B.A. Pass 2

1.5
B.A. Pass 2
「B.A. Pass 2」

 かつて「B.A. Pass」(2012年)というエロティックなスリラー映画があった。一般的な娯楽映画の作りではなく、ダークなリアリスティック映画で、「ネオノワール」とも呼ばれている。題名の上ではその続編となる「B.A. Pass 2」が2017年9月15日に公開された。

 「B.A. Pass」の映画評でも解説したが、題名の「B.A. Pass」とはインドの教育用語で、「文学部一般教養課程」と言った意味である。インドでは文学部は何の実用性もない学問だとして最底辺に置かれており、「無意味な学問を修めた人」のようなニュアンスになる。

 ただし、前作とのつながりはほとんどない。プロデューサーのナレーンドラ・スィンが共通しているくらいで、あとは共通点を探すのが難しいくらいだ。監督は新人のシャダーブ・カーン。主演はこれまた新人のクリティカー・サチュデーヴァ。他に、サショー、サングミトラー・ヒターイシー、インドラニール・セーングプター、サウラブ・ドゥベー、スクビール・カウル・ラーンバー、アーラヴ・チャウダリーなどが出演しているが、ほとんど無名の俳優たちである。

 ボーパールで生まれ育ったネーハー(クリティカー・サチュデーヴァ)は、文学修士を修めたが、父親(サウラブ・ドゥベー)から結婚を強要されたことで、目的なくムンバイーに移住することにした。ムンバイーでは、親切な不動産業者ヴィジャイ(サショー)の助けもあってマンションを借りることができ、また彼の紹介で業界内で顔の広いマノーラマー(サングミトラー・ヒターイシー)と出会って、女優としてデビューすることになる。

 ところがネーハーには致命的に演技力がなかった。いくつかのTVCMに出演し、TVドラマで端役も務めたが、ヒロイン女優の器はなかった。それでも、映画業界への進出を目指すビジネスマン、リテーシュ(インドラニール・セーングプター)と恋仲になったことで、映画のヒロインに抜擢され、当初は娘のムンバイー行きを反対していた父親も喜ぶようになる。

 映画の撮影が終わった。キャリアのためにリテーシュと付き合っていたつもりのネーハーであったが、いつしか彼に本当に恋するようになっていた。ネーハーは彼に結婚を申し出るが、リテーシュは実は既婚であることが分かる。しかも、リテーシュと喧嘩したことで、彼女は映画から外されてしまう。ネーハーのキャリアは終わってしまった。しかも、酒に酔っ払ったネーハーは、前後不覚のままヴィジャイと結婚してしまう。

 ネーハーはヴィジャイの故郷に連れて行かれる。娘の結婚を知った父親と妹のスミター(スクビール・カウル・ラーンバー)が彼女を訪ねて来るが、ネーハーは顔を見せない。ネーハーの態度に激怒したヴィジャイは彼女を殴り出す。ネーハーは洗剤を飲んで自殺する。

 映画業界で一旗揚げようとムンバイーにやって来る田舎者の物語は数多く作られているが、基本的には何らかの才能があってムンバイーに乗り込むことが多い。少なくとも野望だけは大きい。ところが、「B.A. Pass 2」では、特に女優になろうとも思っていない、演技力のない女性が、ムンバイーで知り合った人の勧めに従って何となくオーディションを受け、何となく女優になって行くという、何とも捉えどころのないプロットだった。

 しかも、順調なサクセスストーリーではない。演技力がない上に、長い台詞を覚えられないため、まともな役は演じられない。そんな人物が女優を目指すべきではないのだが、なぜか業界に留まることに固執し、仕事での失敗と人間関係の失敗のダブルパンチによって、転落して行く。最後は自殺で幕を閉じる。主人公の自殺で終わるところは、前作「B.A. Pass」との共通点として挙げてもいいかもしれない。

 冒頭に述べた、プロデューサーが共通している点と、結末を除けば、前作との共通点はないと言っていいだろう。主人公ネーハーの学位はB.A. Pass(文学学士号)ですらない。彼女はM.A.(文学修士号)を修めているし、学歴が話題に上ることもほとんどない。全体的に、心が重くなるシーンが続き、たとえ軽くなってもすぐに突き落とされるため、ダメージが余計増す。観客に何を伝えたくて何を感じて欲しくて作られた映画なのか分からない。

 「B.A. Pass 2」を観てヒシヒシと感じたのは、演技力のない女優を演じるためにも演技力が必要ということだ。劇中にはいくつか撮影のシーンが出て来て、ネーハーがいかに大根役者なのかが説明される。その場面だけは、主演クリティカー・サチュデーヴァに演技力がないため、地を出せばいいだけで、非常にはまり役であった。しかしながら、彼女はそれ以外の場面でも演技をしなければならない。そこでの彼女の演技は、新人ということを差し引いても、将来性を感じさせないものだった。

 とは言え、脇を固める俳優たちの演技は良かった。特にヴィジャイを演じたサショーや、ネーハーの父親を演じたサウラブ・ドゥベーの演技は特筆すべきである。

 いくつか美しい景色の場所が出て来たが、ひとつ特定できた場所があった。それはマハーラーシュトラ州西部、アラビア海沿いにあるジャンジーラーである。ジャンジーラーは16世紀に造られた海中の砦であり、対岸から船で渡ることができる。

 「B.A. Pass 2」は、「B.A. Pass」の続編扱いだが、前作とのつながりや共通点はほとんどない映画である。終始、重苦しい展開の映画で、結末も余りにむごたらしい。無理に観る必要のない映画である。