Dangerous Ishhq 3D

3.5

 2009年に「アバター」がインドでも公開され、センセーションを巻き起こした。それ以降、ヒンディー語映画界でも3D映画がいくつも作られて来ているが、最新式3Dカメラを使って撮影した初の正真正銘3D映画は、ヴィクラム・バット監督の「Haunted 3D」(2011年)であった。他に「Ra.One」(2011年)や「Don 2」(2011年)など3Dを謳っている映画はいくつかあるのだが、これらは通常のカメラで撮影後に3D化しているようで、視覚効果はどうしても劣る。また、テレビにおいても映画においても「3D」が観客に飽きられつつあることもあって、今後はもしかしたら頭打ちになるかもしれない。

 それでも、「Haunted 3D」は、3Dという要素を除いても、ぶっ飛んだ内容でなかなか楽しかった。そのヴィクラム・バット監督が3D第2作目として「Dangerous Ishhq 3D」を送り出して来た。しかも、90年代に活躍した女優カリシュマー・カプールのカムバックという大きな話題もある。カリシュマー・カプールは現在トップ女優の1人カリーナー・カプールの姉で、映画カースト「カプール家」の末裔である。2003年の結婚以降、しばらく銀幕から遠ざかっていたが、夫との離婚騒動など、タブロイド紙には時々登場しており、今回の復帰にも大きな衝撃はない。輪廻転生をテーマにしたインドらしい内容とのことで楽しみであった。「Dangerous Ishhq 3D」は、2012年5月11日に「Ishaqzaade」と共に公開された。

監督:ヴィクラム・バット
制作:BVGフィルムス、ダール・モーション・ピクチャーズ、リライアンス・エンターテイメント
音楽:ヒメーシュ・レーシャミヤー
歌詞:サミール、シャッビール・アハマド
振付:レーカー、チンニー・プラカーシュ
衣装:ニディ・ヤシャー、マニーシュ・マロートラー
出演:カリシュマー・カプール、ラジニーシュ・ドゥッガル、ジミー・シェールギル、ディヴィヤー・ダッター、アーリヤ・バッバル、サミール・コーチャル、ルスラーン・ムムターズ、グレイシー・スィン、ラヴィ・キシャン、ビクラムジート・カンワルパール、ユースフ・フサイン、ガールギー・パテール、ナターシャ・スィナーなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 現代のムンバイー。スーパーモデルのサンジャナー・サクセーナー(カリシュマー・カプール)は、有名実業家タクラール家の御曹司ローハン(ラジニーシュ・ドゥッガル)と恋仲にあった。サンジャナーはパリで大きな仕事のオファーを受け、ローハンを置いてインドを去る予定だったが、空港へ向かう途中嫌な予感を感じ、引き返す。ローハンとサンジャナーは抱き合い、二人は結婚することを決める。ところが、突然覆面をかぶった男たちが押し入り、ローハンは誘拐され、サンジャナーは頭をぶつけて気を失ってしまう。サンジャナーの親友で医者のニートゥー(ディヴィヤー・ダッター)が彼女の治療をする。サンジャナーは意識を取り戻すが、それ以来不思議な幻覚・幻聴を経験するようになる。

 ニートゥーはサンジャナーを精神科医のところへ連れて行く。精神科医は前世の記憶が影響していると考え、彼女に催眠術を掛ける。その中でサンジャナーの意識は1947年のランディー・コータル(現パーキスターン連邦直轄部族地域の都市)へと飛ぶ。このとき彼女はギーター(カリシュマー・カプール)という名前のヒンドゥー教徒女性で、イクバール(ラジニーシュ・ドゥッガル)というイスラーム教徒の恋人がいた。しかし印パ分離独立の混乱でギーターの家族は皆殺しにされてしまう。イクバールは親友アーリフ(アーリヤ・バッバル)にギーターをインドまで送り届けるように頼むが、イクバールと離れ離れになることを恐れたギーターはイクバールの元に戻って来てしまう。イクバールはギーターと結婚しようとするが、アーリフはヒンドゥー教徒との結婚に反対で、イクバールとアーリフの間で争いが起きる。その争いの中でイクバールは命を落としてしまう。その時点でサンジャナーの目は覚める。

 ところで、ローハン誘拐事件はバールガヴ・スィン警視監(ジミー・シェールギル)が担当をしていた。犯人は5億ルピーを要求して来ていた。また、ローハンの両親は、息子がモデルと結婚しようとしていたことに怒っており、サンジャナーを受け容れようとしなかった。だが、サンジャナーは前世の記憶が事件の解決の鍵になると考え、スィン警視監にアーリフの顔を犯人だと伝える。スィン警視監はその似顔絵を全国の警察に送り、指名手配をする。

 再び犯人から連絡があり、ローハンの弟ラーフル(ルスラーン・ムムターズ)が自動車を運転し、父親と共に5億ルピーを運ぶことになった。また、警察の元にタレコミがあり、ローハンの手掛かりが掴めそうだった。スィン警視監はサンジャナーを連れてその場所へ向かう。ところがそれは罠で、爆弾が仕掛けられており、多数の警察官が死んでしまう。また、サンジャナーも巻き込まれ、気を失っている間に、またも意識が前世に飛んだ。

 今度の舞台は1658年のダウラターバード(現マハーラーシュトラ州の観光地)であった。サルマー(カリシュマー・カプール)は、シャージャハーンの後継者争いで出陣することになった兵士アリー(ラジニーシュ・ドゥッガル)と恋仲にあった。アリーは出陣前にサルマーと結婚の約束をする。ところがしばらく経った後に傷だらけの兵士たちが戻って来る。その中にはアリーの親友ラシード(サミール・コーチャル)の姿もあった。サルマーはラシードから、アリーが戦死したという報告を受ける。また、ラシードはアリーの代わりにサルマーと結婚したい旨を伝える。絶望に打ちひしがれるサルマーであったが、ある日サルマーの元を娼婦(ディヴィヤー・ダッター)が訪ねて来る。彼女は、アリーは生きており、ラシードが彼をどこかに幽閉していると伝える。娼館を訪れたラシードが酔っ払って彼女に暴露したのだった。それを聞いたサルマーはラシードの家を訪れるが、そのときとある男がラシードと密談しているのを発見する。どうやらその男がラシードに命令してアリーを幽閉したようだった。サルマーはその男を追い掛けるが、その顔を見た途端、サンジャナーの意識が戻る。

 なんと前世の記憶の中で見たその顔は、ローハンの弟ラーフルであった。サンジャナーはスィン警視監に、ラーフルが誘拐犯の一味であると伝える。スィン警視監は半信半疑であったが、誘拐犯グループのボスの振りをしてラーフルに電話をし、確証を得る。スィン警視監はラーフルをおびき出し、逮捕する。ラーフルは真犯人として実業家MMミッタル(ビクラムジート・カンワルパール)の名前を出す。スィン警視監とサンジャナーはミッタルのオフィスを訪れる。ミッタルはすぐに白状し、謎の男から商談を持ち掛けられてそれに乗ってしまったと答える。スィン警視監はその男をおびき出し、逮捕する。

 逮捕された男がローハンの居場所を白状したため、スィン警視監とサンジャナーはその場所に向かう。ところがそこで発見したローハンは捕縛され、時限爆弾を着させられていた。しかもタイマーは既にあと1分を切っていた。スィン警視監は何とか解除しようと努力するが適わず、サンジャナーを連れて脱出する。爆弾は爆発し、ローハンは死んでしまう。

 ローハンの葬式が執り行われ、サンジャナーは意気消沈していた。ところがまた幻聴が聞こえて来て、彼女の意識は1535年のチットール(現ラージャスターン州の都市)へと飛ぶ。パーロー(カリシュマー・カプール)は王宮に仕える侍女であったが、将軍ドゥルガム(ラヴィ・キシャン)に言い寄られていた。いくら口説いても成功しないことに憤ったドゥルガムは、呪術師マントラー(ナターシャ・スィナー)の家を訪れる。マントラーは呪術を使い、パーローの胸中を水に映し出す。それにより、パーローは将兵ラージダット(ラジニーシュ・ドゥッガル)と結婚を誓い合ったことが分かる。ドゥルガムはラージダットを牢獄にぶち込み、彼の命を助けて欲しかったら自分と結婚するように強要する。困ったサンジャナーは王妃(グレイシー・スィン)に相談する。クリシュナ神の熱心な信徒だった王妃は、何人も愛する2人の魂のつながりを断ち切ることはできないと諭す。そして、クリシュナ神からのご加護により、パーローが死ねばラージダットも死に、ラージダットが死ねばパーローも死ぬこと、また、パーローとラージダットはいつか何度目かに生まれ変わったときに結ばれることなどを運命付けられる。そのご加護を得たパーローは毒を飲む。ドゥルガムはパーローを助けようと彼女をマントラーのところまで運ぶが、マントラーはクリシュナ神からのご加護を得たことを察知し、もうどうすることも出来ないと言う。しかし、ドゥルガムは、自分も何度も生まれ変わってパーローとラージダットの仲を邪魔し、いつかパーローを手にすると誓い、マントラーからの呪術を受けて死ぬ。そもそもこのときの出来事が現代までサンジャナーの人生に影響を与えているのであった。

 意識を取り戻したサンジャナーは全てを理解する。サンジャナーはスィン警視監に連絡し、まだローハンは生きていると伝える。そしてローハンを発見した場所に呼び込む。そこでローハンを探している間、サンジャナーは何者かに銃撃されてしまう。スィン警視監は急いで彼女を病院に運ぶが、サンジャナーは死んでしまう。

 その後、スィン警視監はローハンを殺そうとしていた。なんとスィン警視監が全ての黒幕であり、ドゥルガムの生まれ変わりであった。ローハンを殺せばサンジャナーも死んでしまうことを知っていたスィン警視監は、敢えてローハンを今まで殺さず、何とかサンジャナーを手に入れようとして来たのだった。しかしサンジャナーが死んでしまった今、もうローハンは用無しであった。と、そこへ突然サンジャナーが現れる。そう、サンジャナーはスィン警視監こそがドゥルガムの生まれ変わりであることに気付いていたのだった。彼の左肩には、ドゥルガムの証である痣があったからである。死んだと見せ掛け、スィン警視監を尾行して来たのだった。サンジャナーはスィン警視監に何発も銃弾を撃ち込み、殺す。そしてローハンとようやくの再会を果たす。

 B級映画の鑑。もちろんいい意味で言っている。前世の記憶を頼りに現代で起こった恋人の誘拐事件の謎を解くという、なかなか面白い展開で、それが同時に前世で起こった事件の謎を解く過程にもなっている。しかも、前世がそれぞれインドの実際の歴史をある程度反映したものとなっており、マニアックな読解も可能である。決してB級映画の域を出るような作りではないのだが、これはこれでいいのではないかと思う。カリシュマー・カプールも、カプール家の末裔と言うエリートの出自の割には全盛期B級臭のする映画に好んで出演していたこともあり、彼女の復帰作としては申し分ない作品だったのではないかと思う。

 「Dangerous Ishhq 3D」では、大きく分けて4つの舞台が用意されている。現代(ムンバイー)、1947年(ランディー・コータル)、1658年(ダウラターバード)、1535年(チットール)である。主人公サンジャナーは、前世の記憶を新しい順に思い出して行く。まず登場するのは1947年のシーンである。1947年と言えば、インドに少しでも詳しい人なら誰でもピンと来る数字だ。そう、印パ分離独立の年である。そして舞台はペシャーワル近く、ハイバル峠の町ランディー・コータル。現在ではパーキスターンの連邦直轄部族地域(FATA)に組み込まれている。なぜこの町が舞台に選ばれたのかは分からない。1947年にランディー・コータルで大規模な暴動や虐殺があったのかどうか、少し検索してみたが手掛かりを見つけることは出来なかった。しかしながら、この時代のシーンをサンジャナーが幻覚で見る中で、なぜか習ってもいないのにウルドゥー語を読めることを発見し、それが「前世の記憶」というヒントにつながって行く役割を果たしていた。

 次に登場するのは1658年のダウラターバード。マハーラーシュトラ州の観光地のひとつで、アジャンター・エローラ観光のついでに立ち寄ることが多い遺跡である。デリー・サルタナト朝からムガル朝にかけて、北インドの政権がデカン高原を支配するための拠点として利用した場所だ。1658年の時点では王子時代のアウラングゼーブの管理下にあった。1657年から58年にかけて、皇帝シャージャハーンの4人の息子が後継者争いを繰り広げており、「Dangerous Ishhq 3D」でもその時代背景の中で物語が展開する。

 最後に登場するのは1535年のチットール。ラージャスターン州の古都で、チットールガルと呼ばれる巨大な城塞跡が残っている。この時代は、1568年にアクバルによって陥落させられる前になり、チットールはラージプートの一派メーワール王国の支配下にあった。そしてこの時代のチットールでは、ヒンディー語文学史上とても重要な女流詩人ミーラーバーイーが王宮内で活躍していたとされている。「Dangerous Ishhq 3D」でもクリシュナ神に帰依した王妃が登場するが、それこそがミーラーバーイーである。そして、そもそもこの時代の出来事がその後――1658年、1947年、そして現代――の事件の発端となっているのである。

 発端はこうである。将軍ドゥルガムは侍女パーローに恋していたが、パーローは将兵ラージダットと婚約していた。ドゥルガムはラージダットを幽閉してパーローと無理矢理結婚しようとする。ところがパーローはクリシュナ神に帰依する王妃の助けを借り、何度も生まれ変わって、来世のいつかにラージダットと結ばれる運命を得る。それを知ったドゥルガムは呪術師マントラーの呪術により、彼も何度も生まれ変わって、パーローとラージダットの仲を邪魔し、いつか彼女を手に入れようとする。ここでポイントとなるのは、ラージダットとパーローの命は一心同体で、どちらかが死ねばもう一方も死んでしまうこと、そしてラージダットとパーローの記憶は生まれ変わるごとに消えてしまうが、ドゥルガムの記憶は残ること、そしてドゥルガムの姿は生まれ変わるごとに変わることである。これが伏線となって、現代の事件につながって行く。

 ヴィクラム・バット監督は「Raaz」(2002年)などの大ヒット作もあるが、基本的にB級テイストの軽いヒット作をコンスタントに飛ばしているイメージだ。特にホラーやサスペンスの味付けがうまく、いかにもインド映画と言った土臭さ、ダサさを残している。わざとやっているのか、自然にそうなってしまうのか、それは不明であるが、それは彼の持ち味と言っていいだろう。「Dangerous Ishhq 3D」もインド映画、ヴィクラム・バット映画の王道を行っており、見ていると何だか安心する。すっかり変わってしまった街並みの中で、昔ながらの店舗を発見したような安心感だ。

 ただ、わざわざ3Dにする必要性は感じなかった。「Haunted 3D」では3D効果は恐怖シーンをより迫力あるものにしていたが、この「Dangerous Ishhq 3D」にはストーリーに十分観客を引き込む力があり、3Dは全くの蛇足であった。ところどころで客席に破片が向かって来ることがあるが、それが何か特別な効果をもたらしているとは言えなかった。

 カリシュマー・カプールにとって「Dangerous Ishhq 3D」は復帰作として申し分なかったかもしれないが、「Dangerous Ishhq 3D」にとってカリシュマー・カプールの起用は大きなプラスにはなっていなかった。特にカリシュマーの年代の女優が演じるべき役柄でもなく、もっと若い女優を起用しても良かっただろう。しかし彼女の演技は変わっておらず、37歳という年齢もあまり感じさせない。今度は是非もっと地に足の付いた役を演じて欲しいものだ。

 B級映画っぽい作りながら、キャストの数は多く、その内の何人かは個性的な演技派俳優である。筆頭はジミー・シェールギルだ。いつの間にかシリアスな演技が板に付いており、今回も素晴らしい存在感。おまけに最終的な黒幕というおいしい役である。名脇役女優ディヴィヤー・ダッターも大活躍であったし、ラヴィ・キシャンが演じるドゥルガムも素晴らしかった。一方、一応ラジニーシュ・ドゥッガルがカリシュマーに次ぐ主役ということになるだろうが、彼の存在感は薄かった。ヴィクラム・バット監督「1920」(2008年)でデビューして以来、なかなかいい役に恵まれていない。特に中世のシーンで浮いてしまっていた。

 サプライズ出演はグレイシー・スィンである。「Lagaan」(2001年)や「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)の頃には一線で活躍していたが、その後はあまりパッとしない。「Dangerous Ishhq 3D」の中で久し振りに見た彼女はだいぶ太ってしまっており、残念だった。だが、ミーラーバーイーをモデルにした王妃役ということで、ストーリー展開上非常に重要な役を担っていた。

 音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。古風な作りの映画だけあって古風な音楽が多かったが、どれも印象に残るほどの力はなかった。

 割と面白かったのは言語で、それぞれのシーンに適した言語が使われていた。ムンバイーのシーンではもちろん普通に標準ヒンディー語が使われるが、1947年のシーンではパンジャービー語とウルドゥー語、1658年のシーンではウルドゥー語、1535年のシーンではラージャスターニー語が使用されていた。また、ロケ地の特定をするのも面白いと思うが、ジョードプルのメヘランガル以外で自信を持って断定できる場所はない。メヘランガルは1658年のシーンで使われていた。

 「Dangerous Ishhq」は、B級映画の王者ヴィクラム・バット監督が送る3D映画第2弾。輪廻転生の概念やインドの歴史をうまくサスペンスに組み込んでおり、ただのB級映画ではない。カリシュマー・カプールの復帰作としても話題性がある。「Ishaqzaade」の影に隠れてしまっているが、実は意外に楽しい作品である。オススメだ。