Housefull 2

3.0
Housefull 2
「Housefull 2」

 ヒンディー語映画界は続編熱に冒されてしまったようだ。元々続編映画の習慣がなかったインド映画界であるが、21世紀に入り、「Munna Bhai」シリーズ、「Don」シリーズ、「Golmaal」シリーズなど、様々な映画がシリーズ化され、続編が公開されている。もちろん「二匹目のドジョウ」は必ずしも見つかるものではなく、前作がヒットしてもその続編は無残な失敗に終わることも多い。ただ、ヒンディー語映画の続編映画で面白いのは、必ずしもストーリー上のつながりを重視して続編が作られる訳ではないことだ。前作とは全く独立したストーリーで、主人公だけが共通していることもあるし、時には前作と全く何の脈絡もない映画が「続編」として公開されることもある。その辺りは面白い現象だと言える。

 本日(2012年4月6日)より公開の「Housefull 2」は、その名の通り、「Housefull」(2010年)の続編である。ただしこの作品もストーリーやキャラクターが前作と関連がある訳ではない。敢えて共通点を探すならば、コメディー映画というジャンル、そして豪邸に複数のカップルが滞在しハチャメチャな騒動を起こすというプロットである。また、キャストやクルーにも共通した人物が何人か見受けられる。

 前作、今作共に監督はサージド・カーン。「Heyy Babyy」(2007年)や「Housefull」のコメディー映画で知られる監督で、コレオグラファー兼映画監督ファラー・カーンの弟である。プロデューサーも同様に前作から引き続きサージド・ナーディヤードワーラーだ。また、キャストではアクシャイ・クマール、リテーシュ・デーシュムク、ボーマン・イーラーニー、ランディール・カプール、チャンキー・パーンデーイなどが共通している。ボーマン・イーラーニーとチャンキー・パーンデーイの役名だけが前作と共通しているが、前作との直接のつながりはないと考えていいだろう。ヒロインの面では、前作では人気絶頂のディーピカー・パードゥコーンがいたが、今作では人気・実力共にまだ二流・三流の女優ばかりだ。その代わりシニア陣のキャストが強化された印象で、ミトゥン・チャクラボルティーやリシ・カプールが出演している。

監督:サージド・カーン
制作:サージド・ナーディヤードワーラー
音楽:サージド・ワージド
歌詞:サミール
振付:ファラー・カーン
衣装:アキ・ナルラー、シャームリー
出演:アクシャイ・クマール、ジョン・アブラハム、リテーシュ・デーシュムク、アシン、ジャクリン・フェルナンデス、リシ・カプール、ランディール・カプール、ミトゥン・チャクラボルティー、シュレーヤス・タルパデー、ザリーン・カーン、シャザーン・パダムスィー、ジョニー・リーヴァル、チャンキー・パーンデーイ、ボーマン・イーラーニー、マラーイカー・アローラー・カーン、ランジート
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ロンドン在住の実業家兄弟チントゥー・カプール(リシ・カプール)とダッブー・カプール(ランディール・カプール)は血を分けた兄弟でありながら犬猿の仲であった。チントゥーは正妻の子であったが、不義の子であるダッブーより年下だった。二人の妻同士の仲も悪く、チントゥーの娘ヒーナー(アシン)とダッブーの娘ボビー(ジャクリン・フェルナンデス)も喧嘩ばかりしていた。

 あるときチントゥーとダッブーは毎度のように喧嘩をし、娘を英国一の大富豪と結婚させると宣言してしまう。そこでチントゥーとダッブーは別々に、怪しげな結婚斡旋業者アーキリー・パスタ(チャンキー・パーンデーイ)に花婿捜しを依頼する。アーキリー・パスタはチントゥーに、写真家ジャイ(シュレーヤス・タルパデー)を紹介する。ジャイはお見合いには参加せず、両親だけがチントゥーと会う。ジャイにはパールル(シャザーン・パダムスィー)という恋人がいたが、父親の言うことに従うことにする。ところがチントゥーが誤解からジャイの父親を罵倒し、それがきっかけで元々心臓に病を抱えていた父親が卒倒してしまう。それを知ったジャイはチントゥーに復讐することを誓う。

 チントゥーは自分の娘の花婿候補として、英国を拠点とするインド系大富豪の名前を挙げていた。その中の一人がJD(ミトゥン・チャクラボルティー)であった。偶然、JDの一人息子ジョリー(リテーシュ・デーシュムク)はジャイの学生時代の親友だった。ジャイはジョリーにチントゥーの娘と婚約を結ばせ、結婚式の日に破談させてチントゥーに心臓発作を起こさせてやろうと計画する。ところがジョリーは父親の前では萎縮してしまう気弱な男だった。ジョリーは恋人ジェイロー(ザリーン・カーン)を父親に紹介しようとしていたが、JDは息子を幼年時代の親友バトゥク・パテール(ボーマン・イーラーニー)の娘と結婚させる約束をしており、決して認めてくれそうになかった。ただでさえJDに何も言えなかったジョリーは、ジャイの大それた計画への協力を断る。しかし代わりにアイデアを出す。チントゥーはJDの息子の顔を見たことがないのだから、誰か他の人をジョリーに仕立て上げてチントゥーに紹介し、計画を実行すればいい。その計画のために選ばれたのが、二人の大学時代の先輩マックス(ジョン・アブラハム)であった。凄腕のスリとして悪名高いマックスは多額の報酬と引き替えにその仕事を引き受ける。

 マックスはジョリーになりすましてカプール家へ行く。念のためにジャイが運転手としてマックスに連れ添った。ところが間違えてダッブーの家に入ってしまう。すっかり騙されたダッブーはマックスを大歓迎し、娘のボビーと引き合わせる。とんとん拍子で縁談が決まり、マックスはダッブーの家にしばらく滞在することになる。

 間違えた家に行ってしまったことに気付いたジャイは、チントゥーへの復讐を果たすために、もう一人別のジョリーを用意しなくてはならなくなった。そこで次に抜擢したのがサニー(アクシャイ・クマール)であった。サニーもジャイとジョリーの大学時代の先輩であった。元々サニーとマックスは親友だったのだが、誤解から仲違いし、以後天敵となっていた。なるべくマックスと引き合わせないようにしながらサニーをジョリーとしてチントゥーの家へ送り込む。やはり念のためにジョリーがボディーガードとしてサニーに同行する。チントゥーもサニーを大歓迎し、娘のヒーナーと引き合わせ、あれよあれよと言う間に縁談がまとまり、サニーもしばらくチントゥーの家に居候することになる。

 しかしチントゥーとダッブーは隣同士で、すぐにサニーとマックスは顔を合わせてしまう。また、サニー、ヒーナー、マックス、ボビーの四人はたまたま同時にクルーズ船に乗り込み、ひょんなことから救命ボートに乗ったまま流され、無人島に漂着してしまう。ところがこのときの極限状態のおかげでサニーとマックスは仲直りし、ヒーナーとボビーもいがみ合いを止める。さらに、サニーとヒーナー、マックスとボビーは恋仲となる。

 ある日チントゥーはJDに挨拶するためにサニー、ジョリー、ヒーナーを連れてJDの邸宅へ行ってしまう。JDはジョリーとヒーナーが結婚するものと勘違いするが、サニーが機転を利かせて数日の内に二人の仲を裂くことを約束する。チントゥー、サニー、ジョリー、ヒーナーの四人はJDの家に滞在することになる。しかし執事のヴィシュワース・パーティール(ジョニー・リーヴァル)は異変を察知していた。

 その後、今度はダッブーがマックスとボビーを連れてJDの邸宅まで来てしまう。やはりこのときもサニーが機転を利かせ、JDを騙すことに成功する。ダッブー、マックス、ボビーもJDの家に滞在することになる。また、チントゥーとダッブーは顔を合わせるが、チントゥーはマックスのことをJDの不義の子だと理解し、ダッブーはサニーをJDの不義の子だと理解したことで、何とか丸く収まる。

 しかしながら今度はジョリーの恋人ジェイローがジョリーに対し、父親と会わせることを強く要求して来た。そこでまたサニーがJDに適当なことを吹き込み、ジェイローもJDの邸宅にしばらく滞在できることとなった。

 ところで、実はJDは元々マハーラーシュトラ州ガンガープルの盗賊で、本名はジャッガー・ダークーであった。しかし幼馴染みの警官バトゥクの勧告に従って自首し、14年間の刑期を終えた後、英国に渡って実業家として成功したのだった。自首する際、JDとバトゥクはそれぞれ息子と娘を年頃になったら結婚させる約束をしていた。そのバトゥクからJDのところへ電話が掛かって来る。バトゥクはかつての約束を履行しに娘を連れてロンドンへやって来るところだった。ここでもサニーが入れ知恵をし、別人をジョリーとして空港まで迎えによこすことを提案する。それに抜擢されたのがジャイであった。ところが顔を合わせて見ると、バトゥクの娘は他でもない元恋人のパールルであった。バトゥクはジャイのことをジョリーだと考え、娘を彼と結婚させようとする。バトゥクとパールルもまたJDの邸宅に滞在することになる。

 これにて、4組のカップルとその四人の父親がひとつ屋根の下に集うこととなった。しかし父親たちは皆ジョリーを誤解しており、自分の娘を結婚させようとしていた。非常に混迷極まる状況になってしまったが、話を簡単にするために、とりあえずJDとバトゥクの離間工作をすることにし、アナールカリー(マラーイカー・アローラー・カーン)という踊り子を使ってJDとバトゥクの仲を割く。バトゥクはJDに憤慨し、パールルを連れて出て行ってしまう。JDは予定通りジョリーをヒーナーと結婚させると宣言する。

 結婚式が行われようとしていた。しかしサニーは父親ランジート(ランジート)に、女性の心を弄ぶのは良くないと忠告され改心する。マックスも同様に心を入れ替える。サニーはヒーナーに、マックスはボビーに、自分がジョリーではないこと、今まで騙し続けて来たことなどを告白する。最初は怒ってビンタした二人だったが、後で二人を許し、サニーとヒーナー、マックスとボビーは真のカップルとなる。

 残る問題はJD、チントゥー、ダッブーだけであった。しかし大して手を打つことも出来ずに挙式を迎える。4組の結婚式はJDの邸宅で同時に行われ、チャールズ皇太子まで出席する。またバトゥクもパールルの結婚を止めるためにやって来る。やはりジョリーの正体を多くの人々の前で同時に隠し通すことは出来ず、サニー、マックス、ジャイがジョリーではないことがばれてしまう。憤ったチントゥーとダッブーはそれぞれヒーナーとボビーを連れて退出しようとするが、二人とも娘たちに説教され心を入れ替える。そしてチントゥーとダッブーは仲直りをする。しかしJDの怒りだけは収まらなかった。ジャッガー・ダークーとなって現れ、散弾銃をぶっ放し始める。しかしサニーが落ちて来るシャンデリアの下敷きになりそうになったJDを命がけで救ったことでJDの怒りも収まり、晴れて4組の結婚式が行われることになる。

 インド映画が得意とする大人数型ハチャメチャ・コメディー映画であった。コメディー映画なので脳みそを空にして楽しみたいのだが、大量の登場人物が登場し、真贋入り交じったアイデンティティーや人間関係が築かれて行く。名前を覚えるだけで一苦労だが、その上用意された笑いをフルに笑うためには、各登場人物の立ち位置を理解し、複雑に入り交じった人間関係を覚えなければならず、かなり頭を使う。ヒンディー語映画をコンスタントに見て各俳優の顔に慣れ親しんでいないと、さらにそれらを追うのが困難になるだろう。また、ストーリーそのものは非常にしょうもないもので、結末もお粗末である。しかしながら、それらを差し引いても笑えるポイントはいくつもあり、コメディー映画の最大の目的である「とにかく観客を笑わせる」ことは達成出来ていた。

 前作「Housefull」の醍醐味は、ひとつ屋根の下で、複数のカップルが複数のアイデンティティーを使い分けて目上の人を騙す点にあり、「Housefull 2」でもそれは踏襲されていた。バトゥク・パテールやアーキリー・パスタと言った脇役が共通していた他、英国皇室がオチの場面で登場する点も同じであった。しかしながら、「Housefull」では笑気ガスで無理矢理落ちを付けてしまったきらいがあったのだが、この「Housefull 2」ではそれよりもより陳腐な方法でエンディングとしていた点はパワーダウンだと言える。アクシャイ・クマール演じるサニーがあまりにアイデアマンで、どんなピンチに陥っても彼が何とかしてしまうだろうという妙な安心感があったため、前作にあったスリルも薄くなっていた。

 しかし、ひとつひとつのギャグはパワーアップしていた。アクシャイ・クマール演じるサニーの「エ~イ」という癖、チャンキー・パーンデーイ演じるアーキリー・パスタの暴走振り、ジョニー・リーヴァル演じる執事の突飛な行動など、細かい部分で笑わせてくれた。そしてキャスティングが絶妙だった。アクシャイ・クマールとジョン・アブラハムは「Desi Boyz」(2011年)で息の合った共演をしたばかりで、二人も筋肉質でスクリーン上の相性も良い。リシ・カプールとランディール・カプールは二人とも伝説的名優ラージ・カプールの息子で兄弟であるし、リテーシュ・デーシュムクとシュレーヤス・タルパデーも何となく雰囲気がよく似ている。女優にこれと言って強力なカリスマ性がなかったのが残念だが、その中でもアシンは頑張っていた。また、サニーの父親として往年の名優ランジートが出演していたのが特筆すべきだ。アクシャイ・クマールが今回繰り返していた言動はランジートを手本にしている。

 音楽はサージド・ワージド。前作のシャンカル・エヘサーン・ロイからバトンタッチしているため、音作りは変わっているが、「Papa Toh Band Bajaye」などは前作の「Papa Jag Jayega」を意識していると思われる。また、最近ネオ・ムジュラーとでも呼ぶべきディスコナンバーがトレンドで、「Agent Vinod」(2012年)の「Dil Mera Muft Ka」がその一例であるが、本作の「Anarkali Disco Chali」もその流れを汲んでいた。主にマラーイカー・アローラー・カーンが妖艶なダンスを踊る。

 基本的にはヒンディー語映画であったが、ミトゥン・チャクラボルティー演じるJDやジョニー・リーヴァル演じるヴィシュワース・パーティールなどがマラーターという設定で、マラーティー語の台詞が頻繁に登場した。

 「Housefull 2」は、前作「Housefull」とは直接ストーリーやキャラクターのつながりがある続編ではないが、ひとつ屋根の下で繰り広げられる大人数型ハチャメチャ・コメディーという点では共通している。アクシャイ・クマールとジョン・アブラハム、リシ・カプールとランディール・カプール、リテーシュ・デーシュムクとシュレーヤス・タルパデーなど、相性のいい俳優を組み合わせてあり、笑いも力が入っている。ストーリー自体はしょうもなく、特に何が残る訳でもなく、詰めも甘い。その癖筋を追うためにかなり頭を働かさなければならないが、娯楽映画としてはまあまあの出来だと言える。