Fukrey

3.5
Fukrey
「Fukrey」

 エリート工科大学に入学した3人の若者のドタバタ劇を描いた「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)が大ヒットしたことで、大学そのものに焦点を当てた映画が作られるようになっている。学生生活が出て来る映画は過去にもあったのだが、あくまでメインストーリーにあるロマンスなどの要素を引き立たせる飾りであることが多かった。だが、近年作られる映画は明らかに大学や大学生への憧れを喚起するものになっている。

 2013年6月14日公開の「Fukrey」は、大学に不正に入学しようとする落ちこぼれ高校生たちを主な主人公にしたコメディー映画だ。題名も「間抜けたち」みたいな意味で、「3 Idiots」の影響を受けていると思われる。大学に対する異常なまでの憧憬が感じられる映画だ。

 プロデューサーはファルハーン・アクタルとリテーシュ・スィドワーニー。監督は「Teen Thay Bhai」(2011年)のムリグディープ・スィン・ラーンバー。主演は、「Bittoo Boss」(2012年)のプルキト・サムラート、新人ヴァルン・シャルマー、「3 Idiots」にカメオ出演していたアリー・ファザル、「Student of the Year」(2012年/邦題:スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え! No.1!!)などのマンジョート・スィンの4人。他に、パンカジ・トリパーティー、リチャー・チャッダー、プリヤー・アーナンド、ヴィシャーカー・スィン、アシュラフル・ハクなどが出演している。

 デリー在住の落ちこぼれ高校生、ハニー(プルキト・サムラート)とチューチャー(ヴァルン・シャルマー)は、女の子にもてたいがために、地元の大学に入学しようとしていた。大学の門番パンディト(パンカジ・トリパーティー)は融通の利く人物で、12学年の試験問題を売っていた。実はハニーとチューチャーには特別な才能があった。チューチャーが夢を見て、ハニーがその夢を読み解くことで、宝くじにて当たりくじを引くことができたのである。持ち金で宝くじを買い、当てるが、まだ試験問題を買うまでの金は集まらなかった。

 一方、地元では有名なスナック屋の息子ラーリー(マンジョート・スィン)は、好きな女の子を見返すために、ハニーやチューチャーと同じ大学に入学を試みていた。彼は既に通信制の1年生だったが、全日制の2年生に編入したいと思っていた。やはりパンディトから大学開発基金への寄付をして編入することを勧められるが、金は用意できなかった。

 また、ザファル(アリー・ファザル)は、大学卒業後も大学に留まり、ミュージシャンを目指していた。大学で会計学を教えるニートゥー(ヴィシャーカー・スィン)は彼の昔の恋人だった。たまたまニートゥーはラーリーの家庭教師をしていた。ザファルは、父親が病気になり、治療に大金が必要になった。

 ハニーは、チューチャーの夢を使って宝くじを買い、一獲千金する計画をパンディトに持ちかける。その場にラーリーとザファルもいて、乗り気になるが、パンディトは乗らなかった。しかしながら、そういう話に金を出してくれる人物を知っており、彼らに紹介してくれた。それは、売春斡旋や麻薬密売などを生業とするボーリー・パンジャーバン(リチャー・チャッダー)だった。だが、チューチャーは前の晩に興奮して眠れず、デタラメな夢をハニーに伝えてしまったため、それを信じて大金を宝くじに投じたボーリーは外れてしまう。怒ったボーリーは、損害を補填するためにレイヴ・パーティーでドラッグを売る仕事を彼らに突き付けるが、警察の急襲を受けてしまう。四人は何とか逃げ出すが、ラーリーは麻薬取締官に目を付けられてしまう。また、ラーリーを匿ったニートゥーは麻薬をトイレに流してしまう。

 ボーリーにさらなる損害を出してしまったことで、四人の運命は万事休すとなる。24時間以内に250万ルピーを用意しなければ、抵当に出されていたラーリーの店は売却されることになってしまった。だが、チューチャーは前の晩に夢を見ていた。その夢が最後の救いであり、皆が全力で資金を集め、宝くじに大金を投じる。それが大当たりとなり、ボーリーに返す金を作ることに成功する。

 ザファルは、それだけでなく、麻薬取締官と話を付けており、ボーリーに金を返すと同時に警察の急襲を呼び込んだ。こうしてボーリーは逮捕され、3ヶ月後、ハニー、チューチャー、ラーリーは見事大学生となる。

 「3 Idiots」のような映画を観ていると、インド人は皆優秀のような気がしてくるが、インド人の誰もがエリートなはずはなく、やはりほとんどは凡人となる。「Fukrey」では、高校までの12年間の教育すらも付いて行けない落ちこぼれの高校生が主人公となる。彼らにとって、大学など夢のまた夢のはずだったが、大学キャンパスや大学生活に異常な憧れを抱いており、女の子にもてたい一心で大学生になろうとする。正攻法の受験では望みゼロのため、裏口入学を試みる。裏口入学が堂々と存在する点はいかにもインドである。それを斡旋するのが、大学の門番という設定も、やたらリアルだ。

 主人公ハニーとチューチャーが採ろうとしたのが、漏洩された試験問題を買うという手段である。インドでは度々、試験問題の漏洩がニュースになるため、これも非常にリアルである。しかも、「本物よりもきれいな印刷」とのことだから笑ってしまう。だが、当然のことながら安くはない。漏洩問題を買うためには大金が必要だった。彼らは、宝くじでの賞金や、同じ大学を受験する者を集めての資金調達などを試すが、目標額には到達しない。

 一方、ラーリーは既に大学生ではあった。しかしながらコレスポンダンスコース、つまり通信制の学生であり、日中キャンパスに通う普通の大学生よりも格下となる。彼は、自分の好きな女の子が通う大学に、普通の学生として通いたいと思い、2年時からの編入を希望していた。しかし、彼の成績ではそれは無理そうだった。そこでラーリーも門番に掛け合って、寄付による編入の道を探ろうとする。しかしながら、やはり大金が必要だった。

 上の3人に比べたら、もう一人の主人公ザファルのキャラは異色である。既に大学3年間を終えており、年齢も彼らより上だ。しかしながら、音楽家になる夢を未だに追っており、大学キャンパスに居座りくすぶり続けている。似たようなキャラは「Rang De Basanti」(2006年)でアーミル・カーンが演じていた。彼については、父親の病気という、半ば仕方ない出来事によって、大金が必要となる。

 ところで、ハニーとチューチャーのコンビは、学校では落ちこぼれだったが、宝くじでは百戦百勝という輝かしい成績を残していた。デリーでは宝くじは禁止されているが、闇では売られており、彼らはどこで売られているのか把握していた。そして、彼らには必勝の方程式があった。チューチャーが夢を見て、ハニーがそれを読み解くことで、必ず当たるのである。なかなか面白い設定であったし、これが様々なトラブルの原因ともなる。

 いかに宝くじで百戦百勝とは言え、一獲千金のためには元手がいる。高校生のハニーとチューチャーにそんな資金はなかった。そこで彼らは、女性マフィアのボーリー・パンジャーバンの金に手を出してしまう。彼女のキャラは、2000年頃からデリーや北インドで人身売買や売春斡旋を行って来た女性ギャング、ソーヌー・パンジャーバンをモデルにしていると言われている。運の悪いことに、ボーリーの金を使って宝くじを買ったとき、チューチャーが嘘の夢を伝えてしまっていたため、外れてしまう。こうして彼らはどんどん不幸の連鎖にはまって行くのである。

 4人の主人公の中では、ヴァルン・シャルマーのキャラが立っており、マンジョート・スィンも良かったが、アリー・ファザルのキャラが場違いな雰囲気を出していた。プルキト・サムラートについては可もなく不可もなくと言ったところだ。ヒロインの中では、リチャー・チャッダーの貫禄が圧倒的で、ヴィシャーカー・スィンが好印象だった。また、門番を演じたパンカジ・トリパーティーは、出番こそ少ないものの、素晴らしい存在感を示していた。

 デリーを舞台にした映画で、デリーの一般的な住宅街の雰囲気などがよく出ていた。いまやすっかりデリーの風景の一部として溶け込んだデリーメトロも効果的に背景に使われていた。

 「Fukrey」は、大学に裏口入学しようとする落ちこぼれ高校生たちなどを主人公にしたコメディー映画である。ヴァルン・シャルマー、マンジョート・スィン、パンカジ・トリパーティーなど、個性的な俳優たちの好演のおかげで、楽しんで観られる映画になっている。デリーが舞台なのもポイントが高い。興行的にもヒットしており、大学をテーマにした映画の佳作と言える。