Baaghi

3.5

 スター俳優にとって、代表作と呼べる作品を持つことは非常に大事だ。それがシリーズ物ならばなおのこと良い。シリーズ化されるためには第1作をヒットさせなければならず、それが自信の主演作として何作も続くとなれば、スターパワーの証明になるからだ。ジャッキー・シュロフの息子として鳴り物入りで2014年にデビューしたタイガー・シュロフは、早くも「Baaghi(反逆者)」シリーズという代表作を持っている。第1作の「Baaghi」は、2016年4月29日公開された。マーシャルアーツをテーマにしたアクション映画である。

 「Baaghi」シリーズのプロデューサーはサージド・ナーディヤードワーラーで共通しているが、監督は第1作だけサッビール・カーンである。彼はタイガーのデビュー作「Heropanti」(2014年)の監督である。主演はもちろんタイガー・シュロフ。ヒロインはシュラッダー・カプール、悪役としてテルグ語映画俳優のスディール・バーブーが起用されている。また、導師役を演じたシーフージー・シャウリヤ・バールドワージは、インド海軍特殊部隊のトレーナーとされているが、実際には経歴に謎の多い人物のようだ。他に、スニール・グローヴァー、サンジャイ・ミシュラー、プラシャーント・スィンなどが出演している。

 ロニー(タイガー・シュロフ)は、ケーララ州コッタヤムへ行く列車の中でスィヤー(シュラッダー・カプール)と出会い、恋に落ちる。だが、同じ列車でスィヤーはラーガヴ(スディール・バーブー)にも見初められていた。ラーガヴは、コッタヤムにあるカラリパヤットゥの道場の導師グルスワーミー(シーフージー・シャウリヤ・バールドワージ)の息子で、マーシャルアーツの使い手であった。ロニーもその道場に入門するためにコッタヤムに来ていた。スィヤーはコッタヤムに住む祖母を訪ねて来ていたが、しばらく滞在する内にロニーとデートをするようになる。一方、ラーガヴはスィヤーの父親クラーナー(スニール・グローヴァー)に大金を渡し、スィヤーとの結婚を認めさせる。

 ラーガヴは、スィヤーがロニーに恋していることを知ると、別の女性との結婚を強要するグルスワーミーを暗殺し、ロニーを襲撃する。ロニーは悪漢たちを撃退したが、警察に逮捕されてしまう。また、クラーナーはスィヤーに嘘の情報を吹き込んでロニーと引き離そうとする。スィヤーはそれを信じ、ロニーとの絶交を決める。

 ラーガヴはバンコクに拠点を置いていた。ラーガヴはスィヤーを拉致し、バンコクに連れて来る。クラーナーはロニーに、バンコクへ行ってスィヤーを助けるように頼む。こうしてロニーはバンコクに乗り込み、盲目のタクシー運転手ハリー(サンジャイ・ミシュラー)などの助けを借りながら、スィヤー救出に向かうことになる。 

 単純明快な筋書きのアクション・ロマンス映画であった。バンコクで500億(ルピー?ドル?バーツ?)の事業を統括し、自身もマーシャツアーツの使い手であるラーガヴが、割と庶民的な美女と言えるスィヤーに一目惚れし、恋いに狂ってしまう、というのはなかなか都合が良すぎる展開であるが、思い通りに行かないとスィヤーを誘拐して無理に結婚しようとするという、スーパーマリオブラザーズのクッパのような分かりやすい悪役であったし、ロニーにしても、目的がはっきりしていたため、筋を見失うことなく、映画を楽しむことができた。

 マーシャルアーツをテーマにしている点は、インド映画としては珍しい部類に入る。しかも、インド伝統の武術カラリパヤットゥが前面に押し出されている。冒頭で道場に入門したロニーは、グルスワーミーに対し、武術を習うなら中国の少林寺へ行くと吐き捨てるが、グルスワーミーは、少林拳の起源はインドにあり、しかもそれはインド武術の一部が伝わったに過ぎないと誇らしげに語る。6世紀頃にボーディダルマと呼ばれるインド人が中国に渡り、禅宗を伝え、少林寺の基礎を作ったことは事実である。道場では、門下生たちによってカラリパヤットゥの演武が披露されており、カラリパヤットゥの純粋な姿を垣間見ることのできる映画となっている。

 ロニーを演じたタイガー・シュロフやグルスワーミーを演じたシーフージー・シャウリヤ・バールドワージは、しなやかな肉体を駆使してインド武術の動きを再現しており、彼らのアクションを見るのが「Baaghi」の一番の楽しみだ。悪役のスディール・バーブーは、どちらかと言えば剛の拳の使い手だったが、アクションに遜色はなかった。なぜかシュラッダー・カプールも拳法を使うシーンがあった。

 雨が印象的に使われた映画でもあった。インドでは、恋の季節は雨季であり、元々雨はロマンチックな気候を演出する。「Baaghi」では、ロニーとスィヤーが出会うと必ず雨が降るとされており、それが終盤の伏線にもなっていた。シュラッダー・カプールが雨に濡れて踊る「Cham Cham」など、ダンスシーンにも雨が活かされていた。

 終盤がバンコクが舞台となるが、基本的にはケーララ州のコッタヤムが舞台の映画であった。ヒンディー語映画としてはこの点も珍しい。カラリパヤットゥの本拠地がケーララ州ということもあるが、映画にエキゾチックな雰囲気を加えていた。椰子の木、水郷、伝統舞踊カタカリなど、ケーララ州の魅力が詰まった作品であった。

 「Baaghi」は、勧善懲悪アクションと三角関係ロマンスが合わさった単純明快な筋書きの映画である。ヒンディー語映画界では抜群に運動神経のいいタイガー・シュロフが縦横無尽に動き回る。難しいことを考えずに映画を楽しみたいときにオススメだ。