Toonpur Ka Superrhero

3.5

 インド初の子供向け商業映画はヴィシャール・バールドワージ監督「Makdee」(2002年)だった。それ以降、インド映画界ではちらほらと子供向け映画が作られるようになり、今や立派な1ジャンルとして確立した。子供向け映画の勃興と切っても切り離せないのがアニメ映画の発展である。インドではアニメは子供の見るものという概念が強く、アニメ映画と言ったら自動的に子供向け映画となる。インドで人気の猿の神様ハヌマーンを主人公とした「Hanuman」(2005年)がヒットしたことで、続々とアニメ映画が作られることになった。「Hanuman」は2Dアニメだったが、インド人には3Dアニメの方が相性が良いようで、初の3Dアニメ映画「Roadside Romeo」(2008年)以降、アニメ映画のほとんどは3Dアニメとなった。既に「Roadside Romeo」でインドのアニメ映画はひとつの完成形を見たが、以後も新たな試みが行われている。2010年12月24日公開の「Toonpur Ka Superrhero」は、3Dアニメと生身の俳優の共演に挑戦。主演はアジャイ・デーヴガンとカージョールの夫妻。ストーリーが、シャールク・カーン主演の新作「Ra. One」と似ていることも話題になっている。ちなみに題名の「Superrhero」は誤植ではなく、正式タイトルの綴りである。

 私事だが、ちょうどいい時期に「Toonpur Ka Superrhero」が公開されたので、これを機に息子の明日真をインド映画館デビューさせた。生後6ヶ月でインド映画を鑑賞。飽きて暴れ出さないか不安だったが、終始じっとスクリーンに見入っていた。「Toonpur Ka Superrhero」が意外に面白かったのも功を奏したかもしれない?少なくとも同日公開の「Tees Maar Khan」(2010年)で映画館デビューをさせなくてよかったと思っている。

監督:キリート・クラーナー
制作:クリシカー・ルッラー、クマール・マンガト・パトナーイク
音楽:アヌ・マリク
出演:アジャイ・デーヴガン、カージョル、アミー・パーンディヤ、チンキー・ジャイスワール、ムケーシュ・ティワーリー、サンジャイ・ミシュラー、タヌージャー(特別出演)、ラザー・ムラード(特別出演)
備考:DTスター・ヴァサントクンジで鑑賞。

 アーディティヤ・カプール(アジャイ・デーヴガン)は映画界のスーパースター。その名を知らぬ者はおらず、世界中にファンがいた。アーディティヤはプリヤー(カージョール)と結婚しており、二人の間には長男カビール(アミー・パーンディヤ)と長女ラーイマー(チンキー・ジャイスワール)がいた。ところが息子のカビールは、父親が仕事で運動会に来られなかったことに腹を立て、スタントマンにスタントをさせているアーディティヤに対し、「偽物のヒーロー」のレッテルを貼る。その言葉にショックを受けたアーディティヤは、何とか名誉挽回出来ないか模索するようになる。

 一方、アニメの町トゥンプルでは、ジャガーローという羅刹がトゥナースルと呼ばれる手下たちを使ってトゥネーシュワル王を拉致し、圧政を敷いていた。困り果てた善良市民デーヴトゥンたちは、アーディティヤをトゥンプルに呼ぶことにする。だが、普通にコンタクトしたらアーディティヤの空き時間は2017年にならないとなかった。そこでデーヴトゥンたちはアーディティヤを眠らせて誘拐する。

 アーディティヤは最初自分がアニメの町にやって来てしまったことを信じられないが、一応デーヴトゥンたちを助けることにする。最初はガーンディーギーリー(ガーンディー主義的手法)でジャガーローに和平を訴えるが返り討ちにされる。そこでアーディティヤは作戦を練ることにする。また、アーディティヤはチャットによってプリヤー、カビール、ラーイマーと交信することに成功する。

 アニメの町のキャラクターは誰も死なないことになっている。だが、消去されることはある。その鍵を握っているのがラブラージで、彼の持つデーヴァーストラさえあれば消去が可能だった。だが、ラブラージを呼び出すマントラを知っているのはトゥネーシュワル王のみだった。アーディティヤはまずトゥネーシュワル王を救出するが、その際に数人のデーヴトゥンが捕まってしまう。アーディティヤはラブラージを呼び出す。なんとラブラージはアーディティヤの大ファンで話が早かった。アーディティヤは巧みにラブラージからデーヴァーストラを借り受ける。だが、デーヴァーストラは1回のみしか使えなかった。

 アーディティヤはデーヴァーストラを持ってジャガーローのアジトに乗り込む。だが、ジャガーローも既に対策を採っていた。プリヤー、カビール、ラーイマーを人質に取っていたのである。そこでアーディティヤはゲーム好きなジャガーローと、デーヴァーストラと人質を巡って、ゲーム対決をすることにする。1回戦でプリヤーを救出し、2回戦でラーイマーを助け出した。そして最終戦に臨むアーディティヤの前に立ちはだかったのはジャガーロー自身であった。アーディティヤはカビールの協力を受けながら隙を見てジャガーローにデーヴァーストラを使い消去する。こうしてトゥンプルに平和が戻って来た。トゥンプルにはアーディティヤの銅像が立ち、アーディティヤはトゥネーシュワル王からトゥンプル・ラトナ勲章を受ける。何よりアーディティヤは一連の事件を通じ、子供たちの前で真のヒーローであることを証明したのだった。

 映画の世界では悪漢を次々となぎ倒し、実生活でスーパースターの名をほしいままにしていた主人公アーディティヤは、息子から「偽物のヒーロー」と呼ばれたことで、どんなに世間からスーパースターとあがめられようとも、家族からヒーロー扱いされなければ何の意味もないと感じる。こんな少ししんみりした導入部から始まる映画だが、現代っ子の琴線に触れるような種々の娯楽要素がてんこ盛りで飽きさせない展開が続き、とても面白い映画に仕上がっていた。基本的に子供向け映画だが、インドの政治・社会・娯楽業界をネタにしたパロディーも満載で、大人が見ても十分楽しめる内容となっている。

 この映画のまず面白い点は、コンピューターやテレビゲームと言った、現代の子供たちに欠かせないガジェットが映画中にうまく組み込まれていたことである。トゥンプルにいるアーディティヤと現実世界にいるプリヤー、カビール、ラーイマーがビデオチャットで交信したり、悪玉ジャガーローとの対決をテレビゲーム風のバーチャル空間で行ったりしていた。そもそもアニメの世界に入ってしまうという設定も子供にとっては大いに興味をそそられるものであろう。随所に見られるヒンディー語映画のパロディーやオマージュをひとつひとつ吟味するのも面白い。

 トゥンプルのキャラクターたちも面白かった。しかも各人が特徴あるしゃべり方をする点が芸が細かかった。ヒンディー語映画大好きのサルダール・ボーイ、ボリーはパンジャービー語、音痴歌手ガッピー・ラーヒリーはベンガリー語、巨大おばさんビッグ・ベンはグジャラーティー語、悪徳警官風警官はマラーティー語、ミス・トゥンプルのラヴィーナーはコーンカニー語、コンピューター・マニアの青年はタミル語の訛りのあるヒンディー語を話していた。いくつかのキャラクターは実在の人物をモデルにしていた。ガッピ-・ラーヒリーは歌手バッピー・ラーヒリーをモデルにしているのは明らかであるし、ビハール州の政治家ラールー・プラサードをモデルにしたようなキャラクターもいた。日本の力士のような悪役キャラもいたが、なぜか仲間たちからは中国人と呼ばれていた。

 正義が悪を倒すという王道ストーリーだったが、まずは「Lage Raho Munna Bhai」(2006年)で有名になったガーンディーギーリー(ガーンディー主義的手法)でジャガーローを説得しようとしたり、暴力よりもシェイクハンドを重視してストーリーを締めたりしており、基本的に非暴力の立場に立った映画だった点も良かった。

 3Dアニメの出来は「Roadside Romeo」以上であり、動きもスムーズだった。実写との合成ではまだぎこちない点があったが、十分合格レベルだろう。インドのアニメ技術の成長ぶりには驚かされる。

 アジャイ・デーヴガンは、スーパーヒーローとしての存在感・説得力はあまりなかったものの、アニメとの共演を楽しんで演じていた。「デーヴガン」に関するギャグもあった。出番は少なかったがカージョールもすっかり母親っぽくなっていて、うまくヒロイン女優から脱皮したと感じた。この二人の共演はアジャイ・デーヴガン初監督作「U Me Aur Hum」(2008年)以来だが、「Toonpur Ka Superrhero」の方がより夫婦としての絆が感じられた。また、カージョルの母親タヌージャーが特別出演している。

 音楽はすっかりご無沙汰となったアヌ・マリク。映画のストーリーや雰囲気に合った楽しい音楽が多かった。

 前述の通り、トゥンプルの住人たちはそれぞれ訛りのあるヒンディー語を話すので、子供向けアニメ映画ながらヒンディー語の聴き取りは困難な部類に入る。

 「Toonpur Ka Superrhero」は、話題作「Tees Maar Khan」と同時公開されたが、意外や意外、こちらの方がよっぽどか楽しめる映画になっていた。2時間に満たない短い映画だが、密度の濃い時間を過ごすことが出来るだろう。インドのアニメ技術の最先端を知る目的でも「Toonpur Ka Superrhero」は最適の作品。観て損はない。