Don 2

3.0

 2006年のヒット作の一本「Don」の続編「Don 2」が、クリスマス・ウィークの始まりである本日(2011年12月23日)公開となった。ドンを名乗るギャングスターを主人公とした映画「Don」は、元々1978年公開のアミターブ・バッチャン主演作「Don」のリメイクであったが、完全にオリジナルのストーリーラインをなぞった作品ではなく、オリジナル作を知っている人にとっても驚愕のラストが用意されている。つまり、オリジナル作ではドンは物語の序盤で死んでしまうのだが、リメイク作では死なず、生きながらえる。「Don 2」は、生きながらえたドンの5年後を描いた作品である。前作と同じく監督はファルハーン・アクタル。キャストもドンを含めほとんど変わらないが、前作でドンの恋人アニターをイーシャー・コッピカルが演じたのに対し、本作ではドンの恋人はアーイシャーとなっており、ラーラー・ダッターが演じている。特に前作までのあらすじや前作を観ていない人のための配慮のようなものはなく、「Don」を観ていないと多少ストーリーに入って行きにくいところもあるだろう。また、2Dに加えて3Dでの上映も行われている。

監督:ファルハーン・アクタル
制作:リテーシュ・スィドワーニー、シャールク・カーン、ファルハーン・アクタル
音楽:シャンカル・エヘサーン・ロイ
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント
衣装:ジャイマール・オーデードラー
出演:シャールク・カーン、プリヤンカー・チョープラー、ボーマン・イーラーニー、オーム・プリー、クナール・カプール、アリー・カーン、ナワーブ・シャー、サーヒル・シュロフ、フロリアン・ルーカス、ラーラー・ダッター(特別出演)、リティク・ローシャン(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞、3D。

 アジアのアンダーワールドを支配するドン(シャールク・カーン)は、ヨーロッパ進出を計画していた。ところがヨーロッパのアンダーワールドを支配していた欧州マフィアたちはドン暗殺を企てる。これは失敗に終わるものの、ドンは今までとは違った作戦を採り始める。

 一方マレーシアの国際警察に勤務していたローマー(プリヤンカー・チョープラー)は、上司マリク(オーム・プリー)が引退することを聞き、意気消沈する。マリクもローマーもこの5年間ドンを追って来たが捕まえられなかった。そこへ突然ドンが現れ自首する。ドンは自分に掛けられている容疑を全て撤回するように要求する。マリクがそれを聞き入れる訳もなく、ドンは死刑を宣告され、刑務所へ送られる。

 その刑務所では、ドンのせいで逮捕されたワルダーン(ボーマン・イーラーニー)も収容されていた。ワルダーンはドンを殺そうとするが、逆にドンはワルダーンに、共に仕事をするように説得する。ワルダーンは渋々それを受け容れ、ドンとワルダーンは共に脱獄する。脱獄した二人を、ドンの恋人アーイシャー(ラーラー・ダッター)が待っていた。

 ドンのターゲットはドイツ中央銀行ベルリン本店が持つユーロ紙幣の原盤であった。まずドンはドイツ中央銀行総裁の就任にまつわるスキャンダルの証拠を収めたテープを手に入れようとする。本当は別の人物が総裁に就任する予定だったが、現総裁がスィンガーニヤー(前作で殺害された)に依頼して暗殺させたのだった。暗殺を依頼する場面を捉えたテープがあり、それはチューリッヒの金庫に収められていた。ドンとワルダーンはまずそのテープを手に入れる。

 次に、ドンは副総裁JKディワン(アリー・カーン)を通じ揺さぶりをかける。ディワンもその暗殺に荷担した人物で、しかもインド系だった。ディワンは表向きドンの要求を聞き入れながら密かに殺し屋ジャッバール(ナワーブ・シャー)にドン暗殺を依頼する。ところがドンはジャッバールを返り討ちにし、しかも3倍の金を出してジャッバールを味方に引き入れてしまう。また、ディワンにはペナルティーとしてさらなる課題を課す。

 ドイツ中央銀行の厳重に警備された金庫からユーロ紙幣原盤を盗み出すには天才ハッカーの助けが必要だった。ドンはサミール・アリー(クナール・カプール)に声を掛ける。サミールはかつて東京証券取引所をハックしたことがあったが、現在では犯罪から足を洗っていた。しかしながらドンは彼を無理に仲間に入れる。

 周到な準備期間を経た後、ドン、ワルダーン、ジャッバール、サミールのチームはドイツ中央銀行に潜入する。ドンはディワンの自動車に乗って銀行内に潜り込む一方、ワルダーンは国際警察に扮し幹部と会談。ジャッバールは消防士のコスチュームを着て待機し、サミールは銀行のシステムにハッキングして遠隔操作する。ところが、ドンとワルダーンの動きを捉えたマリクとローマーもベルリンに来ており、ドイツ中央銀行のディワンに会いに来ていた。

 まずドンは銀行内部で爆発を起こす。消防士に扮したジャッバールは手下と共に銀行内に入り、数十人の行員を人質に取る。そのときマリクとローマーは外に出ていた。ドンはローマーに電話し、爆発物を銀行周囲に仕掛けたと脅しを入れる。銀行を取り囲んだ警察は手出しが出来なくなった。警察の動きを封じたドンはやすやすとユーロ紙幣原盤を盗み出す。ところがワルダーンとジャッバールは元からドンを信用しておらず、ユーロ紙幣原盤を手に入れた途端にドンに銃を向ける。しかしタイミングよくサミールが電灯を消したため、ドンは姿をくらますことが出来た。

 ドンはあらかじめアーイシャーを使って銀行に届けていた荷物から必要な道具を取り出し、地下水路を通って脱出する。一方、ワルダーンとジャッバールはマリクに電話をし、人質を盾に、すぐにヘリコプターを用意するように要求する。また、サミールもドンを裏切って警察に電話をし、ドンの居場所を伝える。マリクやローマーを初めとした警察はドンを逮捕する。しかしながら彼らは人質を救出しなければならず、ドンの脱出ルートを使って銀行に潜入することを余儀なくされていた。よってドンはすぐに解放され、警察を連れて再び銀行に潜入することになった。この作戦にはローマーも付いて来ることになった。

 銀行に再潜入したドンはローマーと共にワルダーンとジャッバールが待つ場所まで行く。そこでワルダーンはローマーに対し、3つ数える内にドンを殺すように命令する。ローマーは引き金を引けなかった。よってローマーはジャッバールに撃たれてしまう。ドンも殺されそうになるが、絶好のタイミングで小爆発を起こし、その隙を突いて形勢逆転する。ドンはジャッバールを殺し、ワルダーンを気絶させた。そして、自分の容疑を全て撤回する書類と引き替えに人質を解放した。

 ディワンはユーロ紙幣原盤を受け取るが、彼の自動車には爆弾が仕掛けられており、ディワンは爆死、ユーロ紙幣原盤も溶けてしまう。しかしながら、それはドンが用意した偽物だった。本物は予め小包に詰めて銀行からサミールの住所に送っていた。実はサミールの裏切りはドンの指示によるもので、実際にはずっとドンの指示通り動いていた。サミールはユーロ紙幣原盤を受け取り、ドンに渡す。また、ドンの置き土産のせいでドイツ中央銀行総裁のスキャンダルも暴かれ、欧州マフィアたちも一網打尽となる。

 1978年の「Don」は、ドンそっくりの男が、警察の依頼を受けて、死んだドンになりすましてドンの組織に潜入するという物語だった。2006年の「Don」はその裏をかき、ドンそっくりの男がドンになりすまそうとしているのをドンが知り、その男を密かに殺してドンは死んだことにし、ドン自身がその男になりすまして警察の協力をする振りをするという物語であった。ややこしいストーリーではあるが、前作に慣れ親しんだ観客の固定概念をうまく利用してどんでん返しの起爆剤とし、新たなストーリーを構築するという、リメイク映画の新しい方向性を打ち出した作品で、アクションスリラーとしての出来も悪くなかった。

 しかしながら「Don 2」では、オリジナル「Don」の縛りから解放されたことでかえって方向性を失ってしまったように感じた。ドンは単なる大泥棒に落ち、劇中ではいかに不可能な盗みを可能とするかを追うだけであった。その流れはまるで「ミッション:インポッシブル」シリーズのようだった。もちろんどんでん返しは用意されている。サミールの存在がそれだ。観客はてっきりサミールがドンを裏切ったものだと感じるが、最後の最後で実はサミールの裏切りですらドンの計画内だったことが分かる。また、ドンの真の目的はユーロ紙幣原盤と言うよりも、自身に掛けられた数々の容疑を帳消しにすることであった。これもエンディングで明かされることだ。しかし、前作のどんでん返しのような衝撃はなかった。普通に考えたら前作を越えるようなどんでん返しは用意できないだろう。なぜならそれはリメイク映画の常識を覆す種類のもので、リメイク映画ではない本作ではそのような衝撃は生み出せないのである。ならばなぜ続編を作ったのか、という問いにつながる。それがこの映画の評価そのものでもある。

 確信と共に言えるが、ファルハーン・アクタル監督は「Don」をこのままシリーズ化しようとしているのだろう。ドンのキャラクターは十分魅力的で、彼を中心に今後何作も映画を作ることは可能かもしれない。前作から登場するドンを巡るキャラクター――ローマー、マリク、ワルダーンなど――も今回敢えて死なせておらず、次回作につなげて行こうという意気込みが感じられる。だが、「どんでん返し」を映画の中心に据えてしまっていることで、今後の作品作りはさらに困難となるだろう。観客を何度も何度も驚かせることはそう容易なことではない。もはや観客はどんでん返しを身構えるようになっている。そういう「Don 2」の姿勢を見ると、Mナイト・シャーマーラン監督を思い出す。「シックス・センス」(1999年)での「衝撃のラスト」で名を上げたインド系映画監督だが、その後毎回「衝撃のラスト」を期待されるようになってしまい、それだけが持ち味のようになってしまった。「Don」がもしシリーズ化されるのであれば、同じ轍を踏む恐れがある。

 ハリウッド的映画作りには成功していたと思う。主に東南アジアとヨーロッパを舞台としたスケールの大きな作品で、カーチェイス、銃撃戦、肉弾戦など、迫力のあるアクションシーンが目白押しだった。ただ、「ミッション:インポッシブル」(1996年)の有名な宙づりシーンを彷彿とさせるシーンもあるが、緊迫感には全く欠けた。盗み出す緊張感はこの映画にはなく、あくまでドンの緻密な計画とアクションを楽しむ映画に留まっている。

 主な舞台はドイツである。どうやらドイツは映画ロケ地としては許可取得が困難な国のようで、今までドイツを舞台にした外国映画はほとんど存在しない。ドイツ・ロケの映画に主演した国際的男優は今のところトム・クルーズとブラッド・ピットしかおらず、シャールク・カーンは3人目だと言う。ドイツではインド映画が人気で、シャールク・カーンも絶大な人気を誇っていると聞く。その人気と名声が今回ロケ許可取得に大きく貢献したようだ。

 ドンとローマーの関係は映画の隠し味である。前作を思い出すと、ローマーはドンに殺されたカーミニー(カリーナー・カプールが演じた)の妹で、ドンに復讐するためにドンの組織に入り込んだのだった。ドンはローマーに「ジャングリー・ビッリー(野生猫)」のあだ名を付けられるが、この言葉がエンディングにおいて、死んだはずのドンが生きていたことを示すキーワードとなっていた。「Don 2」においてもこの「ジャングリー・ビッリー」は事あるごとに繰り返される。前作から5年後の本作においてローマーはインターポールの捜査官としてマリクの下で働いている。ローマーは相変わらずドンを追い続けており、今回ドンを殺すチャンスも与えられる。しかし彼女は引き金を引くことが出来なかった。ローマーはドンに恋してしまっていたのか?ローマーは決してそれを認めないが、ドンはそのことについて何度もからかう。結局「Don 2」でも二人の仲が進展することはなかった。おそらく今後続編が作られて行くのなら、容疑を帳消しにすることに成功し、「フリーな男」となったドンとローマーの関係が縦軸となって行くのだろう。

 シャールク・カーンが演じるドンのキャラクターからは、はっきり言ってあまり迫力を感じない。世界を股に掛けるギャングという感じがしないのだ。わざとやっているのか知らないが、しゃべり方も弱々しい。今回は盗みを計画するときの、あ~でもないこ~でもないと悩むシーンもあって、神出鬼没さが失われていた。そもそも「Don 2」を見て、ドンはマフィアのボスなのか泥棒なのか、一体どういう存在なのかよく分からなくなってしまった。シャールク・カーンの出演作の中では、演技力に難が見られた作品に数えられることになるだろう。

 ヒロインのプリヤンカー・チョープラーは平均的であった。悪くはなかったが、もうひとつ個性を加えられると良かったと思う。前作では格闘技のトレーニングを受けて撮影に臨んだが、今回彼女が格闘技の腕を披露するシーンは非常に短かった。ラーラー・ダッターは特別出演の扱いになっている。「Zaraa Dil Ko Thaam Lo」でダンサーとして登場するが、その後も脇役程度の出演機会はあった。

 むしろサプライズの特別出演はリティク・ローシャンだ。物語の序盤において、ドイツ中央銀行副総裁JKディワンを主賓としたダンスパーティーにドンが参加するのだが、そのときリティク・ローシャンの姿になっている。ここでプリヤンカー・チョープラーとチークダンスを踊るのだが、もしかしたらシャールク・カーンでは身長が足らなかったりしたのだろうか、と邪推してしまう。かなり唐突な起用であった。

 本作からクナール・カプールが出演している。天才ハッカー、サミール・アリー役である。彼の存在が本作のどんでん返しの仕掛けとなっており、非常に重要な役であったが、彼には荷が重すぎたと言わざるを得ない。「Rang De Basanti」(2006年)の頃はフレッシュさがあって良かったが、あれから全く成長していない。

 他にボーマン・イーラーニー、オーム・プリーなどが脇役出演していた。今回注目なのはジャッバールを演じたナワーブ・シャー。少なくとも2000年から映画に出演しているが今まで全くノーチェックだった。しかし「Don 2」での存在感はベテラン脇役俳優ボーマン・イーラーニーに比べても遜色なく、今後出演機会が増えそうだ。

 音楽は前作に続きシャンカル・エヘサーン・ロイ。前作ではオリジナル作の曲をベースにした「Yeh Mera Dil」や「Khaike Paan Banaraswala」に加え、テーマソング「Main Hoon Don」などのオリジナル曲を混ぜた構成になっていた。「Don」の曲は今でも時々耳にすることがあるくらいヒットした。しかし「Don 2」はいまいち魅力に欠ける。音楽主体の映画でなかったこともその一因であろう。

 ちなみに、映画の出来とは直接ないが、「Don 2」公開のタイミングはあまり良くなった。まずは1週間前に「ミッション:インポッシブル」シリーズの最新作「ゴースト・プロトコル」が公開されている。「Don 2」と似たようなジャンルのハリウッド映画であり、どうしても比べられてしまうだろう。もっとも、僕は「ゴースト・プロトコル」の方は見ていないために比較は出来ない。また、現在ユーロ安が進んでおり、ユーロ紙幣原盤を盗むという「Don 2」のプロットそのものが何となく白け気味だ。ちなみにユーロ紙幣を発行する権限を持っているのはフランクフルトにある欧州中央銀行であり、劇中に登場するベルリンのドイツ中央銀行は架空の組織である。

 「Don 2」は、2006年のシャールク・カーン主演ヒット作「Don」の続編。前作に引き続きアクションスリラーとなっているが、リメイク作への先入観をうまく利用してどんでん返しに持って行った前作に比べ、個性に欠ける内容。前作を知らないとあまり楽しめない作品だが、前作を観ていると力不足に感じるという矛盾した出来。ファルハーン・アクタル監督にはもう少し上の娯楽作を期待していた。