Dabangg 2

4.0

 南インドのヒット映画をリメイクしたヒンディー語は昔から少なくなかったのだが、特にここ最近はその種の映画が非常に目立つようになった。中でもアクション映画が人気で、「Ghajini」(2008年)、「Wanted」(2009年)、「Singham」(2011年)、「Bodyguard」(2011年)、「Rowdy Rathore」(2012年)など、南インド映画をリメイクして大ヒットしたヒンディー語アクション映画には枚挙に暇がない。だが、南インド映画界はヒンディー語映画界とは異なった文化圏であり、映画作りの文法も異なる。もっとはっきり言えばストーリーテーリング、キャラクター設定、技術などの面で一時代ほど遅れている。よって南インド映画をそのままヒンディー語化すると、どうしても違和感が出てしまうのだ。リメイクは悪いことではないのだが、ヒンディー語映画の文法に従ってうまく消化する必要がある。

 そんな中で、南インド映画のテイストを巧みに消化して作られたオリジナルのヒンディー語アクション映画があった。サルマーン・カーン主演の「Dabangg」(2010年)である。南インド映画の影響は無視できないが、どの映画のリメイクでもなく、完全なるオリジナル作品である。そして何よりヒンディー語映画らしい完成度を誇っていた。「Dabangg」の成功は他のリメイク映画と同一視すべきではない。マルチプレックス向けの映画を志向し、しばらくアクション映画から離れていたヒンディー語映画界が、大衆向けの映画作りに回帰し、アクション映画のセンスを取り戻したことを示す重要な金字塔である。

 「Dabangg」が大ヒットしたことを受け、早々と続編の制作がアナウンスされていた。そして本日(2012年12月21日)遂に「Dabangg 2」が公開となった。主演は前作と同じサルマーン・カーン。ヒンディー語映画界の続編モノは、前作とストーリー上の関連性がないことが多いのだが、この「Dabangg」は前作からの続きとなっており、主なキャスト・登場人物も共通している。よって、前作を観ていないとすんなり映画の世界に入って行けないだろう。ただ、監督は前作のアビナヴ・カシヤプではなく、アルバーズ・カーンとなっている。アルバーズ・カーンは前作ではプロデューサーと助演を務めていたが、本作ではそれらに加えて監督もこなしている。彼にとってはこれが監督デビュー作となる。

監督:アルバーズ・カーン(新人)
制作:アルバーズ・カーン、マライカー・アローラー・カーン
音楽:サージド・ワージド
歌詞:ジャリース・シェールワーニー、イルファーン・カーミル、サミール
振付:ファラー・カーン、ガネーシュ・アーチャーリヤ
衣装:アルヴィラー・アグニホートリー、アシュレー・ロボ
出演:サルマーン・カーン、ソーナークシー・スィナー、アルバーズ・カーン、ヴィノード・カンナー、プラカーシュ・ラージ、ディーパク・ドーブリヤール、ニキティン・ディール、サンディーパー・ダール、マノージ・パーワー、マーヒー・ギル(特別出演)、ティーヌー・アーナンド(特別出演)、マライカー・アローラー・カーン(特別出演)、カリーナー・カプール(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 田舎町ラールガンジから地方都市カーンプルに転勤となったチュルブル・パーンデーイ(サルマーン・カーン)。継父プラジャーパティ・パーンデーイ(ヴィノード・カンナー)、弟マッカンチャンド(アルバーズ・カーン)、そして妊娠中の妻ラッジョー(ソーナークシー・スィナー)も一緒だった。早速カーンプルで誘拐劇を一人で解決し、街の話題の人となったチュルブルであった。カーンプル警察のトップ、アーナンド・マートゥル警視(マノージ・パーワー)も新任のチュルブルにご満悦の様子であった。

 ところで、チュルブルの所属となった地域は、悪徳州議会議員バッチャー・バイヤー(プラカーシュ・ラージ)のテリトリーであった。弟のガインダー(ディーパク・ドーブリヤール)やチュンニー(ニキティン・ディール)と共に恐怖政治を敷いており、誰もバッチャーに歯向かおうとしなかった。しかし、チュルブルは違った。

 チュルブルはまず、殺人事件に関与したバッチャーの手下を殺し、バッチャーに宣戦布告する。次に、花嫁を誘拐しようとしたガインダーを公衆の面前で殺害する。それまでバッチャーは師匠にたしなめられて怒りを抑えていたが、弟の死により怒りを爆発させ、師匠と決別してチュルブルへの反撃を開始する。バッチャーはラッジョーとマッカンチャンドを襲撃する。これによりラッジョーのお腹の中にいた胎児が死んでしまい、マッカンチャンドも重傷を負う。

 それを知ったチュルブルはバッチャーの待つ郊外の寺院へ単身突入する。バッチャーの手下を次々となぎ倒し、チュルブルも倒す。バッチャーにもとどめをさそうと言うときにマートゥル警視がやって来てバッチャーを逮捕するが、チュルブルは問答無用でバッチャーを射殺する。

 おそらくアルバーズ・カーンは「Dabangg」を長期シリーズ化しようとしているのだろう。そしてチュルブル・パーンデーイとそれを演じるサルマーン・カーンをヒンディー語映画界のラジニーカーントに育て上げようとしているのだろう。そんな野心が感じられる第2作であった。もっと踏み込んで言えば、既に「Dabangg」は日本の「水戸黄門」のように様式化されている。ストーリーの流れ、アクションの構成、お約束ギャグ、挿入歌の使い方など、前作を完全に踏襲しており、新しい冒険や工夫はあまり見られない。そういう批判も多く出て来ることだろう。だが、それが必ずしもマイナス要因となっておらず、安定した娯楽を提供する作品となっていた。地方の庶民層から都市の若者まで、幅広い支持とユニバーサルヒットを狙った、計算高い作品である。

 「Dabangg 2」の主な存在意義は、「Dabangg」長期シリーズ化の布告に加えて、チュルブル・パーンデーイのキャラ確立であろう。確かに前作で既に十分過ぎるほど個性的なキャラに仕上がっていた。強きをくじき、弱気を助ける腕っ節の強い警官であるが、完全なる正義漢でもなく、「いい具合」に汚職している。だが、決して弱者を苦しめて金儲けをせず、必ず強者や悪者から金をせしめる。ラーム型ではなく、クリシュナ型の主人公、それがチュルブル・パーンデーイであり、人々から愛されるのもその親しみやすいキャラによるところが大きかった。だが、「Dabangg 2」ではそのチュルブルをさらに磨き上げ、シリーズ映画の主人公にふさわしいカリスマ性とチャーミングさを今一度付与していた。決め台詞が前作と異なっていたことを鑑みるに、おそらく作品ごとに新たな決め台詞を提供して行くことになるのだろう。

 悪役は、前作ではソーヌー・スード演じるチェーディー・スィンであったが、今回はプラカーシュ・ラージ。南インド映画で主に活躍する俳優であったが、ヒンディー語映画の「Bbuddah… Hoga Terra Baap」(2011年)や「Singham」での見事な悪役振りが評価され、ヒンディー語映画界でも起用されるようになって来ている。「Dabangg 2」でさらに注目を浴びることだろう。おそらく「Dhoom」シリーズのように、「Dabangg」も「次作の悪役は誰か」ということが話題になる映画シリーズになりそうだ。

 ヒンディー語映画の本拠地は言わずと知れたムンバイーである。よって、ムンバイーを舞台とした映画がヒンディー語映画に多いのだが、ムンバイーはマラーティー語を第一の州公用語とするマハーラーシュトラ州の州都であって、ヒンディー語がローカル言語ではない。もちろん、ムンバイーはメトロポリタンであり、様々な地域から来た人々が住んでいるので、ヒンディー語もよく通じる。だが、言語に写実性を求めると、ヒンディー語だけには頼れないのが現状である。それでも、「ヒンディー語映画」を銘打っているだけあって、ムンバイー舞台の映画でありながらも、ヒンディー語――しかも標準ヒンディー語――で作られることがほとんどだ。メインストリームのヒンディー語娯楽映画は今でもムンバイーが舞台になったものが多い。

 しかしながら、ここ数年、ヒンディー語圏の都市を舞台としたヒンディー語映画も増えて来ており、2010年に公開された「Dabangg」もヒンディー語の牙城であるウッタル・プラデーシュ州の田舎町が舞台となっていた。「Dabangg」シリーズでは、単にヒンディー語圏を舞台としたヒンディー語映画というだけでなく、ヒンディー語の地方色もよく出ている。チュルブルをはじめとした登場人物は、サンスクリット語彙を主体としたコテコテのヒンディー語を話す。それでいて少し訛りもあって、いかにも田舎町のインド人と言った雰囲気がよく出ている。チュルブルの名字パーンデーイやその仲間の警官の名字――チャウベー、ティワーリーなど――は北インドの典型的なブラーフマン名であることも追記しておく。

 「Dabangg 2」はサルマーン・カーン一家が完全に実権を握る作品となっていることも重要だ。プロデューサーはサルマーンの弟アルバーズとその妻マライカー・アローラー・カーンであるし、コスチュームデザインはサルマーンの妹である。これらは前作も同様だったのだが、本作では監督をアルバーズが担当。それにより、さらにサルマーン・カーンのファミリー・フランチャイズ性が強くなった。

 サルマーン・カーンは円熟期に来てまたはまり役を得たと言っていい。チュルブル・パーンデーイは、サルマーン・カーンの普段のキャラや一般的なイメージの延長線上にあり、さぞや成り切るのが楽しいことであろう。

 ソーナークシー・スィナーにとって前作はデビュー作であり出世作だった。この2年間ヒット作に恵まれ、彼女は若手の中で頭一つ飛び抜けた存在となっている。しかし、彼女自身の成長は正直あまり感じられない。出演作のヒットと周囲の支えと運によってここまで来ていると言っていい。「Dabangg 2」でも、特に優れた演技をしていた訳ではなかった。演技力一本で頭角を現わした同世代のアヌシュカー・シャルマーなどと比較すると、将来が心配な女優である。

 悪役プラカーシュ・ラージについては前述の通りである。他にディーパク・ドーブリヤールがいい存在感を放っていた。「Omkara」(2006年)や「Teen Thay Bhai」(2011年)などで有名な個性派男優だ。アルバーズ・カーン、ヴィノード・カンナー、マノージ・パーワーなどもナイスアシスト。前作で出演したマーヒー・ギルやティーヌー・アーナンドは今回はカメオ出演扱いだった。

 また、アイテムガールとしてマライカー・アローラー・カーンとカリーナー・カプールが出演している。マライカー・アローラー・カーンは前作で「Munni Badnaam」を踊り、「ムンニー」として名声を獲得した。「Dabangg 2」でも「Pandeyjee Seeti」で突然乱入して踊りを踊っている。今回はカリーナー・カプールが前作のムンニー的な立場でアイテムナンバー「Fevicol Se」を踊ったが、ムンニーほどのパワーはなかった。

 音楽は前作に引き続きサージド・ワージド。前述の通り、「Dabangg」と非常に酷似した構成となっている。それをもう少し詳しく見てみよう。前作にはラーハト・ファテー・アリー・カーンの歌うカッワーリー風バラード「Tere Mast Mast Do Nain」があったが、本作ではやはりラーハト・ファテー・アリー・カーンの歌うカッワーリー風バラード「Dagabaaz Re」があった。前作ではマムター・シャルマーの歌うアイテムナンバー「Munni Badnaam」が大ヒットしたが、本作でも二匹目のドジョウを狙うアイテムナンバー「Fevicol Se」があった。歌っているのもやはりマムター・シャルマーだ。タイトルソングに至ってはほぼリメイクの域だ。ちなみにフェヴィコールとはインドで普及している糊のブランドのことである。前作ではスクヴィンダル・スィンの歌う「Hud Hud Dabangg」がテーマソングとなっていたが、本作ではそのサビを流用した「Dabangg Reloaded」が使われていた。歌手もそのままスクヴィンダル・スィンだ。「Dabangg」は音楽の良さでも突出していたが、「Dabangg 2」はその繰り返しを狙いに狙った音楽となっている。しかし、前作に勝る音楽的カリスマ性は感じない。

 今回舞台となったカーンプルはウッタル・プラデーシュ州の実在の都市で、同州の代表的な都市のひとつである。実際にカーンプルでロケが行われていたと思われる。

 「Dabangg 2」は、2010年の大ヒット作「Dabangg」の正統な続編。前作を観ていないとストーリーに入って行けないが、前作を観ていると前作とほとんど同じ構成であることに気付くだろう。しかしながら、決して二番煎じの退屈な作品ではなく、ヒンディー語映画の文法に従って優れた娯楽映画に仕上がっている。長期シリーズ化の布告も十分に感じられた。サルマーン・カーンとそのファミリーには、「Dabangg」シリーズを大事に育てていってもらいたいものだ。将来的にはヒンディー語映画の財産となり得る。