Jagga Jasoos

4.5

 アヌラーグ・バスは才能ある監督で、今まで「Murder」(2004年)、「Gangster」(2006年)、「Life in A… Metro」(2007年)、そして日本でも公開された「Barfi!」(2012年/邦題:バルフィ!人生に唄えば)など、数々の名作を生み出して来た。だが、「Kites」(2010年)のような世紀の失敗作もあり、調子に乗ると外す印象がある。2017年7月14日公開の「Jagga Jasoos」も、バス監督の作品群の中では興行的に大失敗に終わった作品である。しかしながら、過小評価されていると感じる。

 主演はランビール・カプールとカトリーナ・カイフ。他に、シャーシュワタ・チャタルジー、サウラブ・シュクラー、サヤーニー・グプターなどが出演している他、ナワーズッディーン・スィッディーキーとアヌラーグ・バス監督がカメオ出演している。音楽はいつもの通りプリータムである。

 孤児だったジャッガー(ランビール・カプール)は病院で生まれ育った。ジャッガーはどもり症で滅多にしゃべろうとしなかったが、ある日入院して来た謎の男トゥーティープーティー(シャーシュワタ・チャタルジー)に、歌を歌って気持ちを表現することを教えてもらう。ジャッガーはトゥーティープーティーに引き取られて、マニプル州の僻地で幸せに暮らすことになった。

 あるとき、トゥーティープーティーは遠出をすることになり、ジャッガーを全寮制学校に預けて去って行く。1年に一度、誕生日にトゥーティープーティーからビデオが送られて来た。ジャッガーは毎年それを楽しみにしていた。寡黙だが明るいジャッガーは学校の人気者となり、得意の推理を働かせて探偵を気取っていた。

 ジャッガーは、武器密輸の取材のためにマニプル州にやって来たシュルティ(カトリーナ・カイフ)と出会う。シュルティは密輸組織に命を狙われていたが、ジャッガーは彼女の命を救い、密輸組織の基地を壊滅させる手柄も立てる。

 ある日、ジャッガーは新聞でトゥーティープーティーの訃報を見て、葬式に出るためにカルカッタに出て来る。だが、それは諜報員スィナー(サウラブ・シュクラー)の罠だった。スィナーは、トゥーティープーティーがジャッガーに送ったビデオを探していた。トゥーティープーティーは、大きな秘密の詰まったビデオを間違えてジャッガーに送ってしまったのだった。だが、スィナーを信用できなかったジャッガーは逃げ出し、シュルティの家に転がり込む。

 一連の出来事から、トゥーティープーティーの正体が分かって来る。トゥーティープーティーは大学教授だったが、たまたま武器密輸組織の武器投下現場に立ち会ったことから、単身、密輸組織の壊滅のために動いていた。命を狙われるようになるが間一髪で逃げ出し、瀕死の状態になっているところをジャッガーに助けられ、病院に連れて来られたのだった。それ以降、トゥーティープーティーと隠遁生活を送っていたが、スィナーに呼び出され、再び武器密輸組織の捜査を始めたのだった。トゥーティープーティーは世界を飛び回った結果、決定的な証拠を手にするが、用済みとなったため、スィナーに殺されそうになり、逃げ出した。その際に交通事故に遭って死んだとのことだった。

 しかしジャッガーは、まだトゥーティープーティーは生きていると信じていた。彼から最後に電話のあったのはモンバサだった。ジャッガーはシュルティを巻き込み、モンバサへ向かう。スィナーはそれを察知するが、ビデオを手に入れるため、二人を尾行する。

 ジャッガーとシュルティはモンバサでトゥーティープーティーの手がかりを探す中で、トゥーティープーティーがモンバサで行われる武器の闇市へ行こうとしていることを突き止める。二人はトゥーティープーティーを見つけるため、闇市へ向かう。その闇市は、世界の武器密輸を牛耳るバシール・アレクサンダー主催のものだった。二人は一度捕まってしまうが、何とか逃げ出し、トゥーティープーティーとも再会する。また、証拠ビデオも見つかり、武器密輸組織の全貌が明らかになった。

 ところが、ジャッガーとトゥーティープーティーはバシール・アレクサンダーに捕まってしまう・・・。

 言葉がうまくしゃべれず、歌を歌って気持ちを表現する主人公ジャッガー。そのおかげで、ジャガーが行くところには歌があふれ、周りの人もつられて歌を歌い出し、自然とミュージカルになる。インド映画の最大の特徴のひとつは歌と踊りのシーンが差し挟まれることだが、欧米で言う「ミュージカル映画」とは少し異なる。ストーリーの場面とダンスの場面が、一般的なミュージカル映画ほどシームレスに連続していないからだ。だが、「Jagga Jasoos」に限ってはミュージカル映画と表現しても差し支えないだろう。このメロディアスでリズムカルな作風は、アヌラーグ・バス監督が「Barfi!」で確立したもので、それを100%受け継いでいる。

 天涯孤独の孤児ジャッガーに、どもって言葉が出ないならば歌って表現すればいいということを教えてくれたのがトゥーティープーティーだった。ジャッガーとトゥーティープーティーの絆は、実の父子以上のものがあった。そんなトゥーティープーティーがある日突然出て行ってしまい、ジャッガーは全寮制の学校で学ぶことになる。ジャッガーは再び孤独になってしまった。「Jagga Jasoos」は第一に、ジャッガーがトゥーティープーティーを見つけるために全力疾走する物語だ。

 それと平行して、国際的な武器密輸組織と、そのボス、バシール・アレクサンダーの暗躍が語られる。トゥーティープーティーは、金儲けのために諜報活動をするスィナーに諜報活動をさせられており、武器密輸組織を追っていた。ジャッガーがトゥーティープーティーを追う過程で武器密輸組織の謎にも入り込んで行くことになる。

 そして、ジャッガーがトゥーティープーティーを追う上で手助けになったのが、シュルティの存在だった。トゥーティープーティーもシュルティも同じレベルのドジだった。トゥーティープーティーがするような失敗をシュルティもしていた。それを見たジャッガーは、シュルティがいればトゥーティープーティーが見つかると直感する。果たしてその通りとなり、シュルティのドジはトゥーティープーティーに辿り着くための有力な手掛かりを導き出してくれる。そしてお約束ながら、ジャッガーとシュルティは恋に落ちる。

 着想、キャラクタースケッチ、ストーリーの運び方、映像など、あらゆる場面でバス監督の類い稀なセンスを感じる作品だった。様々な感情をメロディーで洗い流して行くような流麗な展開だった。少なくとも、監督の明確なシグネチャーのある映画だった。「Barfi!」が気に入った人なら、きっとこの作品も気に入るだろう。

 ランビール・カプールは「Barfi!」と似た役柄を演じていた。今回変わっていたのはカトリーナ・カイフの方だ。普段はゴージャスなイメージのカトリーナだが、今回はメガネを掛けたドジ娘役で、ファッションや髪型のおかげか、はたまた彼女の演技力なのか、意外にも鈍臭さがよく出ていた。曲者俳優サウラブ・シュクラーや、「Kahaani」(2012年)で殺し屋ビシュワースを演じたシャーシュワタ・チャタルジーなど、脇役陣も素晴らしかった。

 実は、撮影当時ランビールとカトリーナは付き合っていたのだが、撮影現場で破局を迎えたようで、撮影にも影響が出たようだ。そう言われてみれば固さもあったが、バス監督特有の演技指導なのかとも思っていた。それにしても、プライベートを仕事に持ち込んで周囲に迷惑を掛けるのはいただけない。

 バス監督は、ベンガル家系ながら現チャッティースガル州で生まれ育っており、言語はヒンディー語を選びながらも、コルカタなどベンガル地方に思い入れを持っていそうだ。「Barfi!」もダージリンやコルカタが舞台になっていた。「Jagga Jasoos」の舞台はマニプル州。ヒンディー語映画としては非常に珍しい。やはりインド東部の主要都市はコルカタなので、「Jagga Jasoos」でもコルカタのシーンがあった。しかも舞台はケニアのモンバサへ飛ぶ。日本人から見たらインドそのものがエキゾチックかもしれないが、「Jagga Jasoos」では、インド人から見てエキゾチックなロケーションが選ばれていたと感じた。

 「Jagga Jasoos」は、「Barfi!」でミュージカル映画の手法を採用し成功させたアヌラーグ・バス監督が、再び同じ調子で作ったミュージカル映画である。引き続きランビール・カプールが主演で、ヒロインのカトリーナの普段見せないような鈍臭い演技も見所だ。興行的には振るわなかったが、インド映画離れした独特の設定と展開が楽しめる作品で、万人にお薦めできる。