Yamla Pagla Deewana 2

3.0
Yamla Pagla Deewana 2
「Yamla Pagla Deewana 2」

 ヒンディー語映画界は家族産業の傾向が極度に強く、映画関係者の家系から映画関係者が輩出することが多い。映画関係者同士の結婚も多く、その傾向をさらに強めている。ただ、インドでは近親相姦を想起させるカップリングを敬遠する習慣も根強い。血縁関係にある男優と女優が、たとえスクリーン上であっても、恋愛し、結婚することは避けられている。例えば、ランビール・カプールとカリーナー・カプールはイトコであり、この二人がスクリーン上のカップルを演じたことは過去にないし、今後もないだろう。

 1960年代から80年代にかけて活躍したスター男優ダルメーンドラから始まる家系も、ヒンディー語映画界の重要な映画家系のひとつである。ダルメーンドラにはサニー・デーオールとボビー・デーオールという2人の息子がおり、二人とも男優として活躍している。ダルメーンドラは、往年の女優ヘーマー・マーリニーを第二の妻としており、この二人の間から生まれたイーシャー・デーオールも女優になった。よって、ダルメーンドラの家系としては、ダルメーンドラとヘーマー・マーリニーが第1世代、サニー、ボビー、イーシャーの3人が第2世代となる。

 ただ、ダルメーンドラ家系のスターたちは大味過ぎるところがあって、最近のヒンディー語映画のトレンドとは相容れず、扱いにくいキャラになって来ているように感じる。よって、彼らはまず父子三人でパッケージングして売り出すことを始め、2007年には「Apne」というボクシング映画に父子出演した。これがヒットしたために、ダルメーンドラ、サニー、ボビーのコンビに一定の需要があるとの認識が広まり、今度は「Yamla Pagla Deewana」(2011年)というコメディー映画に三人が揃って出演した。この映画もヒットした。

 2013年6月7日に公開された「Yamla Pagla Deewana 2」は、その題名の通り、「Yamla Pagla Deewana」の続編である。主演は引き続きダルメーンドラ、サニー、ボビーの3人で、前作とストーリー上のつながりはないが、人物設定は引き継いでいる。今回はダルメーンドラがプロデューサーも務めている。監督はサンギート・シヴァン。インド随一の撮影監督として知られるサントーシュ・シヴァンの兄弟で、過去に「Kyaa Kool Hai Hum」(2005年)や「Apna Sapna Money Money…?」(2006年)などのヒンディー語映画を監督している。作曲はシャリーブ・トーシー、作詞はクマール。

 今回、2人のヒロインが登場する。1人はクリスティーナ・アキーヴァ。ロシア系オーストラリア人モデルで、「Yamla Pagla Deewana 2」で女優デビュー作した変わり種だ。この映画のためにヒンディー語を勉強したと言う。もう1人のヒロインはネーハー・シャルマー。「Kyaa Super Kool Hain Hum」(2012年)などいくつかのヒンディー語映画に出演している。時代が前後するが、彼女の次作「Youngistaan」(2014年)のロケのために日本に来た。

 他に、アヌパム・ケール、アンヌー・カプール、ジョニー・リーヴァル、スチェーター・カンナーなどが出演している。ちなみに、題名に並ぶ3つの単語「Yamla」「Pagla」「Deewana」はどれも「狂人」という意味だ。

 ダラム(ダルメーンドラ)は息子のガジョーダル、通称プレーム(ボビー・デーオール)と共に、ヴァーラーナスィーで偽宗教家を演じて信者から金品を巻き上げていた。だが、スコットランドに住むもう一人の息子パラムヴィール(サニー・デーオール)には花屋をして地道に生計を立てていると嘘を付いていた。パラムヴィールは筋力を活かして俳優をしており、二人に仕送りをしていた。

 ある日、ダラムとプレームは、英国からやって来た実業家ヨーグラージ・カンナー(アンヌー・カプール)と出会う。二人は、オーベローイ・オーベローイ&オーベローイという架空の会社の社長とその息子を演じてヨーグラージを騙す。ヨーグラージには一人の娘がおり、その結婚相手を探していた。そのときヨーグラージと共にインドに来ていたスマン(ネーハー・シャルマー)をヨーグラージの娘だと思い込んだプレームは、彼女に気に入られようと努力する。逆玉の輿を狙ってのことだった。スマンはプレームと恋に落ち、二人は結婚することになる。挙式のため、ダラムとプレームは英国へ飛ぶ。パラムヴィールには聖地巡礼のためしばらく音信不通になると言ってあった。

 ところが最近パラムヴィールは仕事のためロンドンに移住しており、ヨーグラージの経営するバーのマネージャーに就任していた。ヨーグラージのバーを狙うマフィア、ジョーギンダル・アームストロング、通称デュード(アヌパム・ケール)の部下たち、バンティー(ジョニー・リーヴァル)とバブリー(スチェーター・カンナー)の襲撃からバーを守ったことで、パラムヴィールはヨーグラージから気に入られたのだった。

 空港でダラムとプレームを迎えたパラムヴィールは、二人が自分の父と弟であることにすぐに気付くが、彼らの正体を暴くことをせず、彼らに合わせることにした。ダラムとプレームはロンドンで知人の家に居候することになるが、家の主人は留守で、ペットのオラウータン、アインシュタインと共に暮らすことになった。2人はアインシュタインという名前が気に入らず、ハッピーと呼ぶことにする。

 プレームとスマンの婚約式が行われた。ところがそこで、スマンがヨーグラージの実の娘でないことが発覚する。実の娘はリート(クリスティーナ・アキーヴァ)と言い、画廊の経営をしていた。パラムヴィールはリートに一目惚れするが、プレームは今度はリートを狙い始める。当初、リートの心はパラムヴィールに傾いていた。そこでダラムはプレームの双子の弟Q(ボビー・デーオール)をでっち上げる。Qは新進気鋭の芸術家ということにした。職業柄、リートはQに関心を引かれるようになる。Qは試しに絵を描くように言われる。小学生並みの画力しかないQは窮地に陥るが、ハッピーが描いた絵が前代未聞の傑作ということになり、Qはそれを自作として提示する。おかげでリートは完全にQになびくことになった。Qの作品は展覧会でも話題を呼び、彼は一躍時の人となる。

 ところで、パラムヴィールはリートと共にヨーグラージのバーのリノベーションをしていた。それが完了し、バーが再オープンすることになった。ヨーグラージはQを主賓として呼ぶ。おかげでバーは大盛況だったが、そこへバンティーとバブリーが殴り込んで来る。パラムヴィールはそれを撃退し、リートは再び彼にも関心を持つようになる。だが、酔っ払ったパラムヴィールは翌朝目覚めると裸の女性と一緒に寝ていた。そこへタイミング悪くリートが来てしまったため、彼は一気に嫌われてしまった。ただ、これはダラムとプレームの策略だった。

 そんなこともあり、リートはQとの結婚を了承する。しかし、パラムヴィールの提案で、プレームとスマン、Qとリートの結婚式が同時に行われることになる。困ったダラムは、スマンに対し、プレームは実はインポテンツだと明かす。だが、スマンのプレームに対する愛情は変わらなかった。その姿に心を打たれたプレームは、スマンを本格的に愛するようになる。

 Qの絵がチャリティー・オークションに掛けられることになった。デュードもその絵を欲しており、バンティーとバブリーは変装してオークション会場に紛れ込んでいた。そこで絵には高値を付けるが、バンティーとバブリーは入手を逃す。そこでデュードはQを誘拐することにする。ダラムとQは誘拐されるが、パラムヴィールに救出され、デュードの一味は倒される。また、このときの混乱の中でプレームとQが同一人物であったことも明かされる。結局、プレームはスマンと、パラムヴィールはリートと結婚することになった。

 泥棒や詐欺師を主人公とした「コン(con)」映画はインド映画が代々好んで作り続けて来たジャンルで、多くはコメディータッチで描かれる。頭の回転の早い軽犯罪者の主人公が次々に善良な市民を騙して行く様を追うのだが、笑うのは悪いと思っていても「他人の不幸は蜜の味」、ついつい笑ってしまうもので、安定した面白さを保っている。「Yamla Pagla Deewana 2」もコン・コメディーの一種である。ただ、この映画が他のコン映画と異なるのは、真面目な人物を主人公の一人に据えていることだ。サニー・デーオール演じるパラムヴィールである。パラムヴィールが、詐欺師となった父と弟の悪事を真っ向から暴いたり止めたりすることをせず、柔軟に対応しつつ彼らの改心へ持って行こうとする。その点が「Yamla Pagla Deewana」シリーズの魅力になっているのだと言える。

 また、「Yamla Pagla Deewana 2」では過去のヒット映画のパロディーが散りばめられており、ヒンディー語映画ファンにとっては、ひとつひとつの元ネタを探すのが面白い作品となっている。ダルメーンドラ自身が主演を務めた「Sholay」(1975年)や「Amar Akbar Anthony」(1977年)から始まり、「Dabangg」シリーズや「Don」シリーズ、「Maine Pyar Kiya」(1989年)や「Tees Maar Khan」(2010年)、サンギート・シヴァン監督自身の「Apna Sapna Money Money」や主演三人の過去の共演作「Apne」など、様々なパロディーが見受けられた。

 映画のパロディーのみならず、日本や中国のパロディーもあった。ラストシーンでは4人の力士が主人公たちに襲い掛かるし、中盤ではクンフー使いが登場した。多くのパロディー・ネタは、ジョニー・リーヴァル演じるバンティーを中心に展開していた。

 ヒンディー語のコメディー映画は、B級以下になるとコント劇の寄せ集めで終わっていることも多いのだが、「Yamla Pagla Deewana 2」では少なくともしっかりとしたストーリーがあり、展開で笑わせることができていた。その点でコメディー映画として一定の基準を満たしていたと言える。アヌパム・ケール演じるデュードが悪役としてアクションシーンのきっかけを提供していたが、この部分については蛇足に感じた。ただ、アヌパム・ケールは前作にも登場しており、「Yamla Pagla Deewana」シリーズの構成員として、役が必要だったのかもしれない。

 ちなみに、ヴァーラーナスィーとして映画に出て来たのは実際にはヴァーラーナスィーではなく、マディヤ・プラデーシュ州の聖地のひとつマヘーシュワルである。序盤のダンスシーン「Changli Hai Changli Hai」では、マヘーシュワルの近くにある観光地マーンドゥーのジャハーズ・マハルなどでロケが行われているのが分かる。

 「Yamla Pagla Deewana 2」は、ダルメーンドラ、サニー、ボビーの親子三人が共演する3作目の作品で、2011年のコメディー映画「Yamla Pagla Deewana」の続編である。前作ほどのヒットはしなかったようだが、一応よくまとまった作品になっている。ただ、何の深みもない映画であるのは否めない。