Jolly LLB

3.5
Jolly LLB
「Jolly LLB」

 2013年3月15日に公開されたヒンディー語映画「Jolly LLB」のタイトルを見ると、すぐに「Munna Bhai M.B.B.S.」(2013年)を思い出す。現在、ヒンディー語映画界で最高の監督の一人であるラージクマール・ヒラーニーの実質的デビュー作であり、またアルシャド・ワールスィーやボーマン・イーラーニーの出世作でもあった。「MBBS」というのは医学部学士のことで、「LLB」は法学士のことである。「Munna Bhai M.B.B.S.」が医学関連のストーリーだったのに対し、「Jolly LLB」は弁護士関連のストーリーであることが分かる。アルシャド・ワールスィーが主役、ボーマン・イーラーニーが悪役で、その点でも「Munna Bhai M.B.B.S.」と共通している。ただし、「Jolly LLB」の監督は「Phas Gaye Re Obama」(2010年)のスバーシュ・カプールである。

 「Jolly LLB」の作曲はクリシュナ、作詞はスバーシュ・カプールとヴァーユ。主演は前述の通りアルシャド・ワールスィー。ヒロインはアムリター・アローラーで、悪役はボーマン・イーラーニー。他に、サウラブ・シュクラー、ハルシュ・チャーヤー、マノージ・パーワー、ラメーシュ・デーオ、モーハン・カプール、サンジャイ・ミシュラー、モーハン・アーガーシェー、スシール・パーンデーイ、サンディープ・ボース、ラージーヴ・スィッダールタなど。

 ウッタル・プラデーシュ州メーラト在住の売れない弁護士ジャグディーシュ・ティヤーギー、通称ジョリー(アルシャド・ワールスィー)は、一念発起してデリーに拠点を移す。デリーには、姉婿で弁護士のプラタープ(マノージ・パーワー)がいた。しかし、恋人で教師のサンディヤー(アムリター・アローラー)はメーラトに置いて来た。ジョリーはデリーでスター弁護士テージンダル・ラージパール(ボーマン・イーラーニー)の仕事振りを目の当たりにし、憧れる。

 ところで、ラージパールは現在、有力政治家ディーワーン(モーハン・アーガーシェー)の孫、ラーフル(ラージーヴ・スィッダールタ)が起こしたとされるひき逃げ事故の弁護士を務めていた。ラーフルは半年前の4月20日深夜に酔っ払って自動車を運転し、路肩に乗り上げて、路上で寝ていた路上生活者6人を殺した容疑で逮捕されていた。しかし、ラージパールの見事な口上によってラーフルは保釈を勝ち取る。ラーフルの父ヨーグラージ(モーハン・カプール)はラーフルが保釈されたことで安心し、ラージパールに予め約束していた報酬金を全額支払わなかった。ラージパールは多くを語らず黙ってその金を受け取る。

 ジョリーはラーフルの事件に興味を持ち、新聞の切り抜き記事などをじっくり調べる。その中で、警察が真剣に調査をしていないとメディアが批判していることに目を付け、公益訴訟(PIL)を起こす。だが、担当となった裁判長スンダルラール・トリパーティー(サウラブ・シュクラー)から、新聞記事を根拠に裁判は行えないと一喝する。次の公判日までに証拠を探して来ることになった。

 困ったジョリーのところへ、アルバート・ピントー(ハルシュ・チャーヤー)という男がやって来る。彼は事件の目撃者だと言う。ジョリーはピントーを証人とし、公判に臨む。事件の再捜査が認められ、ラーフルは召還されることとなる。ジョリーは一躍時の人となり、テレビにも出演する。裁判所の食堂を経営するカウル・サーブ(ラメーシュ・デーオ)はラージパールに恨みがあり、彼に敢然と立ち向かったジョリーに仕事部屋を与える。ジョリーは一度メーラトに戻り、サンディヤーにプロポーズをする。一方、ディーワーン家には衝撃が走り、引き続きラージパールに弁護を任せることになった。

 まずはピントーがラーフルを認知する作業が裁判所で行われることになっていた。その直前、ピントーに呼び出されたジョリーは、実は自分はラージパールから送られた人間で、全てディーワーン家から契約通りの金額を引き出すためにラージパールが考案した計画だったことを明かす。ピントーは計画通り、ラーフルの認知を拒否すると言う。この計画の駒となった見返りとしてジョリーは200万ルピーがもらえることになっていた。その前金として彼は20万ルピーをもらう。

 公判の日、予定通りピントーはラーフルを認知せず、ジョリーも何も言わなかった。裁判所内では、ジョリーがPILを起こしたことで200万ルピーを得たという噂が広まり、プラタープは彼を褒める。だが、カウル・サーブはジョリーに平手打ちする。ジョリーは金をラージパールに突き返し、徹底的に裁判を戦ってラーフルを有罪にすることを決意する。

 プラタープの助けを借り、彼は汚職警官グルジー(サンジャイ・ミシュラー)から、事件当日に現場で撮影されたビデオを入手する。これは警察が公表を隠していたものだった。このビデオが出て来たことで再び裁判は盛り上がる。ジョリーは、ラージパールから送られた弁護士たちのリンチに遭うものの、新たな証人がゴーラクプルにいることを突き止める。それは、6名の犠牲者の内の1人、サダーカント・ミシュラー(スシール・パーンデーイ)であった。彼は死んだはずであったが、実は生きていた。ラージパールの息がかかった汚職警官ラーティー(サンディープ・ボース)が賄賂と引き替えに命を奪わずにゴーラクプルに送っていたのだった。ジョリーは、ラーティーから妨害を受けるものの、ゴーラクプルでサダーカントを見つけ出し、証人として召喚する。

 サダーカントが事故当時の状況を生々しく証言し、ラーフルを認知したことで、裁判は一気にジョリーに有利となった。裁判長のトリパーティーはラーフルに有罪判決を下す。スター弁護士ラージパールを打ち負かし、ラーフルに引導を渡したことで、ジョリーは名声を勝ち取る。

 基本的にコメディー映画だが、インド社会の問題を鋭く突いており、とても有意義で啓蒙的な作品に仕上がっていた。ダンスシーンは蛇足に感じるものが多かったが、アルシャド・ワールスィーとボーマン・イーラーニーの演技対決は迫力があり、欠点を補っていた。興行成績はスーパーヒット。2013年を代表する映画の一本だ。

 「Jolly LLB」は裁判モノの映画であったが、メインとなっていた事件は、政治家家系のどら息子が起こした交通死亡事故だ。深夜、酒に酔ってSUVを運転し、路上生活者6名をひき殺したという事件である。これを聞いてパッと思い付くのは、サルマーン・カーンが2002年9月28日に起こしたとされるひき逃げ事件である。サルマーン・カーン所有のSUVが路上生活者が寝る路肩に乗り上げ、1名が死亡、4名が負傷した。この公判は現在まで続いており、サルマーンは「自分は運転していなかった」と主張し続けている。

 「Jolly LLB」は公益訴訟(Public Interest Litigation/PIL)の存在をインドの人々に啓蒙する役割を担う可能性がある。公益訴訟とは、インド憲法32条を根拠にした訴訟形態で、公益が損なわれていると認められた場合、被害者以外の第三者でも訴訟を起こすことができるというものだ。NGOなどが社会的経済的弱者を救済する目的でPILを使うことが多い。「Jolly LLB」で、ラーフルによるひき逃げ事件とは全く関係ないジョリーがこの事件について再捜査の訴訟を起こすことができたのも、インドにこのような制度が存在するからである。この映画を観れば、PILがどんなものなのか、少なくともPILというものが存在するということが分かる。

 ボーマン・イーラーニーが演じたスター弁護士テージンダル・ラージパールのモデルとなっているのはおそらくラーム・ジェートマラーニーであろう。インディラー・ガーンディーやラージーヴ・ガーンディーなどを暗殺した犯人の弁護をはじめ、非常に人目を引くような事件を好んで引き受け、時に物議を醸すような発言をしている。インドでもっとも多額の弁護料を取る弁護士として知られている。

 うだつのあがらない弁護士が、年長者や妻からの叱咤激励を受け、正義のために立ち上がって苦闘し、最後に巨悪を打ち負かすストーリーはいかにもインド映画だ。ジョリーは、ラージパールに屈することでも、いくばくかの報酬金と名声を得ることができた。だが、どうせ名声を得るならば、正義のために戦って得たいとジョリーは考える。この辺りの改心がインド映画の良心だと言える。

 「Jolly LLB」は、一見地味ながらも有意義なコメディー映画だ。インド司法制度の中でも重要なPILについてある程度知ることができる。アルシャド・ワールスィーとボーマン・イーラーニーの競演も見物だ。2013年のヒンディー語映画の中では必見の作品のひとつである。