Haunted 3D

3.5

 ジェームズ・キャメロン監督「Avatar」(2009年/邦題:アバター)は世界中で大ヒットとなり、デジタル3D映画というジャンルを確立した。インドでも「Avatar」は洋画としては異例の大ヒットとなった。当時まだデジタル3D映画を上映できる映画館は限られており、3D上映のシアターは割増の料金を徴収していたが、それでも観客は3Dでの鑑賞を好み、「Avatar 3D」が見られる映画館に殺到した。その後その人気に後押しされて都市部のマルチプレックスを中心に設備の整備が進み、現在では3D上映可能な映画館はかなり増えている。「Avatar」以降、ハリウッドの3D映画が怒濤の如くインド市場にも入って来るようになり、既に目新しさはなくなって来ているほどだ。

 こうなって来るとインドの映画制作者の中から国産3D映画を作ろうと意気込む者が出て来たとしても何ら不思議はない。様々なプロジェクトが進行中だが、「Avatar」以降、もっとも最初に公開まで漕ぎ着けた国産デジタル3D映画が、2011年5月6日公開のホラー映画「Haunted 3D」となる。

 ただ、実はインドではかなり昔に3D映画が作られている。マラヤーラム語映画の「My Dear Kuttichathan」(1984年)で、インド初の3D映画とされている。基本的に子供向け映画ながら、その新奇さもあいまって、当時大ヒットとなったと言う。この映画のヒンディー語吹替版が1998年に「Chhota Chetan」の題名で公開されており、やはりヒットとなった。しかし、以降インドで3D映画が根付くことはなかった。

 「Haunted 3D」は「My Dear Kuttichathan」を意識してか、「インド初の3D映画」は謳っておらず、代わりに「インド初の3Dホラー映画」、「インド初のステレオスコープ3D映画」などをキャッチコピーとしている。3Dカメラはトロントの3DCC社のものを利用しているようで、技術支援も受けたようである。監督はヴィクラム・バット。キャストに大きなスターはおらず、純粋に3Dのみで売り出している作品である。

監督:ヴィクラム・バット
制作:ヴィクラム・バット、アルン・ランガーチャーリー
音楽:チランタン・バット
歌詞:シャキール・アーズミー、ジュナイド・ワースィー
出演:マハークシャイ・チャクラボルティー、ティア・バージペーイー(新人)、アチント・カウル、アーリフ・ザカーリヤー、サンジャイ・シャルマー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 2011年、米国でMBAを取得しインドに戻って来たリハーン(マハークシャイ・チャクラボルティー)は、病気となった父親に代わって、不動産ブローカーの仕事をするようになる。今回リハーンに任されたのは、コーティーという山間の町にある古い邸宅グレン・マナーを買い手に売却する仕事であった。リハーンは単身コーティーへ向かう。その途中浮浪者から「お前だったら何とかできるだろう」と謎めいたことを言われる。

 グレン・マナーは地元の人々からは幽霊屋敷と言われていた。リハーンは、ライバル不動産ブローカーが邪魔するために風評を流していると考え、その原因を突き止めることにする。確かに邸宅では女性の叫び声など、異常な物音が聞こえて来た。さらに、リハーンは夜中、女性の幽霊が悲しげなピアノのメロディーを奏でているのを目撃する。リハーンはそれらをビデオカメラで撮影しようとするが、何も映っていなかった。他にも様々な異常現象が起こった。

 そこへ例の浮浪者が現れ、リハーンに「幽霊が何を訴えているのかよく確かめるように」と助言をする。リハーンは幽霊の導きに従うことで、1通の手紙を発見する。そこには、80年前にグレン・マナーに住んでいたミーラー(ティア・バージペーイー)が自殺前に綴った告白があった。

 ミーラーは裕福な家庭のお嬢様で、両親や使用人と共にこの邸宅に住んでいた。ある日、両親が親戚の結婚式に出席するためにしばらく家を空けることになった。ミーラーは試験の勉強をするために残ることを決める。秘書のマーガレット(アチント・カウル)などがいたので安心だった。

 ところでミーラーはアイヤル教授(アーリフ・ザカーリヤー)からピアノを習っていた。ミーラーは、両親の留守中ピアノのレッスンを受けることが出来ないと言うと、アイヤル教授は、彼がミーラーの家に行ってピアノを教えることを提案する。そこでアイヤル教授はグレン・マナーに来るようになる。

 ところが、他の使用人が出払った隙にアイヤル教授は豹変し、ミーラーをレイプしようとする。必死に抵抗したミーラーは誤ってアイヤル教授を殺してしまう。だが、その日からアイヤル教授は亡霊となってミーラーに付きまとうようになる。アイヤル教授の亡霊は、使用人たちを次々と血祭りに上げ、最後にミーラーをレイプする。ミーラーはアイヤル教授の亡霊に監禁され、何度も何度も陵辱される。とうとうミーラーは人生に絶望して自殺してしまう。だが、自殺して魂となった後もミーラーはアイヤル教授の亡霊から逃れることは出来ず、毎晩苦しめられていたのだった。

 ミーラーの境遇を知ったリハーンは何とか彼女を助けようとする。とりあえず女性霊能力者を呼んで調べてもらうが、彼女はアイヤル教授の亡霊のあまりの凶悪さに恐れをなし、逃げ出してしまう。リハーンは1人でアイヤル教授の亡霊と戦おうとするが敵わず、邸宅を閉め出されてしまう。

 諦めかけたそのとき、またも例の浮浪者がひょっこり現れ、「彼女の気持ちになるように」と助言する。リハーンはミーラーが弾いていた曲をピアノで弾きながら眠ってしまう。目を覚ますと、なんとそこは1936年であった。リハーンはタイムスリップしていた。そしてそれはちょうどミーラーの両親がデリーに出掛ける日であった。リハーンは自分の置かれた立場を瞬時に理解し、何とかミーラーの運命を変えようとする。リハーンはミーラーと知り合いになり、彼女に影響を及ぼし始める。

 リハーンは、アイヤル教授がミーラーを強姦しないように、また、ミーラーがアイヤル教授を殺さないように、干渉しようとする。だが、アイヤル教授はまずリハーンに襲いかかって彼を負傷させ、次にミーラーをレイプしようとする。ミーラーは反抗してアイヤル教授を殺してしまう。

 アイヤル教授はやはり亡霊となってしまった。こうなったらミーラーを含めなるべく多くの人を助けなければならない。まずリハーンはミーラーとマーガレットに自分の素性を明かし、これから起こりうる恐ろしい未来を教える。そして一緒に神父のところへ相談に行く。神父はとあるスーフィー聖者のダルガー(聖廟)を教え、そこへ行くように助言する。リハーン、ミーラー、マーガレットの3人は、亡霊がもっとも弱まる午後3時を見計らってグレン・マナーを出て、ダルガーを目指す。

 ところが、途中の宿でマーガレットが油断してアイヤル教授に取り憑かれてしまう。取り憑かれたマーガレットはミーラーをレイプしようとする。間一髪でリハーンはミーラーを助け、逃げ出す。この逃避行の中で2人の間には恋が芽生える。

 ダルガーまであと少しのところでマーガレットに追いつかれ、攻撃を受ける。だが、リハーンはマーガレットをダルガーに踏み込ませ、成仏させる。ダルガーには、2011年に何度もリハーンの前に現れた浮浪者がいた。彼こそがスーフィー聖者であった。聖者はリハーンとミーラーに、アイヤル教授を成仏させる方法を教える。

 リハーンとミーラーはその教えに従い、廃墟となった町にある聖者の井戸へ向かう。その井戸の中に、ダルガーの土、火、そしてミーラーのペンダントを投げ込めばアイヤル教授を成仏させることが出来るはずであった。ところが案の定アイヤル教授は2人に襲いかかる。恐ろしい力の前にミーラーはレイプされそうになるが、リハーンは井戸の中に全ての品物を入れることに成功し、アイヤル教授の成仏に成功する。だが、誤ってリハーンも井戸の中に落ちてしまう。

 ふと目を覚ますと2011年に戻っていた。グレン・マナーの様子は様変わりしていた。リハーンはミーラーからの手紙を発見する。そこにはお礼の言葉と、幸せな生活の様子が綴られていた。

 これは近年稀に見るゲテモノ映画かもしれない。「悪魔の亡霊レイプ教授と陵辱屋敷 3D」というコテコテの邦題を付けたくなるようなB級臭プンプンのぶっ飛んだ映画である。インド映画のホラー映画は元々レベルが低いのだが、コメディーとして見れば結構面白かったりもする。「Haunted 3D」もその一種だ。もちろん真面目にホラー映画をやろうとしている訳だが、それがかえって滑稽なのである。それだけでなく、「Haunted 3D」は数々のキワモノ的魅力を備えている。

 ホラー映画なので当然亡霊が登場する。「Haunted 3D」の亡霊はピアノ教師。生前、アイヤル教授は教え子のミーラーに欲情してしまい、隙を見て強姦しようとするが、敢えなく返り討ちに遭って死亡し、幽霊となってしまう。だがそれでもめげない。教授は亡霊になってまでミーラーを我が物にしようとする。亡霊が生身の女性を強姦できるのか、そんなことを考えてはいけない。とにかく何でもありの世界なのだ。少なくとも劇中ではミーラーは今度こそは強姦されてしまう。それのみならず、亡霊に監禁され、陵辱され続ける。ミーラーはそれを苦に自殺してしまうのだが、幽霊になっても教授の亡霊からは逃れられず、やはり夜な夜な陵辱を受ける。80年以上もその陵辱は続き、その屋敷には無残にも夜な夜な彼女の叫び声が響き渡る・・・。さすがにあからさまな強姦シーンや陵辱シーンはなかったが、これはこれで結構えげつない。

 それだけなら単なるB級ホラー映画なのだが、この映画はさらにもう一歩踏み込んでいる。なんと主人公リハーンを80年前の時代にタイムスリップさせてしまうのである。ホラー映画とタイムトラベル物の華麗なる融合!何でもありと言っても、ここまで何でもやられると逆に爽快である。2011年から1936年にタイムスリップしたリハーンは、教授の亡霊からミーラーを救うために勇敢に戦う。リハーンの努力によって、過去は微妙に変化し、ミーラーの周囲の人物は簡単には殺されなくなる。しかし教授もあの手この手を使って思いを遂げようとする。秘書のマーガレットに取り憑いてミーラーを強姦しようとしたこともあった。たとえ取り憑き元が男性であっても、取り憑き先が女性であった場合、別の女性を強姦することが出来るのだろうか?それも考えてはいけない。これはレズ物趣向の人へのささやかなサービスなのだと納得するしかない。

 ホラー映画にしては変わった点もあった。普通、ホラー映画では主要登場人物は早かれ遅かれ亡霊や悪魔などに恐れおののくものだと思うのだが、「Haunted 3D」の主人公リハーンはアクション映画の主人公ばりにやたら勇敢な男で、怪奇現象が起こると、逃げるのではなく、その方向へ真っ向から立ち向かって行くのである。リハーンが亡霊に対して心底恐怖を感じるようなシーンはひとつもなく、絶対の安心感がある。ホラー映画としてはこの安心感はマイナスであろう。

 肝心の3Dに関しては、確かに立体的に見えていたので、技術的にはハリウッドのデジタル3D映画と比べて遜色ないはずである。また、その使い方も、ホラー映画に利用する上で思い付くようなことは大体試してあった。

 あまり気にする点ではないかもしれないが、最終的に教授の亡霊を成仏させたのは、霊能力でもキリスト教でもなくスーフィズム(イスラーム教神秘主義)であった。霊能力者が何とかしてくれるのかと思ったら役立たずで逃げ帰ってしまうし、神父さんがいよいよ登場かと思ったら大して手助けしてくれず、しかも謎の死を遂げてしまう。スーフィズム最強であった。この辺りはヴィクラム・バット監督の個人的信仰などが関係しているのであろうか?

 他にもストーリーを見ていて変だな、と思った細かい点がいくつもあった。例えば、1936年にタイムスリップしたばかりのリハーンはその晩ホテルに泊まるだけのお金をどこから手に入れたのかとか、1936年と言えば英領インド時代なのに英国人が一人も登場しないのはなぜなのかなど。携帯電話をネタにしたシーンや、リハーンがダンスを踊るシーンなど、映画全体の雰囲気とそぐわないシーンもいくつかあった。

 ヒロインのティア・バージペーイーはテレビ界でトゥインクル・バージペーイーの名で活躍して来たタレントで、本作がヒンディー語映画デビュー作となる。しかし初っ端からこんなに汚れ役をやっていいのか、というくらい捨て身の演技をしていた。何しろ亡霊にレイプされ陵辱される女性の役である。無難なキャリアアップを目指す女優なら絶対に引き受けないだろう。演技は並程度であったが、その勇気は買いたい。

 ヒーローのマハークシャイ・チャクラボルティーは、下層の人々の間で絶大な人気を誇る男優ミトゥン・チャクラボルティーの息子である。ミモー・チャクラボルティーの名で「Jimmy」(2008年)によってデビューしたが鳴かず飛ばずで、名前を本名に戻し、本作で再起を狙っている。残念ながらあまり男優としてのオーラが感じられず、父親を越えるようなスターには多分なれないだろう。だが、演技に目立った短所もない。

 インド映画の伝統に則って多少の挿入歌があったが、映画の雰囲気を損ねるものが多かった。日本人にとって特筆すべきは、箏曲「さくらさくら」がなぜか使われていることである。この点もゲテモノ映画度アップに貢献している。

 撮影はタミル・ナードゥ州ウダガマンダラム(ウータカマンド、ウーティー)で行われたようだ。しかしそうとう郊外で撮影されたと見え、タミル・ナードゥ州を感じさせるようなものはひとつもなかった。

 「Haunted 3D」は、インド初のデジタル3D映画であるが、その点よりもむしろ、そのゲテモノ振りを楽しめる映画である。インドのホラー映画は実はコメディー映画なのだということを念頭に置いて鑑賞すれば、きっと損した気分にはならないだろう。