Race 3

2.5

 21世紀に入り、ヒンディー語映画界に続編を作る習慣が根付いて以来、いくつものシリーズ物映画が作られて来た。その中でも「Race」シリーズは、観客を驚かせるいくつものどんでん返しが用意されたアクション映画が特徴である。今までに「Race」(2008年)と「Race 2」(2013年)が作られて来た。この2作にはキャストの連続性やストーリー上のつながりもあった。だが、2018年6月15日に公開された第3作「Race 3」は、題名こそその続きを思わせるものの、キャストもストーリーも全くリセットされた作品となった。

 第1作と第2作の監督はアッバース・マスターンだったが、第3作ではコレオグラファー出身監督のレモ・デスーザに交替した。メインのプロデューサーはTips社のラメーシュ・S・タウラーニーで一貫しているが、第3作にはプロデューサー陣にサルマーン・カーンが入り、主演も務めることになった。

 元々「Race」シリーズは、アニル・カプールとサイフ・アリー・カーンの映画だった。アニル・カプールは引き続き「Race 3」にも出演しているが、役柄は大幅に変更されている。サイフ・アリー・カーンは外れ、代わりにボビー・デーオールとサーキブ・サリームが入っている。

 ヒロインは第1作から第3作まで入れ替わりが激しいが、第2作にセカンドヒロイン級の役柄を演じていたジャクリーン・フェルナンデスが第3作にはメインヒロインとして続投している。他に、ダンサー出身の女優デイジー・シャーがセカンドヒロインに入った。

 他に、シャラト・サクセーナー、フレディー・ダールーワーラー、ラージェーシュ・シャルマー、ミリンド・グナジー、ナレーンドラ・ジャーなどが出演している。

 事件を起こしてインドを追われたシャムシェール・スィン(アニル・カプール)は海外に逃亡し、アルシファー島に一大武器製造拠点を築き上げた。シャムシェールには3人の子供がいた。スィカンダル・スィン(サルマーン・カーン)は亡き兄の息子だったが、兄の死後、兄の妻であるスミトラーと再婚したことで、彼の義理の息子となった。スーラジ・スィン(サーキブ・サリーム)とサンジャナー・スィン(デイジー・シャー)は双子で、スィカンダルの腹違いの弟と妹にあたった。シャムシェールはスィカンダルばかりを可愛がるため、スーラジとサンジャナーはいつかスィカンダルを亡き者にしようと考えていた。また、ラグ(シャラト・サクセーナー)はシャムシェールの用心棒で、ヤシュ(ボビー・デーオール)はスィカンダルの相棒だった。

 スィカンダルが北京で出会った元恋人ジェシカ(ジャクリーン・フェルナンデス)が、ヤシュの恋人としてアルシファー島に現れたことで、物語が動き出す。スーラジとサンジャナーは、ジェシカを使ってスィカンダルとヤシュの仲を裂こうとする。スィカンダルは二人の動きを既に察知していたものの、彼の望みはスーラジとサンジャナーを貶めることにはなく、家族が再結束することだった。しかも、スィカンダルの方が何枚も上手だった。彼は全てを知った上で、各人をコントロールしていた。

 まず、スィカンダル、スーラジ、サンジャナーはシャムシェールと血縁にはなく、三人ともスィカンダルの父親の子供であった。スィカンダルの父親を殺したのもシャムシェールであった。また、ヤシュこそがシャムシェール自身の実の息子であった。彼は、スミトラーが残した莫大な遺産を手にするため、三人を子供として扱っていたのである。また、ジェシカは実はシャムシェール逮捕のために密かに派遣されたインド政府のエージェントであった。

 全てが明らかになったことで、スィカンダル、スーラジ、サンジャナーとジェシカは結束してシャムシェールとヤシュに立ち向かう。シャムシェールとヤシュは逮捕され、インドに送還される。

 「Race」シリーズの特徴だが、人間関係が非常に複雑で、しかも裏切りや正体発覚が繰り返されるため、本当のアイデンティティーや人間関係を追っていくので頭がいっぱいいっぱいになる。題名の通り、自動車やバイクのチェイスシーンがお約束として随所に挿入されており、そのシーンは迫力がある。コレオグラファー出身の監督が撮った作品であるため、ダンスシーンにも気合が入っている。それでも、サルマーン・カーンが入ったことで案の定サルマーン・カーンの映画になってしまっており、過去に「Race」シリーズが培って来た特色とは全く別の味付けの娯楽映画になってしまっていた。果たして「Race 3」を名乗る必要があったのだろうか。

 基本的には派手なアクションと豪華なダンスを楽しむ単純な映画のはずなのだが、どんでん返しが多すぎて、誰が誰と組んで誰に敵対しているのか、よく分からなくなって来る。複雑な人間関係の映画でも、脚本や編集が上手だと、混乱せずにストーリーを追うことができるのだが、レモ・デスーザ監督はそこまで丁寧に作り込んでおらず、気軽に楽しめる映画になっていなかった。

 おそらく監督と主演男優サルマーン・カーンの力関係も、サルマーンの方が圧倒的に上のはずだ。サルマーンからはほとんど演技をしている素振りが見られず、彼のシーンは全てワンテイクで撮られているのではないかと感じられるほどだ。彼の主演作の中では、ワーストの一本に数えられる演技だ。ボビー・デーオールもなぜ起用されたのかよく分からないし、サーキブ・サリームもあまり目立てていなかった。

 ヒロインのジャクリーン・フェルナンデスとデイジー・シャーは、どちらも運動神経の優れた女優ということもあり、かなり見せ場を用意してもらえていた。高い身体能力を活かしたダンスシーンが複数あったし、この二人が拳を交えて戦うシーンまである。グリップ力に乏しい「Race 3」の中で、ヒロインたちの頑張りは映画の救いとなっていた。

 最近のヒンディー語映画では、ダンスシーンの数が少なくなり、しかもかなり淡泊になって来ている。その中で「Race 3」は、昔ながらのインド娯楽映画のフォーマットを踏襲しており、2時間半を超える上映時間の中で、多くのダンスシーンが差し挟まれる。そして、ロケーションからセットや衣装まで、どのダンスシーンにもお金が掛けられていた。ダンスシーンのないヒンディー語映画が増えて来ているのにつれて、コレオグラファーやバックダンサーの仕事も減少している。コレオグラファー出身のレモ・デスーザ監督は、同胞たちのその窮状を誰よりも理解しており、こうやってわざとダンスシーンの多い映画を作り、雇用を創出しているのだと思われる。

 前述の通り、ダンスシーンにおいて、ダンスは良かったのだが、惜しむらくは曲にあまり魅力のあるものが少なかったことだ。もっとも耳に残るのは「Allah Duhai Hai」だが、これは「Race 2」で使われた同名曲のリメイクである。また、「Selfish」という曲ではサルマーン・カーンが作詞をしており、ここでもサルマーンが出しゃばっている。

 「Race 3」は、ヒット作となった「Race」と「Race 2」の続編である。だが、前の2作とはほとんど無関係の映画になってしまっており、主演にのし上がったサルマーン・カーンの映画になってしまっている。どんでん返しが多すぎて筋を追うのに苦労する。興行的にも前2作とは比べるまでもない失敗作に終わった。残念ながら、前2作を楽しんで来た人にも無理には勧められない映画になってしまっている。