Umrika

3.5

 デリーに住んでいた頃、大小様々な映画に触れる機会があったが、その中には、ヒットしなくてもいい作品というのはあった。そういう映画をきちんと評価するのは自分の役目だと勝手に考えていたが、その内の一本が「Delhi in a Day」(2012年)であった。デリーの裕福な家庭に居候しに来た英国人の視点から、「インディア(先進的なインド)」と「バーラト(後進的なインド)」に分断されたインドの姿が映し出された、低予算かつ小規模ながら、巧い作品だった。その監督がプラシャーント・ナーイルであった。

 2015年にサンダンス映画祭で上映され、インドでは2017年10月4日に公開された「Umrika」はプラシャーント・ナーイル監督の第2作である。主演は「ライフ・オブ・パイ」(2012年)や「ミリオンダラー・アーム」(2014年)のスーラジ・シャルマー。「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)のトニー・レヴォロリが助演で、インド映画界からはプラティーク・バッバル、アーディル・フサイン、サウラセーニー・マイトラーなどが出演している。題名の「Umrika」とは、「アメリカ」の訛った形である。

 インドの貧しい村に生まれ育ったウダイ(プラティーク・バッバル)は、米国に憧れを持つ母親に強制されて米国に旅立った。当時6歳だったラマーカーント(スーラジ・シャルマー)は、成長するに従って兄がどこにいるのかを理解し出す。しばらくウダイからは何の便りもなかったが、数ヶ月が経った頃に手紙が届き始め、母親は大喜びする。

 ある日、父親が急死する。ラマーカーントは父親の遺品を調べる内に気になる点を見つけ、郵便局員をしていた叔父を訪ねる。実は、ウダイから届いていた手紙は全て父親が書いていたものだった。この間、ウダイからは実際には1通も手紙が届いていなかった。

 ラマーカーントは兄を探しに米国へ行くことを決意し、村を出る。ボンベイに着くと、叔父のラージャンを頼って下宿生活をし始める。まずは、兄を米国に送った渡航斡旋業者パテール(アーディル・フサイン)を探すが、彼はマフィアであった。ラマーカーントは時間を掛けてパテールの組織に取り入り、ようやく彼と面会すると、米国に行きたいと直訴する。そのためには20万ルピーが必要だった。

 また、ある日ラマーカーントはラージャンを尾行する。ラージャンが行き着いた先は市場の床屋で、そこでは何とウダイが働いていた。ウダイは米国になど行っておらず、ずっとボンベイでパテールの手先となりながら床屋を経営していた。

 ラマーカーントは、母親を喜ばせるため、自分が米国に行くことを決意する。ウダイから20万ルピーの金を借り、パテールに渡す。パテールはラマーカーントを他の密航者と共にコンテナに収容し、米国行きの貨物船に乗せる。

 時代が明示されていた訳ではなかったが、いくつか実際の出来事が引用されており、インド人ならば大体どの時代の話か分かるようになっていた。例えば、インディラー・ガーンディー首相が非常事態宣言を発令したことに触れられたシーンもあったが、それは1975年のことである。また、アミターブ・バッチャンが撮影中に事故に遭って瀕死の重傷を負った事件があった。それは1982年のことである。そして、インディラー・ガーンディー首相暗殺も映画の中で報じられていたが、これについては1984年のことだ。チャレンジャー号の事故も出て来たが、これは有名で、1986年の事件である。よって、この映画は大体1970年代から80年代の時間軸で進んでいることが分かる。

 ウダイやラマーカーントが生まれ育ったジトワープルのロケーションは、その景観から察するに、おそらくマハーラーシュトラ州内陸部に特有のテーブル・マウンテンだ。美しい村だったが、インド人はあまりこういう場所に村落を作らないので、リアルには感じなかった。まだ電気も通っていないような後進的な村を演出するために作り出された村であろう。また、村人たちは北インドの方言のような言語をしゃべっていたが、これも架空のものだと感じた。

 僻地に住む貧しい農民たちが漠然と米国に対して持つイメージが、米国に渡ったウダイからの手紙で増幅されて行く様子は微笑ましかった。だが、その手紙には大きな秘密が隠されていた。実はそれはウダイではなく、父親が書いて送っていたのだった。ウダイから手紙が来ないことに落胆する母親を見かねて、父親が郵便局員の叔父と共謀して嘘を付いていたのだった。ウダイの弟ラマーカーントは、父親の死後に初めてその嘘に気付くが、母親には決して知らせなかった。

 では、ウダイはどこにいるのか。ラマーカーントは兄を探して米国へ行くことを決意する。その鍵を握っているのはパテールというマフィアだった。ボンベイに住む叔父ラージャンを頼って上京し、パテールにアクセスしようと試みる。だが、ラマーカーントはもうひとつの嘘を発見してしまう。実はウダイは米国など行っておらず、ボンベイで床屋をしていたのだった。ラマーカーントは、父親と兄の嘘を真実に変えるため、自ら米国に旅立つことを決意する。

 ウダイとラマーカーントの家族は、父、母、兄、弟の4人家族であり、女性メンバーは母親だけだったが、家族を牛耳っていたのは母親だった。ウダイの米国行きも母親の強い希望から起こったことで、ウダイ本人の希望ではなかった。母親がなぜそんなに米国にこだわったかというと、彼女の叔父が米国へ行って一山当て、億万長者になったからである。結局、この家族は村に母親を残して散り散りとなってしまうのだが、それは元を正せば、母親の欲望や羨望から始まったことであった。母親に強要されてウダイは米国へ渡るために村を出て、父親はウダイの代わりに手紙を書き続け、ラマーカーントもウダイを探してボンベイへ行く。家族の男性メンバーが母親のためを思っていろいろするのだが、それが家族の首を絞めていくことにもなった。どこかで誰かが歯止めを掛けるべきだったと感じる。

 映画の一番最後では、ウダイとラマーカーントが米国で一緒になっているかのようなビデオを母親に送り、それを母親が嬉しそうに観ているシーンが映し出される。彼らはまたひとつ嘘を重ねてしまっていた。果たしてこれで良かったのかと思ってしまう。後半は賛否が分かれるだろうが、前半の、父親の嘘がばれるシーンまでは素晴らしい出来だった。

 スーラジ・シャルマーやトニー・レヴォロリの演技も良かったし、プラティーク・バッバルもだいぶ落ち着いた演技ができる渋い俳優になった。当時のボンベイがどのような雰囲気だったかは分からないが、少なくとも嘘っぽさはなかった。

 「Umrika」は、米国に渡って以来音信不通の兄を探しにボンベイに上京する弟を主人公にした、サスペンスのあるドラマである。牧歌的なムードから急にサスペンスが始まる前半までは素晴らしい出来だが、後半は賛否が分かれるのではないかと思う。果たしてこれで良かったのか、と考えてしまう結末だが、悪い映画ではなかった。