Rowdy Rathore

2.5

 ヒンディー語映画界では近年南インドで大ヒットしたアクション映画のリメイクが流行しており、その内のいくつかは成功している。そのトレンドを生み出すきっかけになった作品の内のひとつがサルマーン・カーン主演の「Wanted」(2009年)であり、その監督がプラブ・デーヴァであった。

 プラブ・デーヴァと言えば、インド映画界ではその名を知らぬ者がいないほど有名なダンサー、コレオグラファーであり、その軟体動物のような器用な動きから、「インドのマイケル・ジャクソン」の異名を持っている。2005年からは監督業にも進出しており、「Pokkiri」(2007年)やそのリメイク「Wanted」など、いくつかヒット作もある。

 さて、本日(2012年6月1日)公開の「Rowdy Rathore」も、プラブ・デーヴァ監督のヒンディー語映画であり、南インド映画のリメイクである。オリジナルはテルグ語映画「Vikramarkudu」(2006年、SSラージャモウリ監督)で、その後各言語でリメイクされている――カンナダ語映画「Veera Madakari」(2009年、スディープ監督)、タミル語映画「Siruthai」(2011年、シヴァ監督)、ベンガリー語映画「Bikram Singha: The Lion is Back」(2012年、ラージーブ・ビシュワース監督)などである。

 南インド映画リメイクが流行して以来、アーミル・カーン、サルマーン・カーン、アジャイ・デーヴガンなど、ヒンディー語映画界のAクラスの男優たちが南インド的なアクションヒーローを演じて来たが、今回「Rowdy Rathore」で主演を演じるのはアクシャイ・クマール。最近低迷中だった彼も、遂にこのバンドワゴンに乗ることになった。ヒロインは「Dabangg」(2010年)でデビューしたソーナークシー・スィナーで、これが2作目となる。

監督:プラブ・デーヴァ
制作:サンジャイ・リーラー・バンサーリー、ロニー・スクリューワーラー
音楽:サージド・ワージド
歌詞:ファイズ・アンワル、サミール、シラーズ・アハマド、サージド
振付:サロージ・カーン、ヴィシュヌ、ボスコ・シーザー
衣装:ニハーリカー・カーン
出演:アクシャイ・クマール、ソーナークシー・スィナー、ナーサル、ヤシュパール・シャルマー、ダルシャン・ジャリーワーラー、ヴィジャイ(特別出演)、カリーナー・カプール(特別出演)など
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ムンバイー在住のシヴァ(アクシャイ・クマール)は天才的な泥棒で、相棒と共に人々から金品を巻き上げる毎日を送っていた。しかしシヴァは、ビハール州から従姉妹の結婚式に参列するためにムンバイーにやって来た女性パーロー(ソーナークシー・スィナー)と出会い、恋に落ちる。シヴァは正直にパーローに自分が泥棒であると打ち明ける。パーローはそんな彼の正直さを評価し、彼の愛を受け容れる代わりに、明日から泥棒を止めるように言い聞かす。シヴァはそれを承諾し、明日から泥棒稼業から足を洗う代わりに、今日一生分の盗みをすることを決める。

 シヴァは裕福そうな貴婦人から、金目のものが詰まった箱を盗み出す。ところがその中には1人の少女が入っていた。彼女の名前はチンキーと言った。しかもチンキーはシヴァのことを「パパ」と呼んでいた。子供嫌いだったシヴァであるが、仕方なくチンキーを家に連れて帰る。しかしそれを見たパーローはシヴァの娘だと勘違いし、怒ってビハール州に帰って行ってしまう。残されたシヴァは、チンキーの持ち物の中から、父親が写った写真を見つける。なるほど、チンキーの父親はシヴァにそっくりであった。シヴァはチンキーの父親を捜し始める。

 チンキーの父親の名前はヴィクラム・ラートール(アクシャイ・クマール)という名前で、正義感と腕っ節の強い警察官であった。6ヶ月前のこと。ラートールはビハール州デーヴガルの警察署の署長に就任した。デーヴガルはバープジー(ナーサル)というマフィアの支配下に置かれており、警察でさえも立ち向かえなかった。ちょうど地元警察のヴィシャール(ヤシュパール・シャルマー)の妻がバープジーに誘拐され、幽閉されていた。それを聞いたラートールはすぐさまバープジーの邸宅に突撃し、ヴィシャールの妻を助け出すと当時に、彼女を繰り返しレイプし続けたバープジーの息子を逮捕する。バープジーは州大臣とも密通しており、息子はすぐに釈放されてしまうが、ラートールは彼を公衆の面前で辱めようとした息子を逆に高所から落ちさせ、死なせてしまう。

 しかしラートールはその後バープジーの刺客から襲撃を受け、頭部に銃弾を受けてしまう。バープジーはラートールが死んだものと考えるが、ラートールは生きていた。ラートールが生きていることは隠しながら、ヴィシャールはラートールをしばらく地元の医者の下で療養させ、その後ムンバイーに運んで治療を受けさせた。彼はムンバイーでラートールにそっくりのシヴァを見つけ、ラートールの娘チンキーを彼の下に住まわせたのだった。

 ところが、ヴィクラム・ラートールが生きていることを知ったバープジーは刺客をムンバイーに差し向けていた。シヴァはラートールと間違われ、刺客たちに追われる。ところがそれを助けたのがラートール本人であった。ラートールは1人で暴漢たちを打ちのめすが、頭部に受けた傷がまだ癒えておらず、ピンチに陥る。突然雨が降り出したことで頭部が冷え、一瞬だけ正気を取り戻すが、刺客を全て成敗した後に倒れ込み、そのまま帰らぬ人となった。しかし、息を引き取る前にラートールはシヴァに娘を託した。

 シヴァはラートールの意志を引き継ぎ、ラートールになりすましてデーヴガルに乗り込む。デーヴガルではパーローとも再会する。パーローの誤解は解けており、彼女はシヴァとチンキーを受け容れる。

 シヴァはまずバープジーの醸造所を焼き討ちし、穀物庫から穀物を奪い出す。そしてバープジーを棒で叩いてこらしめる。しかしながらバープジーの手下で圧倒的パワーを持った刺客がシヴァに勝負を挑む。彼はパーローとチンキーを誘拐し、シヴァを誘い出す。決闘においてシヴァは刺客とバープジーの両方を殺す。

 インドでは各言語で各様の映画が作られており、それらはそれぞれ長所を持っていると思うし、毎年傑作も生み出していることと思う。しかし、特定の言語と地域でヒットした映画を安易にリメイクして他の言語や地域に持って行っても、必ずしも同様のヒットが望めるとは限らない。何かの間違いでヒットしたとしても、その質は必ずしもヒンディー語映画のスタンダードに見合うものではない。近年、南インド映画のヒンディー語リメイクは概ねヒットしているが、その多くは技術的な面でヒンディー語映画界の一般的な商業映画に劣っている。残念ながらこの「Rowdy Rathore」も、ヒンディー語映画のスタンダードに照らし合わせると、非常に未熟な作品であった。唐突なダンスシーンはまだ許せるとしても、いくつかは非常に退屈で蛇足あった。さらに、主人公のシヴァやラートールをはじめ、キャラクターが立っていないし、特に終盤、ストーリーが飛び飛びになっており、編集のまずさが目立った。昔ながらの文法で映画を作ること自体に問題はない。だが、ヒンディー語映画を過去に引き戻そうとするような試みは止めるべきである。「Rowdy Rathore」は、全く未来を向いていない作品だった。

 それでも、南インド映画のリメイクにありがちな点ではあるが、アクションシーンやダンスシーンの多くの質は良かった。アクションとダンスの合間に、オマケ程度にストーリーが展開するような感じである。不必要だと思ったのは「Dhadhang Dhang」や「Chamak Challo Chel Chabeli」。逆に素晴らしかったのは「Chinta Ta Ta Chita Chita」と「Aa Re Pritam Pyaare」である。プラブ・デーヴァの映画を観ていると、南インド映画界でダンスシーンが高度に発達したのは、プラブ・デーヴァの存在が非常に大きかったのではないかと思えて来る。プラブ・デーヴァは「Chinta Ta Ta Chita Chita」で自ら踊りを踊っているし、多くのダンスシーンでアクシャイ・クマールに南インド的なステップを踏ませている。プラブ・デーヴァのダンスと振り付けの才能についてはいくら書いても書き切れない。他にコメディーの部分もまあまあ受けていた。総じて、各部品については優れたものがある娯楽作品だったと言える。

 数年停滞が続いているアクシャイ・クマールは、この「Rowdy Rathore」でも浮上出来なさそうだ。ただ、彼の演技は悪くなかった。悪いときの彼の演技は非常に大雑把になるのだが、今回はダブルロールをうまく演じ分けていたし、単なるドンチャン騒ぎにもなっていなかった。このまま謙虚な気持ちで真摯に演技をして行けば、また黄金期がやって来るだろう。

 ソーナークシー・スィナーについてはまだ才能を測れない。彼女が演じたパーローは全くキャラクタースケッチがうまく行っておらず、映画を見終わった後も一体どんな女性なのかすらよく分からない。だから今回の彼女が混乱した演技をしていたとしても、彼女のせいとは言えない。しかしながら、終盤、誘拐されたときに見せた啖呵の切り方だけは素晴らしく、この線で今後チャンスを掴んで行けるかもしれない。また、最近の女優にしてはムッチリとした体つきで、監督もそれを知ってか知らずか、彼女の豊満な肉体美をよくカメラで捉えていた。まだこういうふくよかな女性を好む人口はインドには多いと思われるので、その筋にも受けて行くかもしれない。

 また、悪役バープジーはかなり情けない最期を遂げるが、この役を演じたナーサルはタミル語映画界の名優である。他にヤシュパール・シャルマーやダルシャン・ジャリーワーラーなどが出演していた。

 音楽はサージド・ワージド。「Rowdy Rathore」のサントラCD自体はいい曲が揃っているが、前述の通りいくつかの曲においてダンスがうまく伴っていなかった。しかしながらダンスにおいて特筆すべきことは多い。まず、「Chinta Ta Ta Chita Chita」において、プラブ・デーヴァに加えてカリーナー・カプールとヴィジャイがカメオ出演していることである。ヴィジャイはタミル語映画のスターで、「Pokkiri」や「Villu」(2009年)などのプラブ・デーヴァ監督作でも主演を務めている。さらに調子に乗って、アクシャイ・クマール、カリーナー・カプール、プラブ・デーヴァの三人が一緒に踊るシーンや、アクシャイ・クマール、ヴィジャイ、プラブ・デーヴァの3人が一緒に踊るシーンなどがあり、非常に豪華なダンスシーンとなっている。また、「Aa Re Pritam Pyaare」では、マリアム・ザカーリヤー、シャクティ・モーハン、ムマイト・カーンの三人がアイテムガール出演している。マリアム・ザカーリヤーはイラン人とスウェーデン人のハーフで、スウェーデンでボリウッドダンスの学校を経営している他、いくつかのインド映画でアイテムガール出演している。シャクティ・モーハンはインド人コンテンポラリー・ダンサー。TV番組「Dance India Dance」の勝者で、やはり「Tees Maar Khan」(2010年)などでアイテムガール出演している。ムマイト・カーンは米国人とインド人のハーフで、南インド映画界を中心にアイテムガールの長いキャリアを持っている。この三人が揃って踊りを踊る点で、やはり豪華なダンスシーンとなっている。

 劇中ではムンバイーとビハール州の架空の町デーヴガルが舞台となっていたが、撮影の多くはカルナータカ州で行われたと見られる。バンガロール、ハンピ、バーダーミなどの景色が見られた。

 「Rowdy Rathore」は、アクシャイ・クマール起死回生の一作のはずであったが、南インド映画リメイクの悪い部分が出てしまっており、作品の質はヒンディー語映画標準レベルに至っていない。しかしながら、アクションやダンスには見るべきものがあり、何とか映画を救っていた。地方ではもしかしたら受けるかもしれないが、都市部での成功は見込めそうにない。