Parmanu: The Story of Pokhran

3.5

 インドは、第2次世界大戦中に原子爆弾を落とされた日本に対し非常に同情的な国である。毎年8月になると、国会では広島と長崎の犠牲者のために黙祷が捧げられる。その一方で、インドは核保有国である。中国やパーキスターンと対峙するため、核開発を国策として進めて来ており、世界からの非難を覚悟で核実験を成功させ、強引に核保有国の仲間入りを果たした。被爆国としての日本には深い同情を示してくれるが、核兵器に反対の国ではない。むしろ、核兵器でもって国防を達成する立場の国である。

 インドは過去に2回核実験を行っている。第1回は1974年5月18日。国民会議派のインディラー・ガーンディー政権時代である。1962年の中印戦争での敗北や、1964年の中国による核実験が、第1回の核実験の動機となったが、名目上は平和目的のためとされた。1998年5月11日に実施した2回目の核実験は、パーキスターンを念頭に置いた軍事目的の核実験であった。このときはインド人民党(BJP)のアタル・ビハーリー・ヴァージペーイー政権時代であった。ただし、1995年、国民会議派のナラスィンハ・ラーオ政権時代に一度核実験を計画したが、それを察知した米国の強い圧力に屈し未遂に終わったことがある。

 これらの出来事をスリラー要素のある映画に仕立てあげたのが、「Parmanu: The Story of Pokhran」である。2018年5月25日に公開されたヒンディー語映画で、監督は「Tere Bin Laden」(2010年)などのアビシェーク・シャルマーである。「Parmanu」とは「核」のことで、「Pokhran」とは、ラージャスターン州にある核実験場である。主演はジョン・アブラハム。ダイアナ・ペンティーやボーマン・イーラーニーが出演している。2回目の核実験にまつわる実話に基づいたフィクション映画である。

 主人公のアシュワト(ジョン・アブラハム)はインド工科大学(IIT)卒の英才で、諜報機関RAWに務めるインド行政職(IAS)だったが、1995年の核実験未遂の失敗を負わされ退職した。だが、1998年にヴァージペーイー政権が樹立すると核計画が再始動し、首相主席秘書のヒマーンシュ(ボーマン・イーラーニー)に召喚され、核実験の指揮を任される。アシュワトはバーバー原子力研究所(BARC)、国防研究開発組織(DRDO)、インド宇宙局(ISA)、インド陸軍、、諜報局(IB)から選りすぐりの5人によるチームを結成し、ポークランに飛ぶ。

 1995年の失敗以来、ポークランは米国のスパイ衛星3基によって厳重に監視されていた。だが、衛星の監視から外れる時間帯、いわゆるブラインドスポットがあった。アシュワトはその隙に実験の準備をし、衛星が飛行する時間になると全てを元通りにすることを繰り返しながら、着々と準備を進めた。

 だが、ヴァージペーイー政権は連立政権であり、基盤は脆弱であった。閣外協力をしていた政党が支持を撤回したことで政権が危うくなる。アシュワトは、ヴァージペーイー政権が「過半数の証明」を行う前に核実験を実施することを提案する。また、ジャイサルメールではパーキスターンと米国のスパイがポークランでの怪しい動きを嗅ぎ回っていた。アシュワトは家族をマナーリーに置いて極秘の任務に就いていたが、浮気を疑った妻がポークランまで来るというトラブルにも巻き込まれる。核計画は失敗に終わる寸前まで行く。

 しかしながら、アシュワトは陽動作戦を思い付く。カシュミール地方で軍を増強することで米国やバーキスターンの注意をそちらへ向けることに成功する。スパイ衛星もカシュミール地方を重点的に監視するようになる。ブラインドスポットの時間が増えたことで、準備を急速に進めることができた。

 運命の1998年5月11日、アシュワトは首相から実験の許可を取り付け、核実験を実施する。この核実験により、インドは改めて核保有国として名乗りを上げ、強国としての道を歩み始める。 

 2014年にBJPのナレーンドラ・モーディー首相が就任して以来、ヒンディー語映画界では政治的なプロパガンダ映画が多数作られるようになった。モーディー首相やBJPを称え、国民会議派を貶め、イスラーム教徒やパーキスターンに対するアンチテーゼを展開する映画である。「Parmanu」についても、モーディー首相上げは国民会議派下げの描写はなかったものの、ヴァージペーイー政権を称揚することでBJPの実績をアピールし、パーキスターンを敵国として名指しする映画であった。それに愛国主義的な味付けがなされていたと言える。

 実際のニュース映像が使われており、ヴァージペーイー首相や、パーキスターンのベーナズィール・ブットー首相とナワーズ・シャリーフ首相などが登場する。また、この核実験にはAPJアブドゥル・カラームも関わっていたが、彼は2002年から2007年まで大統領を務めた。

 ストーリーには、インド二大叙事詩の一つ、「マハーバーラタ」も重ね合わせられていた。「Parmanu」で核実験を成功させるのは6人のチームだが、彼らは「マハーバーラタ」に登場するパーンダヴァ五兄弟と、彼らに味方したクリシュナをイメージしていた。実際に、6人は「マハーバーラタ」の登場人物の名前をコードネームとして名乗っていた。さらに、国際的な非難にさらされることを覚悟して核実験を強行したことが、親族同士の争いとなったマハーバーラタ戦争の前にクリシュナが説いた「結果を考えず義務を遂行せよ」というメッセージによって正当化されていた。この辺りも、いかにもBJPが好みそうな筋書きである。

 核実験を題材にした映画というと、非常に複雑で壮大なものを想像するのだが、「Parmanu」では、米国スパイ衛星が飛んでいない隙にコソコソと準備を進めるという、スケールの小さな行動の繰り返しで、それが意外であった。下手すると何の面白味もない映画になっていた可能性もあるのだが、アビシェーク・シャルマー監督がよく練り上げたものと見え、スケールが小さいなりに、退屈しない映画に仕上がっていた。

 「Parmanu」は、俗にポークランⅡと呼ばれる、インドの第2回核実験を題材にした、実話に基づくフィクション映画である。インドが核開発の過程で涙ぐましい努力をしたことが垣間見えると同時に、日本人からすると複雑な思いのする映画でもある。世界中のあらゆる国がインドのように「やった者勝ち」の精神で核開発を進めて行けば、あっという間に世界に核が拡散してしまう。実際、ポークランⅡの直後にパーキスターンも核実験を行い、南アジアに核保有国が並び立つこととなった。とは言え、隣国の核兵器の脅威にさらされているという状況は日本も変わらず、果たしていつまでも米国の核の傘に依存していていいのか、ということも思う。インドは制裁を覚悟しながらも核を持つことによって平和をつかみ取る道を選んだ。日本の行くべき道を考えさせられる映画である。また、ジョン・アブラハムが今までにないほど熱演していたのも見所である。