。

 ただ、ジャスミートがなぜ英国移住にこだわったかと言えば、彼女の実家があまりに保守的な家庭で、彼女に外で仕事をすることを許さなかったからだ。仕事ができると信じてパラムと結婚したのだが、パラムの父親も、「結婚後はジャスミートに仕事をさせない」という彼女の父親の条件を飲んでしまう。その閉塞感を打ち破るための英国移住であった。その動機は理解できる。だが、仕事をするための英国移住だったのが、いつの間にか英国移住が目的となってしまっており、そこから話がこんがらがり出すのである。

 パラムが正攻法ではヴィザを取れなくなったきっかけも、何だか取って付けたようなものだった。パラムとジャスミートの結婚式に出席した友人が酔っ払ってパラムの父親に無礼を働いたため、パラムは彼を平手打し、無理矢理土下座させる。その友人は、見たところ単なる弱虫なのだが、実は一帯のヴィザ手配を牛耳っている大物で、パラムにヴィザが下りないように根回しをしてしまっていた。だが、そんなことでヴィザが下りなくなるようなものなのだろうか。自分で大使館に行ってヴィザを申請すればいいのではなかろうか。

 アルジュン・カプールとパリニーティ・チョープラーは、「Ishaqzaade」(2012年)で共演した仲である。「Ishaqzaade」は、パリニーティにとっては第2作、アルジュンにとってはデビュー作という思い出深い作品だったはずだ。今回が二人の2度目の共演となる。パリニーティは相変わらず一触即発のダイナマイトのような積極的な女性を演じているが、この間にアルジュンはだいぶソフトな役柄が定着しており、「Namaste England」での彼の役柄も、基本的には、彼女の要望を何とか叶えさせてあげようとする優しい夫であった。

 セカンドヒーローとしてアーディティヤ・スィヤール、セカンドヒロインとしてアランクリター・サハーイが出演していた。二人の出番は主に後半だった。アルジュンとパリニーティの引き立て役ではあったが、二人とも次世代スターの座を狙う野心的な演技をしていた。

 「Namaste England」は、英国移住を夢見る女性とその夫が主人公の映画であるが、そのために二人が採る手段は偽装結婚や密入国で、結構物騒な映画である。最終的にはインドへの帰還がハッピーに演出されるが、大いに疑問の残る映画になっていた。アルジュン・カプールとパリニーティ・チョープラーの息の合った演技は見る価値がある。