Mango Dreams (USA)

3.5

 三輪タクシーのオートリクシャーはインドの街に欠かせない市内交通手段だ。多くの外国人旅行者にとってもオートリクシャーはインド旅行の忘れられない思い出の一部になりがちだ。いい思い出も悪い思い出も含めて、であるが、何にしろオートワーラー(オートリクシャーの運転手)は、外国人旅行者にとって、手強い敵であり、心強い味方でもある。あまりにオートリクシャーに入れ込みすぎて、オートリクシャーでインドを旅したいと考える者も少なくないようだ。外国人がインドを舞台に映画を撮ると、何かとオートリクシャーを登場させたがる傾向にある。

 2016年4月23日にアリゾナ国際映画祭でプレミア上映された英語映画「Mango Dreams」は、米国人監督ジョン・アップチャーチによるインドを舞台にした作品である。主演は「Parzania」(2007年)などに出演のベテラン俳優ラーム・ゴーパール・バジャージ。パンカジ・トリパーティー、サミール・コーチャル、ローヒニー・ハッタンガーディ、SMザヒールの他、ナスィールッディーン・シャーが特別出演している。

 アハマダーバード在住の医師アミト(ラーム・ゴーパール・バジャージ)は認知症に冒されつつあった。アミトのことが心配になり米国から帰って来た息子のアビ(サミール・コーチャル)から老人ホームに入ることを勧められるが、アミトは逃げ出し、思い出を辿る旅に出る。アミトの道連れになったのが、オートリクシャーの運転手サリーム(パンカジ・トリパーティー)であった。

 アミトはまず、アハマダーバードの北のシャームラージーを目指す。そこにはアビが生まれた病院があった。次に目指したのは500km離れたジャイプル。サリームは驚くが、アミトに恩があったため、渋々ジャイプルまでオートリクシャーを走らす。ジャイプルにはアミトが医学を修めた医科大学があった。

 次にアミトは、自分が育ち、亡き妻パドマー(ローヒニー・ハッタンガーディ)と出会った孤児院跡を訪れる。そして最後に彼は、現在はパーキスターン領となったコーテー村を訪れようとするが、国境で警備兵に止められる。また、このときには居場所を突き止めたアビも同行していた。

 警備兵は特別にアミトの生まれ故郷に連絡をする。そこでアミトの知人を見つけ、国境で会見が可能となる。現れたのは、死んだと思われていた弟のアバイ(ナスィールッディーン・シャー)だった。アミトとアバイは国境を挟んで抱き合う。アミトはアバイに連れられて故郷まで去って行く。

 認知症に冒された老人が主人公の物語と言うと、過去には「Maine Gandhi Ko Nahin Mara」(2005年)という映画があった。「Mango Dreams」では、主人公アミトが、忘却しつつある記憶を辿るように、自分の人生の中で重要な出来事があった場所を歴訪する旅に出る。その中で、アミトの美しい思い出が蘇ると同時に、インドが経験して来た悲惨な歴史にも出会う。そんな構成の物語であった。また、アミトを連れて旅をするオートリクシャー運転手サリームの半生もアミトの人生と共鳴する仕掛けになっていた。

 「Mango Dreams」はパーティション映画(印パ分離独立時の騒乱に関する映画)の一種に含めていいだろう。アミトが最終的に目指していたのは、現在パーキスターン領となった故郷の村だった。アミトはパンジャーブ州の農村で暮らすスィク教徒であったが、印パ分離独立時の混乱で家族を失い、孤児となってインド側に逃れて来た悲しい過去を持っていた。弟のアバイを含む彼の家族はイスラーム教徒によって惨殺された。アミトはキリスト教の孤児院で育ち、ヒンドゥー教徒のパドマーと結婚し、イスラーム教徒が多く住むアハマダーバードで医者として生計を立てていた。

 印パ分離独立時にイスラーム教徒によって家族を失ったアミトに対し、サリームは、2002年のグジャラート暴動でヒンドゥー教徒に妻を強姦され殺害された悲しい過去を持つイスラーム教徒であった。サリームは、アミトに息子を治療してもらったことで恩を感じていたが、基本的にヒンドゥー教徒には反感を抱いていた。だが、アミトと共に旅をするにつれて、ヒンドゥー教徒への漠然とした憎しみが消えていくのを感じたのである。

 映画が発信するメッセージは、言うまでもなく宗教融和だ。インドではコミュナル暴動と呼ばれる宗教間の暴力事件が相次ぐが、これは宗教による殺戮ではなく、政治による殺戮である。このような事件が起きたとき、特定のコミュニティー全体を憎悪の対象にしてはならない。どの宗教も殺人は許しておらず、宗教の違いで人を殺す者はどの宗教からも見放された存在である。アミトとサリームの会話を通じて、そんなメッセージが発せられていた。

 アミトとサリームは、アハマダーバード、シャームラージー、ジャイプル、アムリトサルと、インド西部を北上するルートを取る。ロードムービーと言ってもいいのだが、旅路にロマンを抱かせるような作りにはなっていなかった。意外に淡々と出発地から目的地へと移動を繰り返して行く。

 国境警備隊がやたら親切で、結末においてアミトの越境をいとも簡単に許してしまったのはご都合主義だった。普通は有り得ないことである。「Bajrangi Bhaijaan」(2015年)でもそういうシーンがあったので、これらの映画を観ていると、印パの国境はそんなに緩いのかと思われてしまいがちだが、二国間関係は常に緊張状態にあるので、全くのフィクションと断言していいだろう。

 多少の現地語も台詞には混じっていたが、基本的には英語映画であった。オートリクシャーの運転手までが英語をしゃべるので、台詞回しは非常に不自然かつ作為的だ。米国人監督による作品なので仕方がないのだが、ヒンディー語で作っていたら、もっと地に足の付いた映画になっていたのではないかと思う。

 「Mango Dreams」は元々、クラウドファンディングで資金集めが行われた映画だと言う。結局資金が集まらず、ジョン・アップチャーチ監督が自分の資金を使って撮った。だが、クラウンドファンディングで映画作りという手法も今後トレンドになる可能性を秘めている。

 「Mango Dreams」は、米国人監督がインドを舞台にして撮った、認知症に冒される医者が思い出の旅路に出る物語である。印パ分離独立やグジャラート暴動の悲劇がストーリーに組み込まれ、宗教融和の必要性が訴えられている。インド人俳優が不自然な英語をしゃべるので、リアルさに欠けたところもあるのだが、低予算でよく作られた作品である。