Bbuddah Hoga Tera Baap

3.0

 1970年代から80年代にかけて絶大な人気を誇り、ヒンディー語映画産業を「ワンマン・インダストリー」とまで揶揄させしめたスーパースター、アミターブ・バッチャンは、2010年代も健在で、今でも多くの映画に出演している。しかしながら、先日、息子のアビシェーク・バッチャンと結婚したアイシュワリヤー・ラーイ・バッチャンの妊娠が明らかになり、アミターブは遂にお祖父ちゃんとなる。

 そんな絶好のタイミングとなる2011年7月1日に公開されたのが、アミターブ・バッチャン主演「Bbuddah Hoga Terra Baap」である。題名の意味は「老いぼれはお前の親父だろう」。意訳すれば「オレはまだ老いぼれじゃない」、「オレはまだ現役だぜ」、「オレを年寄り扱いするな」みたいな感じである。アミターブの主演作は最近でも何本もあるのだが、アミターブを主演としたアクション映画はさすがに見ない。しかし「Bbuddah Hoga Terra Baap」は現在68歳のアミターブ主演のアクション映画ということで注目を集めている。かつてアングリー・ヤングマンの役柄で一世を風靡したアミターブへのトリビュート的作品であり、アミターブ・バッチャンがヒンディー語映画界で受けている尊敬の度合いがよく分かる。同時代にトップ女優だったヘーマー・マーリニーが「ヒロイン」として出演していることも注目。また、監督は大ヒットしたテルグ語映画「Pokiri」(2006年)などで有名なプリー・ジャガンナートである。

監督:プリー・ジャガンナート
制作:ABコープ、ヴィアコム18モーション・ピクチャーズ
音楽:ヴィシャール・シェーカル
歌詞:アンヴィター・ダット
出演:アミターブ・バッチャン、ヘーマー・マーリニー、ソーヌー・スード、ソーナール・チャウハーン、チャーミー・カウル、プラカーシュ・ラージ、マカランド・デーシュパーンデーイ、スッバー・ラージュー、シャーワール・アリー、ラージーヴ・ヴァルマー、ラージーヴ・メヘター、ヴィシュワジート・プラダーン、アトゥル・パルチューレー、ラヴィーナー・タンダン(特別出演)
備考:DTスター・プロミナード・ヴァサントクンジで鑑賞。

 ムンバイーのアンダーワールドのドン、カビール(プラカーシュ・ラージ)は爆弾テロで市内を恐怖のどん底に陥れていた。それに対し、ムンバイー警察のカラン・マロートラー警視監(ソーヌー・スード)はムンバイーからマフィアの一掃を公言する。カビールはカラン警視監の命を狙い、殺し屋を雇う。

 一方、カランは大学時代からターニヤー(ソーナール・チャウハーン)という女の子を追いかけていた。ターニヤーはカランを寄せ付けなかったが、親友のアムリター(チャーミー・カウル)はターニヤーが本当はカランのことを好きだと気付いていた。

 アムリターはある日、ヴィッジュー(アミターブ・バッチャン)というセクシーな老人と出会い、仲良くなる。ターニヤーとアムリターがチンピラに絡まれているときにもヴィッジューに助けてもらった。ヴィッジューは元々ムンバイーのギャングスターであった。ヴィッジューには妻と子もいたが、警察に逮捕され2年の懲役刑を受けたことで妻子とは縁を切り、単身パリへ渡ってパブを経営していた。その彼が突然ムンバイーに舞い戻って来たのだった。

 アムリターはヴィッジューを家に招く。ところがアムリターの母親カーミニー(ラヴィーナー・タンダン)はヴィッジューのことを知っていた。実はカーミニーは若い頃ヴィッジューにゾッコンだったのである。母親の様子を見てアムリターは、自分が実はヴィッジューの子なのではないかと悩むが、ヴィッジューはそれを否定する。それよりも衝撃的だったのは、実はヴィッジューは、カランの母親スィーター(ヘーマー・マーリニー)の夫で、つまりカランは彼の子であるという事実であった。ヴィッジューは、息子の身に危険が迫っていることを知って、息子を守りにムンバイーに戻って来たのだった。

 ヴィッジューは影ながらカランとターニヤーを近付ける。カランはターニヤーとの結婚を申し出るが、障害がひとつあった。それはターニヤーの父親プレームナートだった。プレームナートは家庭裁判所の役人で、毎日恋愛結婚の登記に来る若いカップルを見て来て、恋愛結婚の反対者になっていた。それでもカランはプレームナートに結婚を申し出に行くが、カランの両親が恋愛結婚をし、しかも父親がいないということを知ると、憤って彼を追い出す。それを聞いたヴィッジューはまずは脅して二人を結婚させようとするが、プレームナートは暴力に屈する男ではなかった。そこでヴィッジューは愛を使って説得し、プレームナートは考えを改める。

 一方、ヴィッジューは息子を守るため、友人になったマフィアの下っ端マック(マカランド・デーシュパーンデーイ)を通じて、カランの命を狙うカビールのマフィアの仲間入りをする。そこで情報を収集し、カランにさりげなく危険を知らせていた。ところがヴィッジューにもマフィアの全ての攻撃からカランを守ることができず、カランは銃撃を受けて危篤状態となってしまう。

 怒ったヴィッジューは、喜びに沸くカビールの隠れ家へ行き、巧みにマフィアたちを混乱させて一網打尽にする。最後に残ったカビールをもヴィッジューは撃ち殺す。

 まだカランは病室で昏睡状態であった。そこでスィーターに今後のことを聞かれたヴィッジューは、再び危険が迫ったら戻って来ることだけを告げ、ムンバイーを去る。

 典型的ヒーロー物映画であったが、ヒーローが老齢であること、そして自分のことをまだ若者だと考えていることなどによってユニークさを出しているアクション映画だった。主人公のヴィッジューは凄腕の殺し屋であると同時に「ブッダー(老いぼれ)」と言われるとぶち切れるという特異なキャラクターで、しかも若い女の子に目がないナンパ師である。当然のことながら、このヴィッジューを中心にストーリーが展開する。ヴィッジューを演じたアミターブ・バッチャンは果敢にアクションやダンスに挑戦していたが、やはり年齢には勝てないのか、身体が動いていない場面が多かった。だが、それを奇抜なファッションと当意即妙な受け答えでカバーしていた。また、ヴィッジューの年齢に適したシニアヒロインとして、ヘーマー・マーリニー演じるスィーターと、ラヴィーナー・タンダン演じるカーミニーが用意されていた。

 このシニア層キャスト陣とは別に、ジュニア層のキャストもいた。ソーヌー・スード演じるカラン、ソーナール・チャウハーン演じるターニヤー、チャーミー・カウル演じるアムリターである。通常の映画ならこの年齢層のキャストが中心となるところであったが、「Bbuddah Hoga Terra Baap」では脇役に過ぎなかった。カランは終盤で重傷を負ってそのままほぼ退場となってしまうし、ターニヤーやアムリターに至っては終盤では全く存在感なしである。

 一応脚本上工夫してあったのは、マフィアのドン、カビールが送り込んだスパーリー(契約殺し屋)が、序盤ではヴィッジューであると匂わせておき、インターミッション前後でそれを覆して、実はスパーリーは別人だったとすることである。また、同時にカランは彼の実の息子であることも明かされる。このどんでん返しを除けば、非常に平坦な展開の平凡な映画だったと言わざるを得ない。

 唯一高く評価できるのは、ターニヤーの父親プレームナートの改心シーンである。プレームナートは強硬な恋愛結婚反対派で、娘の恋愛結婚にも断固として反対だった。ところが、彼が結婚させたカップルの子供たちから誕生日祝いに花をもらい、しかもその子供たちの名前がプレームナートにあやかったものであることを知って感動する。そして一転、娘の結婚を認めるのである。直接描写されていなかったが、これは裏でヴィッジューが操作していたと予想される。あまりに短絡的な展開ではあるが、「Bbuddah Hoga Terra Baap」の中でもっともホロリとするシーンだと言える。

 ヴィッジューが、負傷した息子と妻スィーターを置いてムンバイーを去って行くシーンで映画は終わるが、いくつか完結していない要素があり、続編につなげられるような終わり方だと感じた。例えばムンバイーで連続爆破テロを起こしていたカビールの裏にはデリーの政治家の影がちらついていたのだが、劇中ではそこまで追求されることはなかった。ヴィッジューとカランの父子関係にしても、カランはヴィッジューが自分の実の父親であるとは知らずに終幕を迎えている。カランとターニヤーの縁談も中途半端に終わってしまった。上映時間は2時間ほどであり、インド映画としては短い作品に入るのだが、あと30分~1時間を加えてその辺りのエピソードを追加しても良かったのではないかと感じた。

 アミターブ・バッチャンは完全に若き日の自らのヒーロー振りの再現を楽しんでおり、アミターブ・バッチャンのファンにとっては必見の映画となっている。アミターブは「Nishabd」(2007年)や「Cheeni Kum」(2007年)でかなりの年の差恋愛をしたり、「Paa」(2009年)で子役を演じたりと、本当にヴァラエティーに富んだ役に挑戦している。この「Bbuddah Hoga Terra Baap」も彼のユニークなフィルモグラフィーを彩る作品となるだろう。それに加え、彼の出演作の映画音楽をメドレー形式でつなげたダンスナンバー「Go Meera Go」などは、リアルタイムで彼の活躍を追って来た映画ファンには嬉しいサービスだ。

 アミターブ以外に良かったのはソーヌー・スード、チャーミー・カウル、そしてプラカーシュ・ラージである。ソーヌー・スードは基本的にテルグ語映画を本拠地としているが、ヒンディー語映画でもいくつかヒット作に出演しており、顔が売れて来ている。何より長身でガタイが良く、アミターブの息子という役柄は、実の息子アビシェークを除けば、もっともよく似合っていたかもしれない。チャーミー・カウルは、カランの恋人ターニヤーの親友という脇役ポジションであったが、やはりテルグ語映画で主に活躍して来た女優であり、本作が彼女にとってのヒンディー語映画デビューとなる。多少オーバーアクティング気味ではあったものの、表情豊かで、その名の通り本当にチャーミングな女優であった。チャーミーに比べると、ターニヤーを演じたソーナール・チャウハーンは、終始しかめっ面をしていてあまり好印象ではなかった。もちろんヘーマー・マーリニーも貫禄の演技であった。また、悪役カビールを演じたプラカーシュ・ラージも南インドの俳優で、ヒンディー語映画にもちょくちょく出演している。ネットリとした重みのある演技ができる俳優で、今後も「Singham」(2011年)などのヒンディー語映画に出演が決まっており、全インド的な知名度を獲得しそうだ。

 特別出演扱いであるが、ラヴィーナー・タンダンがおかしな役で出て来たことが意外だった。ラヴィーナーと言えば90年代から00年代前半まで活躍した女優であり、シリアスな演技で記憶に残っていた。しかし今回彼女が演じたのは、ヴィッジューの昔の愛人またはファンで、ヴィッジューと再会したことで当時の情熱が蘇りおかしな素行をし始めるという、半ばコミックロール、半ば汚れ役みたいなもので、昔のラヴィーナーとどうしても重ならなかった。しばらくスクリーンから遠ざかっていたが、この特別出演が彼女の復帰のきっかけとなるのであろうか?

 音楽はヴィシャール・シェーカルだが、短い映画だったこともあり、挿入歌やダンスナンバーが挿入されるシーンは少なかった。前述のダンスシーン「Go Meera」と、ヴィッジューとスィーターの間で夫婦愛を象徴する「Haal-E-Dil」ぐらいである。また、テーマソングとして「Bbhuddah Hoga Terra Baap」がある。ユニークなのは、ほぼ全ての曲をアミターブ・バッチャン自身が歌っていることである。アミターブは過去にもいくつかの映画で歌声を披露して来ており、「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年)での「Say Shava Shava」などが有名だ。この点でも「Bbuddah Hoga Terra Baap」はアミターブ・バッチャンのファンにとって必見の映画である。

 「Bbuddah Hoga Terra Baap」は、アングリー・ヤングマンとして知られた70年代からおよそ40年に渡ってヒンディー語映画界に君臨し続けているアミターブ・バッチャンが、老齢ながらも再び全盛期のようなヒーローを演じたユニークなアクション映画である。ストーリー自体に目立って新鮮な部分はなく、エンターテイメントとして観ても強いインパクトのある作品ではないが、アミターブ・バッチャンのファンならば十二分に楽しめることだろう。