Raaz 3

3.5
Raaz 3
「Raaz 3」

 不作だった2002年のヒンディー語映画界において、「Raaz」は例外的なヒットとなった作品だった。「Raaz」はしばしばインド初のホラー映画と呼ばれる上に、女優の肌の露出を映画の武器とする「スキンショー」のトレンドを作り出したり、前年に「Ajnabee」で衝撃のデビューをしたビパーシャー・バスが人気を不動のものとした作品だったりして、映画史上でも一定の重要性を持っている。また、この映画はB級映画を地道に作り続けるバット・キャンプ(マヘーシュ・バット、ムケーシュ・バット、ヴィクラム・バット、プージャー・バットなど)の代表作ともなり、直接ストーリー上の関連性はないものの、続編も作られた。「Raaz: The Mystery Continues」(2009年)である。「Raaz」の監督がヴィクラム・バットだったのに対し、こちらはモーヒト・スーリーが監督をした。いかにもインドらしいホラー映画で、セミヒットとなった。

 2012年9月7日に「Raaz」シリーズの最新作「Raaz 3」が公開された。「Raaz 3」のキャスティングやクルーの顔ぶれは、「Raaz」と「Raaz: The Mystery Continues」を足して2で割ったような案配となっている。監督は「Raaz」と同じヴィクラム・バット。主演女優にはビパーシャー・バスが返り咲いた。一方、「Raaz: The Mystery Continues」の主演男優イムラーン・ハーシュミーが「Raaz 3」でも引き続き主演。その他、「Jannat 2」(2012年)でデビューしたミスコン出身女優イーシャー・グプターも出演している。また、「Raaz 3」は3D映画となっている。

監督:ヴィクラム・バット
制作:マヘーシュ・バット、ムケーシュ・バット
音楽:ジート・ガーングリー、ミトゥン、ラシード・カーン
歌詞:サンジャイ・マースーム、クマール、ラシード・カーン
出演:イムラーン・ハーシュミー、ビパーシャー・バス、イーシャー・グプター、マニーシュ・チャウダリーなど
備考:DTスター・プロミナード・ヴァサントクンジで鑑賞。3D。

 シャナーヤー・シェーカル(ビパーシャー・バス)はかつて絶大な人気を誇ったものの、現在は旬を過ぎた女優だった。シャナーヤーは起死回生のために映画賞の女優賞を熱望していたが、その栄誉は若手人気女優サンジャナー・クリシュナン(イーシャー・グプター)に奪われてしまった。実はサンジャナーはシャナーヤーの腹違いの妹であった。サンジャナーの父親と妾の間に生まれたのがサンジャナーであった。だが、父親は妾と住み始めてしまい、シャナーヤーは無視されることになった。よって、シャナーヤーはサンジャナーにいっそうの憎悪を抱いていた。

 ところでシャナーヤーは過去3年間、人気映画監督アーディティヤ・アローラー(イムラーン・ハーシュミー)と密かに付き合っていた。アーディティヤを人気映画監督に育て上げたのもシャナーヤーであった。アーディティヤは今回最優秀監督賞を受賞し、上機嫌であった。既にシャナーヤーの黄金期は過ぎ去ったことを知っていたアーディティヤは彼女に結婚を申し出る。だが、シャナーヤーはキャリアの方を重視しており、その申し出を断る。

 シャナーヤーは神頼みして賞が得られなかったことで黒魔術に頼るようになる。シャナーヤーの願いはサンジャナーの没落であった。彼女は悪霊ターラーダッター(マニーシュ・チャウダリー)と出会い、彼から呪いの水を受け取る。この水を毎日サンジャナーに飲ませることで、彼女を苦しませることが出来るとのことだった。シャナーヤーはアーディティヤを使ってその水をサンジャナーに飲ませることにする。アーディティヤの新作にサンジャナーを起用させ、彼女と近付き、そして密かに水を飲ませた。アーディティヤは、黒魔術に荷担することは本意ではなかったが、恋人の願いでもあり、また映画界での出世を後押ししてくれた恩もあって、断れなかった。しかしながら、アーディティヤはサンジャナーと深く話す内に、彼女に惹かれるようになる。徐々に呪いが効き始めるのだが、夜な夜な現れる亡霊に怯える彼女を守る内に、とうとう2人は肉体関係となってしまう。

 アーディティヤは、シャナーヤーとの関係を断ち切り、サンジャナーと付き合うことを決める。ところがシャナーヤーは、アーディティヤがサンジャナーに呪いの水を飲ませることを承諾する様子を映したビデオを持っていた。それでもってシャナーヤーはアーディティヤを脅す。だが、彼は脅しに屈せず、映画の撮影を中断して、サンジャナーと共に別荘へ籠もる。

 だが、ある日シャナーヤーが突然別荘を訪れる。シャナーヤーは引き続きアーディティヤを脅す。また、彼女は密かにサンジャナーに呪いの水入りのチョコレートを食べさせていた。そのおかげでシャナーヤーは映画界の重鎮が集まるパーティーにおいて幻覚を見て服を脱ぎ捨ててしまう。公衆の面前で全裸となったことでサンジャナーの名誉は地の底まで落ちる。サンジャナーはしばらく入院することになる。一方、人気女優が奇行に走ったことで、シャナーヤーのもとに映画のオファーが殺到する。

 アーディティヤはシャナーヤーの留守中に彼女の自宅に侵入し、残っていた呪いの水を奪い出す。また、呪いを始める前に地中に埋めたガネーシャ像を掘り起こす。異変を察知したシャナーヤーは再びターラーダッターのもとを訪れ、今度はサンジャナーの死を要求する。ターラーダッターはそれと引き替えに体を要求する。シャナーヤーはターラーダッターの腐敗した体を受け容れ、悪霊と性交する。

 ターラーダッターの呪いにより、入院中だったサンジャナーは突然意識を失ってしまう。アーディティヤは、黒魔術に理解のある医者の助けを借りて霊媒師を呼び寄せる。霊媒師は、魂の世界に行って、捕らえられたサンジャナーの魂を救い出すしか手段はないと言う。アーディティヤは自らが魂の世界へ行くことを決める。アーディティヤは魂の世界においてターラーダッターと戦う。現実世界ではシャナーヤーがその儀式を邪魔しようとして来るが、アーディティヤはガネーシャ神のご加護もあってターラーダッターを退治することに成功する。サンジャナーは意識を取り戻す。呪いが失敗したことを知ったシャナーヤーは酸を浴びて死んでしまう。

 場末の観客をメインターゲットに絞ったかのような作品を送り出し続けるバット・キャンプであるが、B級映画ながらなかなか面白い作品を時々作るので無視出来ない。今年の作品ではヴィクラム・バット監督「Dangerous Ishhq 3D」(2012年)が個人的に壺にはまったし、ムケーシュ・バット制作「Jannat 2」もヒットしている。「Raaz 3」も楽しめた。

 まず面白かったのは、売れなくなった女優の焦燥感と嫉妬がストーリーの原動力となっていたことである。往年の女優がかつての栄華を忘れられずに旬を過ぎた後も見栄を張った生活を送り続けるという姿は古今東西の映画でよく題材となるが、「Raaz 3」では旬を過ぎたもののまだ完全に下降していない女優シャナーヤーが、新たに台頭して来た若手女優サンジャナーを何とか失墜させようと黒魔術に頼る。それだけでなく、後にはサンジャナーは実は腹違いの妹であることが明かされるが、この点は蛇足に感じた。旬を過ぎた女優のエゴのみを呪いの動機とした方が綺麗にまとまっていたと思う。しかし、この辺りのドロドロとした人間関係をこれでもかと見せ付けるのは、バット・キャンプの得意技だ。

 呪いの水を毎日飲ませるという呪術がインドに昔から伝わるものなのか、それともライターの空想の産物なのか、分からない。それほどおどろおどろしさがない気もする。だが、呪いにかかったサンジャナーを救うために魂の世界へ行くという設定は良かった。もちろん、「マトリックス」シリーズの二番煎じであろうが、現実世界と魂の世界を交互に見せて緊迫感を出したりしていて、このアイデアの導入は成功していたと思う。

 また、「Raaz」がトレンドセッターとなった「スキンショー」も健在で、女優の肌見せシーンがいくつか存在する。「連続キス魔」の異名を持つイムラーン・ハーシュミーは今回両ヒロインとキスをしている上に、両ヒロインとベッドシーンもこなしている。また、サンジャナーが幻覚を見て全裸で公衆の面前に飛び出すシーンも、いかにもバット・キャンプが考えそうなサービスシーンだ。

 今回3Dで鑑賞した。それをフルに活かした映像表現は見当たらなかったものの、ホラー映画としての完成度はそれほど低くない。突然のビックリ映像と大きな効果音で驚かすタイプの幼稚なホラーではあるが、それなりに怖さはある。

 総じて「Raaz」の名に恥じない映画となっていたと評価できる。興行成績も悪くないようである。

 ビパーシャー・バスは今回かなり勇気ある決断をしたと言える。彼女が演じたシャナーヤーは、ビパーシャーの身の上とも重なるものがあるからだ。ビパーシャーも既に30歳を越えており、ヒロイン女優としての黄金期は過ぎている。デビュー作「Ajnabee」で最優秀新人女優賞を受賞したものの、その後受賞とは縁がない。ビパーシャーは一時代を築いた女優で、インド中で知名度も高いが、女優としてのキャリアは順風満帆とは言い難い。シャナーヤーの身の上や彼女の台詞は、何となくビパーシャー自身の今の心情を代弁しているようで、妙な現実感があった。また、かつてセックスシンボルとして名を馳せたビパーシャーは、演技派女優への転身を図るのだが、それも成功しなかった。ビパーシャーが注目を集めるのは常にセクシーさを前面に押し出したときであり、「Raaz 3」でも「Raaz」の頃に回帰したかのようにセクシーさを強調していた。どこか吹っ切れたかのようにも見えるが、今後ビパーシャーはどうなるのであろうか?

 もう一人のヒロイン、サンジャナーを演じたイーシャー・グプターは、2作目ということもあり、デビュー作「Jannat 2」に比べたら余裕のある演技をするようになっていた。ただ、それほど難しい役柄ではなく、ホラーシーンでも怖がっていればいいだけだったので、これをもって評価をすることは難しい。ビパーシャーに比べるとオーラが足りない気もする。名前にもこれと言って特徴がない。有望な若手女優が多いので、埋もれてしまうかもしれない。

 主演男優のイムラーン・ハーシュミーはいつもながら絶妙な演技を見せていた。キャラクター設定がうまく出来ていなくて、彼が演じたアーディティヤの人物像ははっきりしないのだが、そんなハンデもものともせず、イムラーン節で乗り切っていた。誤解を受けることが多い男優であるが、同世代の中ではもっとも柔軟な演技が出来る優れた俳優だと言える。

 音楽はジート・ガーングリー、ミトゥン、ラシード・カーンなど。「Raaz」は音楽も大ヒットした映画だったが、それほどの質を誇る楽曲にはなっていない。唯一「Deewana Kar Raha Hai」がヒットしているようだが、映画中では使われていなかったと思う。

 「Raaz 3」は、ヒンディー語映画を代表するセクシーホラー映画シリーズの第3弾。前作、前々作とのストーリー上のつながりは全くなく、前知識なしで楽しめる。見事なB級映画である。3Dで観なくてもいいだろう。