Naam Shabana

3.0

 2008年のムンバイー同時多発テロを受けて結成された架空の対テロ部隊Babyの最後のミッションを追ったスパイ映画「Baby」(2015年)は興行的にも批評家的にも成功した映画であった。ヒット映画の続編が作られる習慣はヒンディー語映画界で既に定着しているが、スピンオフ映画というのは珍しいかもしれない。「Baby」に登場したエージェントの一人、シャバーナー・カーンの前日譚を描いた「Naam Shabana」が2017年3月31日に公開された。

 「Baby」の監督はニーラジ・パーンデーイだったが、「Naam Shabana」では彼は脚本を担当しており、監督は「Ahista Ahista」(2006年)などのシヴァム・ナーイルに交替している。主演は、「Baby」でもシャバーナーを演じたタープスィー・パンヌー。「Baby」の主演アクシャイ・クマールがカメオ出演している他、ダニー・デンゾンパ、アヌパム・ケール、ムラーリー・シャルマーなども引き続き同じ役で出演している。また、主にマラヤーラム語映画界で活躍するプリトヴィーラージ・スクマーランが悪役を演じている。他に、マノージ・パージペーイー、ヴィーレーンドラ・サクセーナー、ザーキル・フサイン、ナターシャ・ラストーギー、マーナヴ・ヴィージなどが出演している。

 ムンバイーの大学に通うシャバーナー・カーン(タープスィー・パンヌー)は正義感の強い女性で、空道拳法の使い手でもあった。過去には、母親(ナターシャ・ラストーギー)に暴力を振るう父親を殺し、少年院に入っていたこともあった。

 ある日、シャバーナーの恋人ジャイが街のゴロツキに殺されてしまう。主犯格は政治家の息子だったため、警察に圧力が掛かり、捜査は一向に進まなかった。この国のシステムに失望したシャバーナーのところへ一本の電話が掛かって来る。主犯格の情報と引き換えに、声の主ランヴィール・スィン(マノージ・パーワー)は彼女の協力を求めた。シャバーナーは入手した情報を元にゴアに飛んで主犯格を殺す。こうしてシャバーナーは、非公式に設立された諜報活動部隊に加わることになった。シャバーナーは訓練を受け、一人前のエージェントとなる。

 後にBabyとなるその組織は、過去10年間、南アジア地域の武器密輸を牛耳るミカイルを追っていた。だが、ここ2年間、ミカイルは行方不明だった。ミカイルの情報を持つトニー(プリトヴィーラージ・スクマーラン)がマレーシアのクアラルンプールにいると分かり、エージェントが送り込まれるが、返り討ちに遭う。だが、トニーと思われていた人物が、実はドイツで整形手術を受けたミカイルであることが発覚する。アジャイ・スィン・ラージプート(アクシャイ・クマール)とシャバーナーはクアラルンプールに派遣される。

 ミカイルは再び病院で整形手術を受け、顔を変えようとしていた。アジャイとシャバーナーは、他の仲間たちの支援を受け、病院に忍び込んでミカイルを抹殺する。

 「Baby」で登場した女性エージェント、シャバーナー・カーンがどのようにBabyに入隊したのかが明かされる物語であった。タープスィー・パンヌーは手足が長い上に身体の切れがよく、女優ながらアクション映画もこなせる。2010年代はヒロイン中心の映画が多く作られているが、この「Naam Shabana」も、アクシャイ・クマールのカメオ出演はあるものの、実質的にはタープスィー・パンヌーが一人で主演を務める映画であり、盛りだくさんのアクションシーンと共に、とてもやりがいのある作品だったと思われる。

 ただ、「Baby」を既に観た者にとっては、シャバーナーがBabyに入隊する未来が分かっているため、結末は読めてしまう。しかも、シャバーナーは、過去のトラウマみたいなものは抱えていたものの、あまり深みのあるキャラではなかった。ほとんど感情を露にせず、恋人を殺されてからは冷酷な殺人マシーンと化した。タープスィーは演技力のある女優であるため、所々に優れた感情表現が見られたが、人物設定自体の詰めが甘かったため、シャバーナーというキャラを救えるほどではなかった。

 もし「Baby」が「Sholay」(1975年)のようなカルト的な人気を誇る映画で、端役までも人気になっていたのならば、主役以外の登場人物の前日譚みたいな映画も興味を持って観てもらえるかもしれないが、「Baby」はそこまで影響力のある映画でもなかった。ニーラジ・パーンデーイはさらに「Baby」のスピンオフ映画を計画しているようだが、「Naam Shabana」よりも魅力的な映画になると想像できない。シャバーナーは女性エージェントだったためにまだユニーク性があったが、その他のキャラにどんな魅力的なサイドストーリーを用意できるだろうか。

 「Naam Shabana」は、2015年に公開されたアクシャイ・クマール主演「Baby」のスピンオフ映画である。「Baby」に登場した女性エージェント、シャバーナー・カーンの前日譚で、タープスィー・パンヌーが男性顔負けのアクションを繰り広げるスパイ活劇になっている。しかしながら、「Baby」を超える作品にはなっていない。