Yamla Pagla Deewana

3.5

 ヒンディー語映画界には同族の俳優、監督、その他映画関係者が多く、全体でいわゆる「映画カースト」を形成している。もっとも有名な映画カーストはプリトヴィーラージ・カプールに始まり、ラージ・カプール、シャシ・カプール、シャンミー・カプール、そしてランディール・カプール、リシ・カプールなどを経て、現世代のカリシュマー・カプール、カリーナー・カプール、ランビール・カプールまで続くカプール一族である。だが、他にも様々な家系が映画界で活躍中であり、その中でも強力なプレゼンスを誇っているのがデーオール一家である。60年代から活躍する大スター、ダルメーンドラから始まる家系で、現在はその子供のサニー・デーオール、ボビー・デーオール、イーシャー・デーオール、甥のアバイ・デーオールが一線で活躍している。

 もし親子共々人気俳優の場合、映画プロデューサーが簡単に思い付く手っ取り早い話題作りとして、その親子の共演がある。アミターブ・バッチャンとアビシェーク・バッチャンの親子は今まで何度も共演して来ており、特に親子を逆転させた「Paa」(2009年)がユニークな企画として記憶に新しい。デーオール一族も今まで共演がなかった訳ではない。ボクシングをテーマにしたスポーツ映画「Apne」(2007年)ではダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオールの親子が共演し、息のあった演技を見せていた。「Apne」はヒット作となり、気をよくしたのか、デーオール親子共演第2作が制作されることになった。それが2011年1月14日より公開の「Yamla Pagla Deewana」である。今回はジャンル上コメディー・ドラマとなっており、三人の息のあったコミックシーンが見所となっている。ヒロインは元テレビ女優のクルラージ・ランダーワー、監督は「Heroes」(2008年)でサニー・デーオールを怪物的ヒーローに仕立て上げたサミール・カールニク。題名の「Yamla Pagla Deewana」とは、ダルメーンドラ主演作「Pratigya」(1975年)の挿入歌「Main Jat Yamla Pagla Deewana」から取られている。今年初期の話題作の1本だ。

 ちなみに、現在ダルメーンドラの妻で女優のヘーマー・マーリニーが制作・監督、イーシャー・デーオール主演の「Tell Me Oh Khuda」が制作中である。同映画ではダルメーンドラとイーシャー・デーオールが共演する。ダルメーンドラには2人の妻がおり、サニー・デーオールとボビー・デーオールは第1夫人プラカーシュ・カウル、イーシャー・デーオールは第2夫人ヘーマー・マーリニーの子供になる。

監督:サミール・カールニク
制作:ニティン・マンモーハン、サミール・カールニク
音楽:ラクシュミーカント・ピャーレーラール、アヌ・マリク、サンデーシュ・シャーンディリヤー、ナウマーン・ジャーヴェード、RDB、ラーフル・B・セート
歌詞:アーナンド・バクシー、ダルメーンドラ、アヌ・マリク、イルシャード・カーミル、ナウマーン・ジャーヴェード、ラーフル・B・セート、RDB
衣装:タニア・デーオール、シャマーヤル・カーン、ニートゥー・ローラー、ガガン・オベロイ、ニクンジ・ヴャース、シャーンタヌ・ニキル
出演:ダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオール、クルラージ・ランダーワー、ナフィーサー・アリー、アヌパム・ケール、ジョニー・リーバル、プニート・イッサール、アジャイ・デーヴガン(ナレーション)など
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 パラムヴィール・スィン・ディッラン(サニー・デーオール)は、カナダのバンクーバーで銀行員として真面目に暮らすスィク教徒であった。カナダ人女性メリーと結婚し、2人の息子がいた他、母親(ナフィーサー・アリー)も同居していた。パラムビールには父と弟もいたが、二人は行方不明だった。父のダラム・スィン(ダルメーンドラ)は詐欺師で、母親がいくら叱っても更正しなかった。あるときダラムは生後2ヶ月のガジョーダル・スィン(ボビー・デーオール)を連れて逃亡してしまった。それ以来、母親はパラムヴィールを連れてカナダへ移住し、暮らしていたのだった。

 あるとき、ひょんなことからダラムとガジョーダルがウッタル・プラデーシュ州の古都ヴァーラーナスィーにいることが分かる。パラムヴィールは二人を探しにヴァーラーナスィーに降り立つ。ダラムは相変わらず詐欺で生計を立てており、弟のガジョーダルもすっかり一流の詐欺師となってしまっていた。パラムヴィールはダラムに、自分が彼の息子であることを主張するが、ダラムはそれを否定する。ダラムはガジョーダルにも母親や兄の存在を教えていなかった。だが、ガジョーダルはパラムヴィールの腕っ節の強さを見て、彼を詐欺仲間に引き込むことにする。パラムヴィールも父や弟と共にいるため、共に詐欺をするようになる。

 ところでガジョーダルはサーヒバー(クルラージ・ランダーワー)というパンジャーブ人女性と恋仲だった。サーヒバーはヴァーラーナスィーについての本を書くために当地に来ていた。だが、サーヒバーには怖い兄が何人もいた。ある日兄たちがパンジャーブ州パティヤーラーからヴァーラーナスィーまでやって来て、サーヒバーを連れて行ってしまった。

 そこでパラムヴィールはガジョーダルと共にパティヤーラーに乗り込む。そして嫁探しに来たNRI(在外インド人)を装って、サーヒバーの父ジョーギンダル・スィン(アヌパム・ケール)に会いに行く。ジョーギンダルは2人のことを気に入るが、サーヒバーの婿としてパラムヴィールを選んでしまう。しかも姪のポーリーをガジョーダルと結婚させることも決めてしまう。また、ジョーギンダルは選挙に立候補しており、対立候補のミンティー(プニート・イッサール)と交戦状態にあった。

 ガジョーダルは何度もサーヒバーと脱走を試みるが、そのたびに邪魔が入って失敗する。まずはダラムが来てしまい、次に新聞でパラムが結婚することを知って怒ったメリーが子供を連れて来てしまう。混乱の末にダラム、パラムヴィール、ガジョーダル、サーヒバー、メリーと子供たちは一斉に逃亡することにする。だが、途中で見つかってしまう。ジョーギンダルの連れて来た手下と戦っている間、ミンティーとその部下たちが乱入して来る。ミンティーを撃退した後、ジョーギンダルは今までの出来事を理解し、ガジョーダルとサーヒバーの結婚を認める。

 ガジョーダルとサーヒバーの結婚後、パラムヴィールはダラム、ガジョーダル、サーヒバーをカナダに連れ帰る。そこでダラムは30年振りに妻と再会し、彼女は長年の夢だった次男ガジョーダルとの再会を果たす。

 興味深いことに、最近のヒンディー語映画界では、スマートな味付けのマルチプレックス映画隆盛の中で、いわゆるマサーラー映画と呼ばれる娯楽要素てんこ盛りの古き良き映画形態への回帰が見られるようになった。「Dabangg」(2010年)がその最大の成功例であるが、この「Yamla Pagla Deewana」もその潮流のひとつと位置づけることが出来るだろう。「この映画には、コメディー、アクション、そしてたくさんのコンフュージョンがあるぜ」と言うキャッチコピーの通り、ヒンディー語映画が得意とするコメディー、アクション、コンフュージョン、そしてもちろんロマンスとダンス、兄弟愛から母性愛まで、あらゆる娯楽要素が詰まっていた。

 だが、マサーラー映画への回帰と一口に言っても、単に昔ながらの手法で映画を作っているという訳ではない。「Dabangg」も「Yamla Pagla Deewana」も、現代の観客の心を掴むような緻密な映画作りがなされており、全く新しいマサーラー映画となっている。「Yamla Pagla Deewana」では、一家離散と再会を「ヒンディー語映画の常套手段」として冒頭で自嘲気味にこき下ろしながら、敢えて「もう1本どうですか」と観客にこの物語を提供しており、そのポジティブな開き直りのおかげか、決して斬新ではないストーリーも退屈ではなかった。

 ストーリーの冒頭は舞台がカナダのバンクーバーになっているが、それ以降はインドとなる。さらに、映画の物語は、ミルザー・サーヒバーというパンジャーブ地方の民話がベースになっており、その辺りもインド映画らしくて良かった。ミルザー・サーヒバーの概要はざっとこんな感じである――ミルザーとサーヒバーは幼馴染みであったが、家族は結婚に反対だった。そこでミルザーはサーヒバーを連れて駆け落ちする。サーヒバーの兄たちはすぐに気付いて追って来る。木の下でミルザーが眠っているときに、サーヒバーは兄が近づいて来るのに気付く。弓の名手ミルザーが兄を殺すことを恐れ、彼女はミルザーの矢を全て折り、自ら兄を説得しに出て行く。だが兄はサーヒバーの話を聞かず、ミルザーに襲いかかる。矢を全て折られたミルザーは抵抗したものの為す術なく殺されてしまう――こういう悲恋話である。この話が、ガジョーダルとサーヒバーの恋物語に重ね合わされていた。

 だが、やはりこの映画の楽しさの大部分は主演のダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオールの好演にあるだろう。それぞれが自分のもっとも得意とするキャラクターを演じ、絶妙なタイミングでギャグをかまし、見せ場をものにしていた。優れた脚本があれば優れた映画が出来るものだが、並程度の脚本でも俳優が真摯に映画に参加すれば傑作に化けるといういい例がこの「Yamla Pagla Deewana」だと感じた。

 ただ、台詞はとても良かった。インド映画では脚本家と別に台詞作り担当の作家がクレジットされることが多いが、その事実から分かるように、台詞はとても重要だ。通常、脚本の中でト書きの部分は英語、台詞の部分のみヒンディー語となっており、ストーリーを考えるだけならヒンディー語が出来なくてもいいが、台詞を考えるには並以上のヒンディー語理解力が必要となり、分担制が生まれる。ヒット映画に共通する要素のひとつに台詞の良さがあり、ヒンディー語圏の観客は、完璧にヒンディー語を使いこなし、ヒンディー語の味を出すことに成功している映画、俳優を最大限に受け容れる。「Yamla Pagla Deewana」に限っては脚本家と台詞は同一人物のようで、ジャスヴィール・スィン・バートという人物が書いているが、とても生き生きした台詞が使われていた。舞台がウッタル・プラデーシュ州東部ヴァーラーナスィーからパンジャーブ州パティヤーラーに移るに従い、台詞がボージプリー訛りヒンディー語からパンジャービー訛りヒンディー語へと移り、それぞれ味のある台詞回しがされており、非常に楽しめた。

 最後のシーン、ダラムとガジョーダルが母親と再会するシーンがある。そこでダラムはつい手癖の悪さを発揮してしまい、彼女の首飾りを盗んでしまう。それを見てガジョーダルは「お前は大きな・・・あれだな」と言う台詞がオチになっていた。劇中でガジョーダルは父親に対し「ダラム」と呼び捨てにしており、「お前は大きな下衆(カミーナー)だな」と何度か口にする。だが、母親の前でその言葉を発するのを躊躇した。小さなシーンであったが、この部分にガジョーダルの更正が暗示されており、ここだけでも台詞の良さの証明となる。

 全体的に楽しい映画だったが、クライマックスの格闘シーンは手抜きだと感じた。ここまで非常にスムーズに進んでいたのに、クライマックスの部分で安物コメディー映画のようなまとめ方をしてしまっていたのは残念だった。サニー・デーオールもパワーアップし過ぎだと感じた。「Heroes」で既に人間とは思えなかったが、それを越える超人的パワーを身に付けてしまっていた。一体どこまで進化するのか?

 サニー・デーオールは大ヒット作「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)で一躍トップスターに躍り出た筋肉派男優だが、その後目立ったヒットはない。ボビー・デーオールに至ってはインド映画史に名を残すような代表作を得ていない。「Yamla Pagla Deewana」がそこまでの大ヒットになることはないと思うが、それでもこの兄弟のキャリア上プラスに働くことになるだろう。何より父ダルメーンドラとこの兄弟がとても仲がいいであろうことがスクリーンを見ていてしみじみ伝わって来る。前述の通り、それがこの映画の成功の大きな原因だと評価して間違いないだろう。

 また、劇中の世界では、ダラム、パラムヴィール、ガジョーダルと、ダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオールがパラレルで存在することになっており、それがネタになっているシーンがいくつかあった。ダラムがダルメーンドラを念頭に「昔は女の子は皆、オレの写真を枕の下に置いて寝ていたんだ」と言ったり、ガジョーダルが「ダルメーンドラとサニー・デーオールが戦っているときにボビー・デーオールの出番はない。ただロマンスするだけさ」と言ったりしていた。こういうネタが出来るところも開き直りのおかげだと感じた。

 ヒロインのクルラージ・ランダーワーの出番は主に前半に集中していた。細身で知的な印象を与える女優であった。今後大きく開花する可能性は強く感じなかったが、少なくともこの映画にはうまく溶け込んでいたし、本物のパンジャービーであるため、適役であった。

 音楽は複数の音楽家による合作。ナウマーン・ジャーヴェード作曲「Charha De Rang」が白眉の出来で名曲。アヌ・マリク作曲「Tinku Jiya」や「Chamki Jawaani」、ラーフルBセート作曲「Son Titariya」などはダンスナンバーとなっている。ご機嫌なタイトルソングはRDB作曲、「Sau Baar」はサンデーシュ・シャンデーリヤー作曲。

 基本的にヒンディー語の映画だが、後半パティヤーラーのシーンではパンジャービー語やパンジャービー語訛りのヒンディー語が入るため、聴き取りは多少難しい。田舎では、どんなにいい加減でも英語を話すだけでもてはやされるということが面白おかしく描写されたシーンもいくつかあった。

 「Yamla Pagla Deewana」は最近少なくなった直球のヒンディー語娯楽映画。ダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオール親子のコンビネーションが最大の見所。ストーリーに斬新なツイストはないが、十分な笑いと涙は保証。観て損はないだろう。