Hotel Mumbai (Australia)

3.5

 2008年11月26日にムンバイーで発生した同時多発テロは、早くも2013年にラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督が「The Attacks of 26/11」で映画化している。この映画は、レオポルド・カフェ、チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅、タージマハル・ホテル、カーマー病院の主に4ヶ所で起こった襲撃事件を追うと同時に、10人の実行犯の内、唯一生け捕りにされたアジュマル・カサーブにも焦点が当てられていた。事件の詳細はこの映画のレビューで書いたので、ここでは繰り返さない。「The Attacks of 26/11」の後も、いくつか映画やドラマが作られている。

 ムンバイー同時多発テロから10年が経ち、主にオーストラリアの資本によって、再び事件が映画化された。2018年9月7日にトロント国際映画祭でプレミア上映され、インドでは2019年11月29日公開となった「Hotel Mumbai」である。この事件では多くの外国人も犠牲となったため、インド国外でも関心が高いようだ。

 監督はオーストラリア人のアンソニー・マラス。主演は米国人俳優アーミー・ハマーとインド系英国人俳優デーヴ・パテール。デーヴはデビュー作「Slumdog Millionaire」(2008年)での成功以来、英米の映画でインド人男性役が必要になるとかなりの確率で起用されている。「Hotel Mumbai」のキャストは国際色豊かで、インド人俳優としてはアヌパム・ケールの出演が特筆すべきである。他に、イラン系英国人女優ナーザニーン・ボニヤーディー、オーストラリア人女優ティルダ・コブハム・ハーヴェイ、英国人男優ジェイソン・アイザックスなどが主要な役で出演している。

 題名が示すとおり、「Hotel Mumbai」は、ムンバイー同時多発テロの中でも4人のテロリストの襲撃を受けたタージマハル・ホテル内部の状況を中心に描いたスリラー映画だった。たまたま事件当時にホテルに居合わせた宿泊客と、ホテルの従業員の視点の2つから、襲撃を受けてから治安部隊が到着するまでの十数時間を、緊迫感あふれる映像で再現していた。

 タージマハル・ホテルでの犠牲者の半分がホテル従業員だったこと、また、ホテル従業員たちの勇気ある行動が犠牲者を最小限に抑えるのに貢献したことなどを賞賛と共に描いた英雄譚であると同時に、実行犯の黒幕がパーキスターンから電話で指示を出していた旨も明記されており、完全にインドの立場から事件を描いた作品である。パーキスターン側からしたら、好意的には受け止められない内容であろう。

 事件当時の実際の映像が時々差し挟まれ、臨場感がある。タージマハル・ホテルの外観は実際のホテルのものだ。内部まで実際のタージマハル・ホテルで撮影されているかどうかは分からない。映画の内容は、実際に起こった出来事にかなり忠実に構成されていると言っていい。

 それ故に、このテロ事件でどういうミスがあったのかも洗い出されていたように感じた。たとえば、タージマハル・ホテルに4人のテロリストが入り込んでしまったのは、マネージャーが彼らを一般客と共に迎え入れてしまったからだった。マスメディアが警察や治安部隊の動きを逐一報道したため、テロリストに情報が筒抜けになってしまっていたことも、当時から指摘されていた失態である。当時、対テロ部隊がムンバイーにはなく、デリーから派遣されるまで時間が掛かったことも、犠牲者の数の増加の原因となった。

 「Hotel Mumbai」は、オーストラリア人監督が外国人の視点から撮った映画ではあるが、ムンバイー同時多発テロをよく研究して作られており、インド人の立場も十分に考慮して慎重に構築された映画だと感じた。実話に基づいているだけあって、単なる脱出映画ではなく、極限の状態に置かれたときに人はそれぞれの職分や役割においてどのような行動を取るべきかを考えさせられる内容となっていた。インド映画ではないが、インドに関心のある人は是非観るべき映画である。