Stanley Ka Dabba

3.5

 ヒンディー語映画界をリードする人気スターの一人アーミル・カーンの監督デビュー作「Taare Zameen Par」(2007年)で、脚本に加えてクリエイティヴ・ディレクターなる肩書きを務めたのがアモール・グプテーという人物であった。「Taare Zameen Par」は元々彼と妻のディーパー・バーティヤーが温めて来た作品であり、アーミル・カーンの監督デビュー作として注目を集めたものの、アモール・グプテーの貢献は少なくなかったはずである。彼はいろいろ多才な人物で、俳優としても知られており、古くはアーミル・カーン主演「Jo Jeeta Wohi Sikandar」(1992年)などにも出演しているし、最近では「Kaminey」(2009年)や「Phas Gaye Re Obama」(2010年)などにも出ている。

 そのアモール・グプテーの最新作が2011年5月11日から公開されている。「Taare Zameen Par」と同様に子供を主人公にした映画で、題名は「Stanley Ka Dabba」。脚本、監督、プロデューサー、歌詞などをアモール・グプテー自身が務めており、劇中に重要な役でも出演している。おそらく「Taare Zameen Par」の成功によりかなり自由に作品作りが出来るようになったのだろうと思う。だが、あくまで主人公は子供たち。主演を務めるパルトーはアモール・グプテー監督の息子である。この映画は、なんと子供たち向けの演劇・映画ワークショップという形で撮影されたものをつなぎ合わせて作品にしたものであると言う。もちろん監督は最初からそういう意図を持ってワークショップを行ったのだろうが、パルトー以外の子供たちは全くそんなことを知らず、単純に演技を楽しみながらワークショップに参加していたと言う。そんな魔法のような方法で作られた映画である。

監督:アモール・グプテー
制作:アモール・グプテー
音楽:ヒテーシュ・ソーニク
歌詞:アモール・グプテー
出演:アモール・グプテー、ディヴィヤー・ダッター、ディヴィヤー・ジャグダレー、ラージ・ズトシー、ラーフル・スィン、アーディティヤ・ラーキヤー、カーダンバリー・シャーントシュリー、シヴ・スブラーマニヤム、ジテーンドラ・ラーイ、シュシャーンク・シンデー、パルトー(子役)、ヌマーン(子役)、アビシェーク(子役)、サーイー・サラン(子役)、モンティー(子役)、ウォルター(子役)、レオ(子役)、ガネーシュ(子役)、トージョー(子役)など
備考:DTスター・プロミナード・ヴァサントクンジで鑑賞。

 ムンバイーのホーリー・ファミリー・スクールに通うスタンリー(パルトー)は、毎日朝早く来て授業が始まるのを待つ不思議な子供だった。スタンリーはなぜか毎日弁当箱を持って来ておらず、水を飲んで腹を膨らませていた。しかし、クラスメイトたちはスタンリーに気遣って、自分から弁当を少し分け与えていた。特にアマンはいつも豪華な弁当を持って来ており、スタンリーによく弁当をあげていた。また、隣の席のアビシェークはスタンリーの良き親友であった。

 ところで、ヒンディー語の教師バーブーバーイー・ヴァルマー(アモール・グプテー)も、毎日自分の弁当箱を持って来ておらず、教員たちから弁当を分けてもらっていた。ヴァルマーは生徒たちの弁当箱からも食べ物を食べるほど食い意地の張った男であった。子供たちはヴァルマーのことをカドゥース(欲張り)と呼んで嫌っていた。一方、英語教師のロージー・ミス(ディヴィヤー・ダッター)は優しい先生で、子供たちから慕われていた。特にスタンリーは、ご褒美にお菓子がもらえるため、ロージー先生を喜ばせようといろいろ努力していた。スタンリーはエッセイ、物語の創作、詩の朗読などに優れたものを持っており、クラスメイトたちからも一目置かれていた。

 鳥インフルエンザの影響でしばらく休校になったことから、カリキュラムを間に合わせるために、新学期から1日のコマ数が増えることになった。それに伴って子供たちは昼食を持参するように指示を出された。今までは昼食前に学校が終わっていたために弁当は軽食のみだった。だが、補習が入ることで昼食が必要となったのであった。

 喜んだのはヴァルマーであった。これで子供たちから豪華な弁当を失敬することが出来るようになる。特にヴァルマーが目を付けたのは、毎回豪華な弁当箱を持参するアマンであった。しかしアマンとクラスメイトたちは、弁当箱を持って来ないスタンリーに弁当を分けてあげたいと考えていた。もしヴァルマーに弁当を食べさせたら1人で全て平らげてしまう。よって、アマンやアビシェークは毎日場所を変えて弁当を食べることにする。ヴァルマーは毎昼休みにアマンたちを探すが見つからない。スタンリーが弁当箱を持って来ていないためにアマンたちがそういうことをするのだと考えたヴァルマーは、スタンリーに対し、弁当箱を持って来なければ学校に来てはいけないと命令を出す。

 次の日からスタンリーは学校に来なくなってしまった。アマンやアビシェークはスタンリーのことを心配するが、誰もスタンリーの家を知らなかったために様子を調べることも出来なかった。そんなときムンバイーの学校に通う才能豊かな子供たちが集まってパフォーマンスをする文化祭が行われることになり、ホーリー・ファミリー・スクールでもオーディションが行われた。アマンやアビシェークは、スタンリーこそが学校の代表にふさわしいと考える。翌日、スタンリーを見つけたアマンらは彼にそのことを教える。興味を持ったスタンリーは、練習が行われている場所へ行ってみる。そこではダンスの練習が行われていた。スタンリーは踊りも大好きで、覗いて覚えた振り付けを練習するようになる。その様子がダンス指導者の目に留まり、スタンリーはパフォーマーとして選ばれることになる。

 また、スタンリーはどこかから弁当箱を調達して来る。そしてヴァルマーの前でそれを見せ、授業に出席していいか聞く。既にヴァルマーがスタンリーに対してした仕打ちは学校でも問題になっていた。ヴァルマーは解雇処分となり、スタンリーは以前のように学校に通い出す。だが、彼の手には弁当箱があった。

 文化祭の日。スタンリーは大活躍し、観客から拍手喝采を受ける。だが、スタンリーの両親は来ていなかった。ホーリー・ファミリー・スクールの神父に家まで送ってもらったスタンリー。実は彼の両親は既に亡くなっており、彼は叔父の経営する安食堂で働かされていた。食堂で料理を作るアクラムが、スタンリーから事情を聞いて弁当箱を用意してくれたのだった。

 シーンとシーンとシーンの整合性に乏しい部分が散見され、終盤に入るまで映画のテーマもよく見えないが、演技素人の子供を多数起用し、ワークショップという体裁の上で密かに撮影され編集された特殊な映画であることを考慮すると、とてもよく出来た映画だと言える。90分の短い映画だが非常に楽しめた。

 映画の大部分は、スタンリーやヴァルマーの、食に対する執着心や飢餓感の表現に終始しており、スクリーン上には食べ物や食べるシーンが映し出される機会がとても多い。冗長に感じられるし、それを見ていると何だかとても腹が減って来る。スタンリーが踊りを踊り始める段階になって、映画のテーマは「Taare Zameen Par」と同様に現代インドの画一的な教育批判、つまり「子供の個性を大事にしよう」というメッセージになるのかと予想される。ところが最後でどんでん返しがあり、スタンリーの身の上が明らかにされることで、この映画は実は児童労働をテーマにした映画であることがやっと分かる。

 終盤以前にスタンリーが児童労働の被害者であることを匂わせるシーンはほとんどない。顔にアザを作って来ていたり、早朝登校したり、何より弁当を持参していないことでスタンリーの家庭に問題があることは薄々感じ取ることが出来るが、それ以上のことはずっと明らかにされない。しかし、「食べる」という行為は人間が生きて行く上で欠かせない行為であり、映画のテーマが明らかになることで、児童労働の被害者であるスタンリーはその最低限のものですら満足に得られていないことが強調され、児童労働に直球勝負で取り組んだ映画ではないにも関わらず、強烈なメッセージ性を持っている。ただ、子供の弁当を横取りするヴァルマーの存在は児童労働とは全く別である。スタンリーとヴァルマーの関係がこの映画の軸ではあるが、テーマとは全く関係ないため、この点がこの映画を多少ぼやけたものにさせてしまっていたように感じた。

 外国人の視点で「Stanley Ka Dabba」を見ると、インドの学校の様子がよく分かって面白い。特に、クラスの中で教師がいかに絶対的な権力を持っているか、ヒシヒシと感じられる。ただ、子供の弁当を横取りするような食い意地の張った先生が現実世界に存在するのかどうかは不明である。インドでは学校の登下校時間は州によって違うので一概に言えないのだが、暑い季節が長く続く平野部の学校では通常、朝早く始まり、昼前に終わるようになっている。よって、弁当と言ってもお菓子やスナック類を持って来ている生徒たちがほとんどである。だが、何らかの事情によって午後にも授業が行われることになると、昼食が必要となる。子供たちが持って来た弁当箱がクラスの前に集められているところなどは外国人にとってとても新鮮な映像だ。おそらく子供たちが早弁しないようにとの配慮であろう。

 スタンリーが弁当箱を持って来ない理由は最後で明らかになる。だが、ヴァルマーがどうして弁当箱を持って来ず、しかもなぜ生徒たちの弁当を食べることを楽しみにしているのか、あまり説明がされていなかった。彼の執着心は異常であり、過去にスタンリーと同じく何らかのトラウマがあったのではないかと推測されるのだが、とうとうそれは明らかにされずに終わってしまう。それが何らかの形で説明されていると、もっとスッキリしたのではないかと思う。

 主人公スタンリーを演じたパルトーの演技は素晴らしかった。ヴァルマーを演じたアモール・グプテーも名演。その他の子供たちもとても自然な演技で良かったし、そういう自然な表情を捉え、映画の端々に混ぜ込む努力も行われていた。

 ちなみに、インドのことを知らない人には、インド式弁当箱にも関心が行くのではなかろうか?特に円筒形のステンレス製複段式弁当箱はインドならではの日用品であり、ちょっと変わったお土産にもいい。

 「Stanley Ka Dabba」は、「Taare Zameen Par」で名を上げたアモール・グプテーが本格的に多才な才能を発揮した作品。ワークショップを通して一本の長編映画を作ってしまうという斬新な撮影法にも注目。メッセージとしては弱いが、児童労働をテーマにした映画という点でも重要である。