Angamaly Diaries (Malayalam)

3.0

 2021年7月17日に日本で劇場一般公開されたマラヤーラム語映画「Jallikattu」(2019年/邦題:ジャッリカットゥ 牛の怒り)を観て、現在のマラヤーラム語映画シーンに興味が沸いた。「Jallikattu」のリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督はそれ以前にもいくつかの作品を撮っており、彼の作家性が気になったので、Netflixで配信されていたこともあり、「Angamaly Diaries」を鑑賞することにした。この映画は2017年3月3日に公開された。

 「Angamaly Diaries」は、ペッリシェーリ監督の第5作にあたる映画だ。言語はマラヤーラム語で、英語字幕を頼りに鑑賞した。キャストはアントニー・ヴァルギース、ティトー・ウィルソン、アッパーニ・サラト、アナ・ラージャンなどである。

 舞台は、コチの近くにあるアンガマーリという町。主人公のペペ(アントニー・ヴァルギース)は、地元の顔役だったバーブージーに憧れ、友人たちを誘って自分の「チーム」を作る。ペペのチームは、ラヴィ(アッパーニ・サラト)とラージャン(ティトー・ウィルソン)のチームとライバル関係になる。抗争の末に、ラヴィとラージャンはバーブージーを刺殺し、逮捕される。

 ペペはチームのメンバーと共に豚肉のビジネスを始める。アンガマーリの豚肉業界はラヴィとラージャンが牛耳っていた。ペペはラヴィとラージャンと和解し、ビジネスパートナーとなる。ところが、再び両者の間で不和が生じ、ペペは誤って二人の仲間を殺してしまう。ペペは容疑者となるが、ラヴィとラージャンに大金を払って事件をもみ消してもらう。しかしながら、ラヴィとラージャンは過去を洗い流していなかった。ニューイヤーのパレードが行われている最中、ラヴィとラージャンはペペのチームに襲い掛かる。乱闘の末にペペたちはラヴィとランジャンを撃退する。

 ペペは、看護師のリリー(アナ・ラージャン)と結婚し、ドバイに移住する。

 「Jallikattu」が暴走する牛の物語だったため、似たような種類の映画を期待して「Angamaly Diaries」を見始めた。「Jallikattu」が牛の話ならば、「Angamaly Diaries」は豚の話だ。主人公ペペは豚肉のビジネスを始めるからだ。しかし、豚が暴走するようなシーンはなく、どちらかと言えばギャングウォー映画に含まれる作品だった。

 とは言え、「Jallikattu」に通じるペッリシェーリ監督の作家性が随所に見られた。まずは、異常に食べ物が登場すること。ケーララ州で日常的に食べられている料理が、まるで祝宴のように、次から次へと映し出される。それらのシーンは、物語とは直接関係ないものが大半だ。映画に登場する料理の品目数から見たら、この映画はギネスブック登録レベルなのではないかと思われるほどである。

 また、短いカットをリズムよく小刻みに並べる手法がよく使われ、しかもリズムのある効果音が重ね合わされており、映画全体がまるで弾むようであった。そして、長回しのシーンがいくつもあり、緊張感を与えていた。特に、クライマックスのニューイヤー・パレードのシーンは圧巻であった。一定方向に進むパレードが軸となりながらも、パレードとは全く別の動きをするキャラクターを追ってカメラが縦横無尽に動き回り、乱闘シーンを演出していた。非常に難しいショットだったと思われる。

 「Jallikattu」もそうだったが、キリスト教のモチーフがよく登場した。「Jallikattu」のときはたまたまかと思ったが、どうもペッリシェーリ監督自身がキリスト教徒で、キリスト教的な世界観の映画を故意に作っているようだ。もちろん、ケーララ州はインドの中でもキリスト教徒の多い州であり、そういうものなのかもしれないが、インド映画全体の中ではキリスト教的な映画を撮り続ける監督というのは珍しく、ペッリシェーリ監督の特色に思える。

 物語の内容は、ギャングウォー映画ということもあり、道徳のへったくれもない。ギャングウォーと言っても、地元のチンピラグループ同士の争いと言ったレベルではあるが、殺人を金で解決しようとしたりしており、果たしてこんな解決法でいいのかとうろたえてしまう。その一方で、いがみ合っていたライバルチーム同士が、意外にあっけなく手を結んだりしており、映画を観ていると、ケーララ人の行動原理がよく分からなくなる。

 どうもアンガマーリでは、若い男性たちが「チーム」を作って徒党を組む習慣があるようだ。チームは単に一緒に飲んだり遊んだりするだけではなく、共同でビジネスをしたりして、かなり密な付き合い方をする。そういうチームが複数あり、お互いに譲ろうとしないため、しばしば紛争が引き起こされるのである。

 映画のテーマという観点で「Jallikattu」と共通して感じたのは、人間の野蛮性がとことん強調されている点である。ただ、「Angamaly Diaries」は基本的に町の物語だったため、密林に囲まれた村が舞台の「Jallikattu」で感じられたような、自然と人間の対比はなかった。屠殺シーンもあったが、別に肉食に対する批判めいたメッセージが込められていたわけでもなかった。

 「Angamaly Diaries」は、2021年に日本で劇場一般公開されたマラヤーラム語映画「Jallikattu」の監督が、それ以前に撮った作品である。ストーリーに豚が出ては来るのだが、「Jallikattu」のように豚が暴走することはない。それでも、ペッリシェーリ監督の類い稀な個性がにじみ出るユニークな作品であり、「Jallikattu」と併せて鑑賞するに値する映画だと言える。