Fanney Khan

3.5
Fanney Khan
「Fanney Khan」

 多くの人が認める通り、インド映画の最大の特徴は歌と踊りである。そうであるが故に、歌や踊りがいかにストーリーと調和し、ストーリーを盛り立てているかは、重要な評価ポイントとなる。優れた歌や踊りでクライマックスを迎える映画は高評価だ。2018年8月3日公開のヒンディー語映画「Fanney Khan」は、歌に焦点を当てた作品である。ベルギー映画「Everybody’s Famous!」(2000年)のリメイクである。

 監督はアトゥル・マーンジュレーカル。広告業界で経験を積んで来た人物で、映画の監督は今回が初めてである。ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラーがプロデューサーを務めている。主演はアニル・カプールとアイシュワリヤー・ラーイ。他に、ラージクマール・ラーオ、ディヴィヤー・ダッター、ピフー・サーンド、サティーシュ・カウシクなどが出演している。

 舞台はムンバイー。プラシャーント・クマール(アニル・カプール)は、本業は工場労働者だったが、時々、「ファンネー・カーン」のステージネームと共に、地元のお祭りなどで歌手をしていた。彼の夢は、娘のラター(ピフー・サーンド)をスター歌手にさせることだった。ラターは天性の歌声を持っていたが、太っており、誰も彼女の声を真剣に聴こうとしなかった。プラシャーントの同僚にアディール(ラージクマール・ラーオ)がいた。

 ある日、プラシャーントの勤める工場が潰れてしまう。彼はタクシー運転手となるが、偶然、スター歌手のベイビー・スィン(アイシュワリヤー・ラーイ)を乗せる。ひらめいたプラシャーントは、ベイビーに睡眠薬を飲ませて誘拐し、ベイビーのマネージャー、カッカルに強要して、ラターのための歌を作らせる。だが、カッカルは誘拐犯がラターの父親であることに気づく。カッカルはこの誘拐事件を使って視聴率を稼ぎ、大儲けすることを思い付く。いつの間にかプラシャーントは罠にはまりつつあった。

 この映画はまず、才能が正しく評価されない世の中へのアンチテーゼである。ラターの歌声は地元では誰もが認めていたが、いざ彼女がステージに上がると、観客は彼女の容姿ばかりを見てしまい、彼女の歌声を真剣に聴こうとしない。いつしかラターも自信を失い、歌手への夢を諦めそうになる。歌手は第一に歌で評価されるべきであるのに、どうしても外見を第一に見られてしまう。

 だが、父親のプラシャーントは一途に彼女の才能を信じ続けた。彼女をスター歌手にさせるために、人気歌手の誘拐という極端な手段を採るのだが、それだけ彼女の才能を信じ、ひたすら支え続けた。その純粋な親心に心を打たれる。

 また、ベイビーも元々は孤児で、苦労してスター歌手の地位を築いた人物だった。彼女は、自身の体験から、雑音に耳を貸さずにひたすら努力し続けることを主張する。

 カッカルの策略によりプラシャーントは誘拐犯として警察に逮捕されそうになったばかりか、リアリティーショーの主人公に仕立てあげられ、ラターがステージで歌うところを見守る姿を全国民の前にさらす。カッカルはそのままプラシャーントが逮捕されるところまでで完結と考えていたが、ラターの歌声が余りに素晴らしく、また、娘のために何でもする父親の気持ちが人々の心を打ち、彼は無罪放免となり、ラターは一夜にしてスターとなる。嘘のようなシンデレラストーリーであったが、とても感動する作品であった。

 インド映画界ではプレイバックシンガーの文化が根付いているため、歌が中心の映画であっても、俳優が自分で歌を歌うことは少ない。ラターを演じたピフー・サーンドも実際には歌を歌っていない。彼女の声を担当したのはモーナーリー・タークルである。太った女の子ラターを演じたピフーは本作がデビュー作である。彼女はTVドラマや映画の俳優をするパリトーシュ・サーンドの娘であるが、この後、特に映画への出演はない。「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)で太った女の子を演じたブーミ・ペードネーカルはその後痩せて女優として大活躍しているが、ピフーは引退したのかもしれない。

 アイシュワリヤー・ラーイは育児に忙しいのか、最近ほとんど映画の出演がない。「Fanney Khan」で演じたのは、メインヒロインとは言えない役であった。なぜ彼女がこの役を引き受けたのか、よく分からない。ただ、ラージクマール・ラーオとの凸凹カップルはユニークであった。

 「Fanney Khan」は、アニル・カプール主演のベルギー映画リメイクで、太った娘を歌手にしようと奮闘する健気な父親姿が心を打つ作品である。だが、インドでは大失敗作に終わった。そこまで悪い作品ではないと思うが、ピフーが太りすぎていてインド人観客に受けなかったのかもしれない。それでも、過小評価されている映画だと感じる。