Brij Mohan Amar Rahe!

4.0

 2018年8月3日からNetflixで配信開始されたヒンディー語映画「Brij Mohan Amar Rahe!」は、自分を殺した容疑(自殺ではない)で逮捕された男が主人公の、実話に基づいた数奇なブラックコメディーである。監督はニキル・バット。過去に「Saluun」(2009年)という映画を撮っているが、全く知らない。主演は「Ankur Arora Murder Case」(2013年)などに出演のアルジュン・マートゥル。他に、ニディ・スィン、シータル・タークル、マーナヴ・ヴィージ、サニー・ヒンドゥージャー、ヨーゲーンドラ・ティークーなどが出演している。

 題名の「Brij Mohan Amar Rahe!」とは、主人公の名前ブリジ・モーハンについて、「ブリジ・モーハンよ、永遠に!」という表の意味と、ブリジ・モーハンが自分の死を偽装した後に使った新たな偽名アマルを掛けて、「ブリジ・モーハンよ、アマルでいろ!」という裏の意味の2つがある。

 舞台はデリー。下着店を経営するブリジ・モーハン(アルジュン・マートゥル)は、妻のスウィーティー(ニディ・スィン)になめられ、仕事もうまくいかず、おまけに多大な借金を背負ってしまっていた。ただ、やることはやっており、スィンミー(シータル・タークル)という女性と不倫をしていた。

 ブリジは人生が嫌になり、ブリジ・モーハンとしてのアイデンティティーを捨ててスィンミーと高飛びしようと考えた。死を偽装するために死体を探していたところ、借金取りのラグ・バーイー(サニー・ヒンドゥージャー)が階段で足を滑らせて死んでしまう。ブリジは彼を自分の自動車に乗せ、ガソリンを振りかけて火を付ける。また、ラグ・バーイーの事務所から500万ルピーを横領した。ブリジはアマルを名乗り始め、スィンミーと安宿で一時的に潜伏生活を送り始める。一気に運が巡って来た。

 ブリジの焼け焦げた自動車が発見され、中には一体の焼死体があった。ベーニーワール警部補(マーナヴ・ヴィージ)が事件の担当となり、ブリジの妻スウィーティーを訪ねる。スウィーティーはベーニーワールを誘惑し、二人は禁断の関係となる。スウィーティーはブリジの保険金をベーニーワール警部補と山分けした。

 一方、スィンミーがブリジの携帯をオンにしてしまい、警察に追跡される。ブリジはスィンミーを誤って殺してしまい、金と一緒に郊外に埋めた。その直後にブリジはアマルとして逮捕され、ブリジの携帯電話を盗んだ容疑で拘留される。しかも、ブリジの殺人容疑まで追加された。ベーニーワール警部補はアマルがブリジであることに気付いていたが、スウィーティーを抱き込んでいたので、アマルが自分は実はブリジなんだと主張し始めても彼をアマルとして扱う。

 ブリジは起訴され、自分を殺した罪で死刑を宣告されそうになる。ブリジは500万ルピーをちらつかせてベーニーワール警部補や裁判官を買収しようとする。隙を見て金を持って逃走しようとするが、裁判長の判決通り、彼は誤って首つり状態となり、死んでしまう。

 1時間40分の短い映画で、スターの起用もなし、登場人物も最小限の低予算映画であったが、脚本が秀逸で、よくまとまったブラックコメディーに仕上がっていた。ヒンドゥー教の聖典に数えられるバガヴァドギーターに書かれている「人が古い服を脱いで新しい服を着るように、魂は古い身体を捨てて新しい身体を得る」という言葉からヒントを得て、借金や鬼妻から逃げるために、自分の死を偽装して新たなアイデンティティーを手に入れようとするが、それが失敗し、自分を殺した罪で逮捕されてしまうという奇想天外なストーリーであった。

 同時に、インドの隅々にまで汚職がはびこっている様子も、さも当たり前のように描写されていた。主人公のブリジも決して善人ではないのだが、騙されやすい性格で、おかげで多額の借金を背負ってしまう。高利貸しはもちろんのこと、警察、弁護士、裁判官と、誰もが金で動く。ブリジの妻スウィーティーですら、夫の死を悲しむよりも、多額の保険金が入ることを喜ぶ。愛人はなおさらで、ブリジが横領した金を持って逃げようとする。「Brij Mohan Amar Rahe!」の登場人物に善人はいなかった。

 ただ、これだけ不正や欺瞞が渦巻く中にあって、最後に裁判長が下した判決には神が宿っていた。公判にブリジは現れず、裁判長は欠席裁判のままブリジに死刑を宣告する。それとちょうど時を同じくして、ブリジは偶然に首吊り状態となり、死んでしまう。一度裁判長の口から発せられた判決は、いかに本人がその場にいなくても逃亡状態であっても神によって実行されるという、司法の神聖性が謳われていた。ヒンディー語作家プレームチャンドの「Panch Parmeshwar(5人の神)」を想起させた。意外な結末であったが、悪い終わり方ではなかった。

 味付けや展開は全く異なるが、生きているのに死んだことになってしまったという物語には、「Kaagaz」(2021年)がある。インドでは、ミスであっても一度死亡証明書が出てしまうと、その人が生存を証明するのは非常に困難であることが指摘されていた。それから察するに、「Brij Mohan Amar Rahe!」のブリジにも死亡証明書が出ているはずで、実はこの映画で描かれていたように単純な話ではないことが予想される。もしブリジが書類上死人となるならば、死人の犯した罪は罪に問えないはずで、そこを攻めることさえできれば、裁判も違った展開になったのではなかろうか。そこを広げてコメディー映画にすることもできた。だが、「Brij Mohan Amar Rahe!」は裁判劇ではなく、賄賂で何とかしようとする方向に持って行っていた。

 ブリジは映画開始時から借金を背負っていたのだが、さらに多額の借金を背負ってしまったのは、友人から騙されて、ソーナム・カプールが「Prem Ratan Dhan Payo」(2015年)で着ていたレヘンガー(衣服)を100着仕入れてしまったことだった。現在ソーナムのレヘンガーが大流行中という言葉を信じ、高利貸しから借金をしてまで買ったのだが、ブリジがそれを売り出した途端、今度はディーピカー・パードゥコーンが「Bajirao Mastani」(2015年)で着ていたレヘンガーが人気になってしまい、ソーナムのレヘンガーはちっとも売れなくなってしまった。この2つの映画は2015年の11月と12月に相次いで公開された。本当にここまで早く流行が移り変わったかは分からないが、面白い展開だった。

 「Brij Mohan Amar Rahe!」は、スターなしの低予算映画ながら、発想の奇抜さと見事な脚本により、秀逸なブラックコメディーに仕上がっていた。観て損はない。