Toilet: Ek Prem Katha

4.0

 2014年8月15日、インドの独立記念日に、新首相ナレーンドラ・モーディーが、ラール・キラーから全国民に向けて独立記念スピーチを行った。そのスピーチで彼は、様々な問題のひとつとして、インドのトイレ問題を取り上げた。インドでは家にトイレがなく、村に公衆トイレがなく、人々は野外で排泄せざるを得なくなっており、大きな問題となっている。そのような晴れ舞台でトイレについて言及したことはインドの全国民の度肝を抜いたが、その勇気に方々から賞賛の声が上がった。以降、トイレ問題がクローズアップされ、インド各地でトイレの建設が始まった。

 2017年8月11日公開のヒンディー語映画「Toilet: Ek Prem Katha」は、モーディー政権が開始したスワッチュ・バーラト・アビヤーン(クリーン・インディア・キャンペーン)を受けてトイレ問題を主題とした映画であり、インドでなぜトイレが普及しないか、建設されたトイレがどうなっているかについて、興味深いレポートを提供してくれている。嫁ぎ先にトイレがなく実家に戻った女性の実話を元に作られている。

 監督はシュリー・ナーラーヤン・スィン。「Special 26」(2013年)などの編集者としてキャリアを積んで来た人物で、「Toilet: Ek Prem Katha」は彼の監督2作目となる。主演はアクシャイ・クマールとブーミ・ペードネーカル。他に、アヌパム・ケール、スディール・パーンデーイ、ディヴィエーンドゥ・シャルマー、サチン・ケーデーカルなどが出演している。

 題名の「Ek Prem Katha」とは、「ある愛の物語」という意味である。かつて「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)という大ヒット映画があったが、そのパロディーであろう。

 舞台はウッタル・プラデーシュ州マトゥラー近郊の架空の村マンドガーオン。この辺りはクリシュナ伝説の本拠地であり、クリシュナ関連の寺院や史跡が多い。マンドガーオンは実在の村ナンドガーオンをもじったものであろう。この村で自転車屋の仕事をするケーシャヴ(アクシャイ・クマール)は、大学卒の教養ある女性ジャヤー(ブーミ・ペードネーカル)と恋に落ち、結婚する。ところが、ジャヤーは嫁いだ後に、ケーシャヴの家にトイレがないことを知る。ジャヤーの実家にはトイレがあった。ケーシャヴの父親は頑固なブラーフマンであり、聖域である自宅に不浄なトイレを作ることを許さなかった。マンドガーオンのどの家にもトイレはなく、人々は野外で排泄をしていた。特に女性は早朝まだ暗い内に連れ立って草むらへ行き、用を足す習慣になっていた。

 ケーシャヴは何とか工夫をしてジャヤーが用を足せるようにしようとするが、とうとうジャヤーは我慢出来ず、実家に戻ってしまう。ケーシャヴは、映画のロケ地から仮設トイレを盗んで自宅に設置し、妻に戻ってもらおうとするが、彼は窃盗の罪で捕まってしまう。釈放されたケーシャヴは、役所を巡って村に公衆トイレを建設する請願書を提出するが、時間が掛かりそうだった。こんな物語である。

 この映画を日本人が観ると、インドはこんなに後れているのかとビックリするだろう。もちろん、都市部では家にトイレがあるのは普通である。だが、村に行くと、まだ家にトイレがないことはある。トイレを作るお金がないのではなく、自宅にトイレを置くという文化がないことがこの映画で明らかにされる。排泄に関する事物は不浄であり、自宅を浄に保つためには、排泄を家からなるべく遠ざけなければならない。また、トイレ掃除はもっとも下等なカーストの人が行うものであり、家にトイレを作ってしまうと、誰かがトイレ掃除をしないといけなくなってしまうことも関係している。

 モーディー首相がトイレ問題を大きく取り上げたことで、トイレ建設に予算が付き、各地でトイレが急ピッチで建設された。では、できたトイレは使われているのかというと、そうではないことも明らかになる。元々トイレで用を足す文化のないところに無理矢理トイレを作ったところで、その利用が増える見込みはない。せっかくできたトイレは、別の目的で使われてしまっている現状が浮き彫りにされる。こういう問題が起こったときに、全ての責任を政府に押しつける傾向があるが、政府ができる仕事はしている。後は、人々が思考を変えなければ、この問題は解決しないことがはっきりする。

 また、家にトイレがないことで、もっとも不便を被っているのは女性たちである。野外で排泄することで、女性たちは嫌がらせに遭ったりする。よって、トイレ問題は女性問題でもある。だが、女性たちがそれを変えようとしない。ブーミ・ペードネーカル演じるジャヤーの口から、最終的には女性たちが女性の問題を解決しなければならないことが強烈に主張される。

 また、トイレ問題とは直接関係ないが、インドでは離婚も困難なことが描かれていた。マンドガーオンでは1700年に渡って離婚が起こったことはないとされていた。これも女性問題の一部になる。

 2時間半ほどの映画で、コミカルな部分はあるが、ほとんどはシリアスな雰囲気で進む。もう少し簡潔に、娯楽映画的に味付けすることもできたと思う。だが、主題とした問題はインドにとってタイムリーであり、大いに人々の共感を呼んだようで、30億ルピー以上の興行成績を上げる大ヒットとなった。

 「Toilet: Ek Prem Katha」は、アクシャイ・クマールとブーミ・ペードネーカル主演の、インドのトイレ問題を取り上げた、社会派映画である。社会派コメディー映画とジャンル分けすることもできるが、その割にはシリアスなシーンも多い。しかし、重要なテーマをタイムリーに突いた作品で、必見の映画の一本となっている。