Shaadi Ke Side/Effects

4.0
Shaadi Ke Side/Effects
「Shaadi Ke Side/Effects」

 2006年にラーフル・ボースとマッリカー・シェーラーワト主演の「Pyaar Ke Side/Effects」という映画があった。題名は「恋愛の副作用」という意味で、恋をするとどんな副作用があり、婚約をするとどんな副作用があり、そして失恋をするとどんな副作用があるか、主に男性側の視点から面白おかしく分析されていた。「男性主導型の恋愛」が主流だったヒンディー語映画に、「男性が女性に振り回される型の恋愛」という新たなパラダイムを導入した作品のひとつであり、ヒットも記録しているため、恋愛映画史上、無視できない作品である。

 あれから8年が過ぎ去り、今度は順当に、「結婚の副作用」を題材にした映画が登場した。2014年2月28日公開の「Shaadi Ke Side/Effects」である。その題名は正に「結婚の副作用」という意味だ。監督は「Pyaar Ke Side/Effects」と同じ、サーケート・チャウダリー。音楽監督も前作と同じでプリータム。ただ、キャストはガラリと変わっている。今作の主演はファルハーン・アクタルとヴィディヤー・バーラン。しかしながら、主人公の名前は前作から引き継がれており、続編扱いのようだ。その他のキャストは、ラーム・カプール、ヴィール・ダース、ガウタミー・カプール、プーラブ・コーリー、イーラー・アルンなどである。

 ムンバイーの高層マンションに住むスィッダールト、通称スィド(ファルハーン・アクタル)とトリシャー(ヴィディヤー・バーラン)は、誰もが羨む仲睦まじい夫婦だった。スィドによると、夫婦円満の秘訣は「自分が過ちを犯したときは素直に謝る、妻が過ちを犯したときも素直に謝る」というもので、このテクニックのおかげでスィドは、ほとんど生活費をトリシャーに頼っているにも関わらず、彼女の心を掴んでいた。スィドはミュージシャン志望で、自分のアルバムを出すのが夢だった。

 ところが、遂に「結婚の副作用」――つまり妊娠――のときがやって来た。スィドがまだ定職に就いていないこともあり、2人は出産を躊躇するが、結局は産むことを決める。ドタバタの妊娠期間を経て、女の子が生まれる。名前はミニーと名付けた。

 ミニーが生まれた途端、トリシャーの態度や人生観はガラリと変わってしまう。今までは仕事一筋だったトリシャーだが、子供ができた途端、彼女の人生の中心は子供となった。相対的にスィドの地位は下がり、家の中で居場所を失う。スィドは子育てを手伝おうとするのだが、何をやっても駄目出しされ、自信も失う。夜中に友人たちと大好きなサッカー観戦をすることも気軽にできなくなり、次々に友人と疎遠になって行く。新しい友人を作ろうとすると、ミニーの通う保育園の保護者ということになるが、彼らの価値観はスィドとは全く違った。スィドはストレスを抱えることになる。

 そんなスィドに助け舟を出したのがランヴィール(ラーム・カプール)であった。ランヴィールは傍から見ると完璧なファミリーマンだった。スィドは彼に助言を求める。ところが、ランヴィールが幸せな結婚生活のために実践していたことは、「小さな嘘」であった。彼は出張と称して2~3日、ムンバイーのホテルに滞在し、羽を伸ばしていた。それを見習ってスィドも「スタジオに籠もって集中セッション」と称してホテルに外泊し、リフレッシュする。そうしてみたら、不思議とトリシャーが優しくなり、家族関係も円滑になる。

 しかし、近所に住む青年シェーカル(プーラブ・コーリー)が、ちょっとしたアクシデントからトリシャーと知り合いになって、二人の家に出入りするようになり、スィドはおちおち外泊できなくなる。しかも、トリシャーがメイドを雇いたいと言い出し、何人か面接する中で、1万5千ルピーという一番高い月給を提示して来たアンティー(イーラー・アルン)を採用してしまったため、経済的にホテルに外泊するのが難しくなる。そこでスィドはPG(ペイングゲスト)に部屋を借りることにした。そこで同室となった変人がマーナヴ(ヴィール・ダース)であった。マーナヴも作曲家を目指していたことがあり、スィドと意気投合する。久々に若さがみなぎって来たスィドであったが、知らない内に自宅の自室がアンティーの部屋になっていたことなどもあり、ショックを受ける。今やトリシャーにとって、スィドよりもアンティーの方が欠かせない存在になってしまっていた。

 独身のマーナヴが事故に遭って家族を恋しがっていたのを見て、スィドは家族の価値を再認識し、自宅とPGの二重生活に終止符を打って、家族のために全力で生きることを決める。それにあたってスィドは、今まで自分がして来たことを正直にトリシャーに話す。トリシャーは怒って彼を家から追い出すが、そのときトリシャーが再度妊娠していることが分かる。トリシャーが、お腹の子の父親はシェーカルだと打ち明けたことでスィドは怒るが、しばらく後に考え直し、お互いに全てを許して一からやり直すことを提案する。それを聞いてトリシャーも、お腹の子の父親がシェーカルだと言ったのは嘘だと明かす。彼女はスィドを試したのだった。

 こうしてスィドが最終的に辿り着いた「幸せな結婚の秘訣」は、何でも正直に話すこと、であった。

 恋愛映画の王道は男女が結婚してハッピーエンディングを迎えるというもので、典型的なインドの恋愛映画はほぼ全てこのパターンを踏襲していた。しかし、2006年、カラン・ジョーハル監督の「Kabhi Alvida Naa Kehna」、ラジャト・カプール監督の「Mixed Doubles」、KSアディヤーマーン監督の「Shaadi Karke Phas Gaya Yaar」辺りから、結婚後の男女関係においてドラマが模索されるようになり、このジャンルはより多様化し、成熟して来た。「Shaadi Ke Side/Effects」は、おそらく結婚後のロマンス(不倫ではない)を扱った映画としては最もよくできた作品である。特に、妊娠と出産によって夫婦関係がどう変わるかを生々しくえぐっており、普遍的なアピールのある映画に仕上がっている。

 恋愛映画がワンパターンであるのと同じくらい、インド映画では妊娠、出産、子育てが極度に単純化して描写されることが多い。まずは突然の嘔吐が妊娠のサインとして決まって使われ、数カットで出産のシーンとなり、子供が生まれた途端に音楽が鳴り始め、その曲の進行と共に瞬く間に子供が成長してしまう。妊娠から子育てまで、父親の顔には満面の笑みしかなく、子供は無条件で父親を尊敬するようになる。それを見ていると子育ては指を鳴らすくらい簡単のように思えてしまうのだが、「Shaadi Ke Side/Effects」では、インド映画が作り出したその幻想を見事に打ち砕いた。特にこれは、男性に対する警鐘である。子供ができた後、それまでの生活を続けられると思ったら大間違いだ、という強烈な警告が発せられていた。

 ただ、近年のヒンディー語恋愛映画のトレンドとは異なり、結婚を否定する論調ではなかった。子供ができてからの生活には苦労も多いが、家族は誰もが持つべきであるという、インド映画らしいメッセージが発信されていた。男性への警鐘にしても、自虐的でユーモア溢れる演出だったので、決して嫌みではなかった。女性側から見たら、多少言いたいことはあるかもしれないが、結婚して子育てしたことのある人なら、誰でも感情移入できるストーリーだ。

 2006年の「Kabhi Alvida Naa Kehna」と2014年の「Shaadi Ke Side/Effects」を比べると、妻より稼ぎの少ない男性の描写がかなり変化したと感じる。「Kabhi Alvida Naa Kehna」でシャールク・カーンが演じたデーヴは、怪我のためにサッカー選手を引退し、少年サッカーのコーチとして多くない収入を得ていた一方、プリーティ・ズィンター演じる妻のリヤーはキャリアウーマンで、彼女の方が何倍も稼いでいた。当然、デーヴは劣等感を感じ、それが家庭内の不和を生み出すことになった。それと比べると、「Shaadi Ke Side/Effects」の主人公スィドは、妻に全く劣等感を感じていなかった。彼の方は夢を諦めたのではなく、夢を追っていた状態だったのも精神的安定につながったのかもしれないし、スィド自身の楽天的な性格も影響しているかもしれないが、ひとつの要素として時代の変化を挙げることは可能であろう。ただ、世間の目にそう変化はなく、収入がない、または低い男性との結婚は許せても、そういう男性を抱えた家庭が子供を持つことには抵抗が強いことがうかがわれた。

 子育てと仕事を両立させる上でメイドを雇うというオプションがあるのはインド独特であろう。日本ではまず考えられない選択肢だ。人件費が安いインドならではだが、最近ではインドでもメイドの賃金が上昇して来ているし、良質なメイドを雇うのはいい伴侶を見つけること以上に困難になっている。しかしながら、イーラー・アルン演じるアンティー曰く、富裕層の子育てはもはや両親ではなくメイドがしていると言う。よって、悪いメイドを雇うと、その子供は泥棒を覚えたり、汚ない言葉を使ったりするようになる。インド人にとって死活問題なのがこのメイド問題なのだが、「Shaadi Ke Side/Effects」では子育ての延長線上として、この問題にも触れられていて、手抜かりがなかった。

 インド映画のひとつの法則として、「嘘は正直に話そうとした瞬間にばれる」というものがある。インド映画では、嘘を付いたり人を騙したりしてうまいこと欲しいものを手にする主人公が多いのだが、どこかの時点で必ず反省し、自らそれを当事者に打ち明けようとする。だが、そのときにタイミング悪く別の方向からその嘘がばれてしまい、大変なことになる、というプロットが非常に多い。だが、「Shaadi Ke Side/Effects」ではそういう他方面からの暴露がなく、スィドは自分の口で自分が今まで行って来た背信行為を打ち明ける機会に恵まれた。この点も斬新に感じた一方で、物足りない気持ちもした。

 「Shaadi Ke Side/Effects」は、子供ができてからの夫婦関係がいかに変化し、男性はそれにいかに対処すべきかが、女性の観察を通して描かれていた。「Pyaar Ke Side/Effects」の正統な続編と言えよう。2014年のヒンディー語映画の中では必見の一本である。