Rascals

3.0
Rascals
「Rascals」

 ベテラン俳優が監督業やプロデューサー業に進出するのはヒンディー語映画界でも別段珍しいことではなく、アーミル・カーン、シャールク・カーン、アニル・カプール、アジャイ・デーヴガン、サイフ・アリー・カーン、アクシャイ・クマール、ラーラー・ダッター、アルジュン・ラームパールなど、多くの俳優が映画の監督・制作を手掛けている。30年間俳優として活躍して来たサンジャイ・ダットもそのバンドワゴンに乗り、主演兼プロデュース作品を送り出して来た。本日(2011年10月7日)より公開のコメディー映画「Rascals」である。監督はコメディーの帝王デーヴィッド・ダワン。サンジャイ・ダットとは「Jodi No.1」(2001年)や「Shaadi No.1」(2005年)などいくつかのヒットコメディー映画で仕事をして来た。共演はアジャイ・デーヴガン。最近ローヒト・シェッティー監督の「Golmaal」シリーズなどでコメディアンとして開花している。ヒロインはこれまた最近コメディー映画によく出演しているカンガナー・ラーナーウト。

監督:デーヴィッド・ダワン
制作:サンジャイ・ダット、サンジャイ・アフルワーリヤー、ヴィナイ・チョークスィー
音楽:ヴィシャール・シェーカル
歌詞:イルシャード・カーミル、アンヴィター・ダット・グプタン
出演:サンジャイ・ダット、アジャイ・デーヴガン、カンガナー・ラーナーウト、アルジュン・ラームパール、リサ・ヘイドン、チャンキー・パーンデーイ、サティーシュ・カウシク、ヒテーン・パインタール、ムシュターク・カーンなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 こそ泥のチェータン・チャウハーン、通称チェートゥー(サンジャイ・ダット)とバガト・ボースレー、通称バッグー(アジャイ・デーヴガン)はムンバイーで別々にマフィアのアンソニー・ゴンザルベス(アルジュン・ラームパール)から50万ルピーとベンツを盗み、バンコクへ高飛びする。たまたまバンコク行きの飛行機の中で同席となったチェートゥーとバッグーは知り合いとなる。

 バッグーはバンコクの高級ホテルのスイートルームに宿泊し、高級コールガールのドリー(リサ・ヘイドン)と遊びまくる予定だった。バッグーは隙を見てチェートゥーの財布を盗むが、チェートゥーの方が一枚上手で、偽の財布を掴まされ、逆に時計と財布を盗まれてしまった。しかもチェートゥーはバッグーになりすましてホテルに泊まり、ドリーと遊んでいた。バッグーは傷心のままインドに帰ろうとする。

 チェートゥーは相棒のナノ(ヒテーン・パインタール)と共にバンコクで「アート・オブ・ギビング」という新興宗教団体を起こし、金持ちから寄付と称して多額の金を巻き上げていた。だが、チェートゥーの真のターゲットはバンコクで豪遊する大金持ちの娘クシー(カンガナー・ラーナーウト)であった。チェートゥーはクシーをパートナーとし、アート・オブ・ギビングの活動を拡大する。

 チェートゥーとクシーは盲人のためのマラソンを主催する。そこへ盲人を装って飛び入り参加し、優勝したのがバッグーであった。賞品としてチェートゥーの泊まっているホテルにバッグーも宿泊することになった。バッグーはインドへ帰ろうとしていたのだが、空港でクシーを見掛けて一目惚れし、彼女の後を追い掛けて来たのだった。バッグーは盲人の振りをしてクシーの同情を誘い、彼女を物にしようとする。こうしてクシーを巡ってチェートゥーとバッグーは醜い騙し合いを繰り広げることになる。ホテルの支配人BBC(チャンキー・パーンデーイ)も何かと2人の争いに巻き込まれる。だが、最終的に2人は同時にクシーと結婚しようと寂れた教会を訪れる。神父(サティーシュ・カウシク)は二人をボクシングで対決させ、勝った方がクシーと結婚できると言う。2人はボクシングを始めるが、ボコボコに殴られたのはレフリーとなった神父であった。

 ところがアンソニーがバンコクまで追い掛けて来ていた。アンソニーはクシーを誘拐し、身代金を要求する。チェートゥーとバッグーは銀行強盗をしようとするが、その銀行で本物の銀行強盗から銀行を救ってしまう。何とかどこかから金を用意したチェートゥーとバッグーはその金と交換にクシーを助け出そうとする。ところがクシーは実はアンソニーのガールフレンドであり、アンソニーから送り込まれていた。しかも神父もBBCもアンソニーの手下であった。チェートゥーとバッグーは袋詰めにされ放置される。2人の完全敗北だと思われた。

 しかし、身代金として用意した金は、実はアンソニーの家から盗んで来たものだった。銀行強盗に失敗した後、2人は急いでムンバイーに戻り、アンソニーの家にサンタクロースの扮装をして入り込み、どさくさに紛れて金庫から金を盗み出したのだった。チェートゥーとバッグーは詐欺師を止めることをお互いに誓って別れる。

 数年後・・・。チェートゥーはガウタムという名の半身不随者を演じ、金持ちの集まるパーティーで治療のために寄付金を集めようとしていた。ところがそこに現れたのは医者ガンビールを名乗るバッグーであった。バッグーはチェートゥーに棒で襲い掛かり、荒療治する。

 デーヴィッド・ダワン監督のコメディー映画は定評があり、期待するレベルも自ずから高くなる。その期待から言えば「Rascals」は力不足であった。コメディー映画としての出来は平均以上であるが、デーヴィッド・ダワン映画の中では平均以下と言える。しかもタイミングの悪いことに、つい3ヶ月前に公開された「Double Dhamaal」(2011年)と酷似したプロットで、新鮮さがなかった。「Double Dhamaal」とは、プロットのみならず、サンジャイ・ダットとカンガナー・ラーナーウトというキャストまで共通しており、既視感が否めなかった。

 映画の大半はチェートゥーとバッグーの間の、クシーを巡る騙し合いであり、コメディーの中心もここにある。しかし、二人が酔っ払って教会へ行ってクシーと同時に結婚しようとするところなどは、それまでの流れから見て不可思議であった。ラストは多少唐突過ぎる感もあったが、十分意外性のあるもので、エピローグもまあまあ面白かった。全体的にはコメディー映画としての必要最低限の義務は果たしており、ストーリーの大きな破綻もなく、佳作と言える出来ではあるが、やはりデーヴィッド・ダワン監督にはもう少し上のコメディー映画を求めてしまう。もしかしたら時代は「Munna Bhai」シリーズなどのラージクマール・ヒラーニー、「Golmaal」シリーズなどのローヒト・シェッティー、「Singh is Kinng」(2008年)などのアニース・バズミーなどに移行しているのかもしれない。

 アクション映画で本領を発揮する二人のベテラン筋肉派俳優が主演だったが、二人ともコミックロールにも定評があり、「Rascals」でも大暴れしていた。サンジャイ・ダットとアジャイ・デーヴガンはコメディー映画「All the Best: Fun Begins…」(2009年)でも共演しているが、コンビを組んだのは今回が初めてであろう。スクリーン上での相性は悪くなかった。

 カンガナー・ラーナーウトはデビュー以降、精神的に破綻をきたすようなシリアスな役柄で名声を獲得して来たのだが、「No Problem」(2010年)や「Tanu Weds Manu」(2011年)など、ライトな映画にも積極的に出演するようになり、かなりイメージが変わった。彼女の甘ったるくてハスキーで少し舌足らずの声は、コミックロールを演じると何だか本当の馬鹿女のように聞こえてしまうのが難点ではあるが、コメディー女優としてもかなり地盤を固めて来たように思える。

 変わったところではアルジュン・ラームパールが特別出演扱いで出ていたことだ。しかし彼に任された役は決して小さくない。アルジュンがコメディー映画に出演したのはこれが初めてではなく、「Housefull」(2010年)など前例があるが、コミックロールは未だない。「Rascals」でも真面目な悪役であった。また、オーストラリア出身のモデル、リサ・ヘイドンがサブ・ヒロイン扱いで出ていた。しかしながら単なるセクシーアイテムであった。

 音楽はヴィシャール・シェーカル。コメディー映画らしく派手で明るい音楽が多かったが、ヴィシャール・シェーカルとしてはかなり肩の力を抜いて作った曲ばかりだと感じた。それほど印象に残る曲はなかった。

 映画中には、過去の映画や実在の人物のパロディーが随所に見られた。例えば主人公2人の名前チェータンとバガトは、売れっ子小説家チェータン・バガトから取られている。エピローグで2人が名乗るガウタムとガンビールも、人気クリケット選手ガウタム・ガンビールがネタ元だ。サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督の「Black」(2005年)や「Guzaarish」(2010年)なども笑いのネタにされていた。それらひとつひとつを特定するのも楽しい。

 映画の大半はバンコクで撮影されていた。それも舞台はほぼパンパシフィック・ホテルの中のみで、かなり短期間にかなり限られたロケーションで手っ取り早く撮影された映画であろうことが予想された。

 「Rascals」はコメディーの帝王デーヴィッド・ダワン監督の最新コメディー映画。サンジャイ・ダットがプロデューサーに挑戦したことも特筆すべき。コメディー映画としては合格だが、デーヴィッド・ダワン監督にはもっと上のレベルを目指して欲しかったと思う。ヒンディー語映画初心者にはあまり勧められない。